米国のバイデン政権が大胆な措置に打って出た。バイデン政権は5月14日、米国が輸入している日本円にして2兆8000億円相当の中国製品に対する関税を引き上げると発表した。

今回引き上げ対象となるものは多岐に渡るが、たとえば、中国製EV(電機自動車)が25%から100%に、太陽光発電に使用される太陽電池が25%から50%に、車載用電池、鉄鋼、アルミニウムが7.5%から25%にそれぞれ引き上げられ、自動車や家電製品などに幅広く使われる旧型のレガシー半導体もその対象となった。

今回の決定は、不公正な貿易政策に撤する国家への制裁を認める米通商法301条に基づくものだが、米中貿易摩擦の発端となったトランプ政権は2018年から4回にわたって計3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課す措置を実行し、大統領に返り咲けば中国製品に対する関税を一律60%引き上げると豪語しており、要は、秋の大統領選挙でどちらが勝っても米中貿易戦争は続くことになる。

そして、今回の関税引き上げでは非先端のレガシー半導体も対象となったことから、バイデン政権が中国の半導体産業そのものを衰退させようという政治的狙いが見え隠れする。

米中の間で半導体を巡る覇権競争がエスカレートした発端は、一昨年10月に遡る。バイデン政権は中国が先端半導体を駆使して人民解放軍のハイテク化を進めようとしていることを警戒し、中国による先端半導体そのものの獲得、製造に必要な材料や技術、専門家の流出などを防止するための輸出規制を強化した。“中国に先端半導体を渡さない、作らせない”という措置だ。しかし、米国一国では抑えきれず、依然として抜け道があるとして、バイデン政権は去年1月、先端半導体の製造装置で高い技術力を誇るオランダと日本に同規制に協力するよう要請し、日本は昨年7月下旬から先端半導体の製造装置など23品目で中国への輸出規制を開始した。その後、オランダも同様に対中規制を始めた。

だが、バイデン政権はまだまだ規制を強化するべきとして、圧力を掛けている。2024年4月には、先端半導体分野の競争での優位性を維持するためにオランダ政府に対して同国の半導体製造装置大手ASMLによる中国での一部サービスを停止するよう圧力を掛けた。また、米国の同盟国である韓国やドイツに対しても、先端半導体分野での対中規制に加わるよう要請した。

そのような中、バイデン政権は先端だけでなく、非先端のレガシー半導体分野でも貿易規制を強化する方針を打ち出したことからも見て取れるが、先端、非先端を超え中国の半導体産業そのものを衰退させる方向に舵を切っている。

2025年1月に米国では新政権が誕生するが、どちらが大統領になっても中国の半導体産業そのものを衰退させようとする米国の貿易規制は間違いなく強化されることだろう。そして、日本などの同盟国は、先端だけでなく非先端の半導体分野でも米国からの同調圧力に直面する可能性がある。