東京大学(東大)とSOLIZEは6月3日、金属3Dプリンティングの金属積層造形プロセスを高速で最適化するためのその場観察技術を開発し、試作中のサンプルを取り外すことなく、天面を1回撮像して画像処理するだけで、その内部構造を3次元的に従来よりも18分の1の時間で予測することに成功したことを発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科の長藤圭介准教授、同・趙漠居講師、同・大河原崚大学院生(研究当時)、SOLIZEの西来路正彦研究員、同・吉﨑寛研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、国際生産工学アカデミーが刊行する製造技術に関する全般を扱う学術誌「CIRP Annals - Manufacturing Technology」に掲載された。
金属3Dプリンティングは、金属粉を層状に敷き、レーザーを走査させてそれを溶融・凝固を選択的に行うことを繰り返すことで、三次元構造を形成する製造技術。切削加工や型成形加工ではできない複雑な構造を造形できることから、複雑な冷却流路を有する金型や、骨組織のアンカリング構造を有する人工関節の部品など、近年はその応用範囲の広がりを見せている。
しかし、徐々に活用が進む金属3Dプリンティングだが、利用面での課題として、レーザーのパワーやスキャン速度など、パラメータの選択肢の数が膨大なため、それを探索するには作業者の勘・コツ・経験などに頼らざるを得ないという、ベテラン職人のような人材を必要とするといったことなどがあるという。この課題解決に向けて研究チームは今回、多孔質構造の3Dプリンティング試作中のサンプルの天面を1回撮像して画像処理するだけで、内部の構造を予測するという金属3Dプリンティングをさらに活用するための技術を開発することにしたという。
具体的には、三次元構造をX線CTで解析し、「空隙率」と「平均孔径」を算出し、その結果に合うような、天面撮像方法と画像処理を行うことで、内部の構造を予測する技術が開発された。この手法を用いることで、試作サンプルを取り外すことなく、1回の撮像で内部の構造を予測することが可能になったという。
また、この手法を活用することにより、同時に25個の試作を行った場合において、単純にX線CT撮像を行う場合と比較して、18分の1の測定時間で予測できるようになり、三次元画像を二次元画像から予測する予測確率に相当する「決定係数」は0.88を達成したとしている。ちなみに、開発における役割分担は、東大がX線CT撮像関連、SOLIZEがサンプル作製および光学顕微鏡撮影をそれぞれ担当し、両者が協力して予測アルゴリズムの開発を行ったとしている。
なお、研究チームでは今回の手法について、膨大なプロセスパラメータ候補から素早く最適化する、つまり探索をハイスループット化する「プロセスインフォマティクス」の計測方法として有用な方法であり、新たなプロセスを発見するための強力なツールになり得るとしているほか、製造パラメータの最適化のための開発期間を飛躍的に短縮できるものとして期待されるとしている。また、今回の研究対象となったのは航空宇宙分野の次世代の熱交換器を対象としたステンレス材料の多孔質構造だが、今回の手法は、高強度構造や高耐食性構造にも適用でき、医療分野やモビリティ分野などにも貢献できるとしている。