三菱電機は2024年5月29日、「IR Day 2024」を開催し、同社の半導体・デバイス事業戦略について説明した。
同社では、パワーデバイス事業を重点成長事業に位置づけており、成長投資を加速しているところだ。2025年度のパワーデバイス事業の売上高は2400億円以上、営業利益率10%以上の中期経営計画目標を掲げていたが、これを2023年度に前倒しで達成。新たな計画として、売上高2600億円および営業利益率10%以上を掲げた。また、半導体・デバイス事業全体では、2025年度に売上高3000億円、営業利益率12%を目指す。
三菱電機 上席執行役員 半導体・デバイス事業本部長の竹見政義氏は、「収益力の強化と、次の成長に向けた事業基盤構築を継続的に推進するとともに、三菱電機が強みとするSiCパワーモジュールを核とした成長基盤の強化に取り組み、事業成長を加速させる」との姿勢を示した。
成長戦略の実現に向けては、生産能力の増強に加え、サプライチェーンにおける他社との垂直連携や、アライアンスの強化も実施し、部材調達から製品開発、販売までを網羅した具体的施策を着実に実行していることも強調した。
三菱電機の半導体・デバイス事業は、「パワーデバイス事業」と「高周波・光デバイス事業」で構成されている。売上構成比の85%が「パワーデバイス事業」で、12%が「高周波・光デバイス事業」となっている。
パワーデバイス事業では、効率的な電力制御とモーター制御を行い、Siに加えて、SiCのラインアップを拡充している。特にSiCパワーモジュールは、電気自動車への搭載が増加し、需要が急拡大しているほか、エアコンなどの民生機器、産業用機器、電鉄などのさまざまな応用分野へと市場が広がっており、「再生可能エネルギーの導入やグリーンモビリティへの転換、省エネルギー化の進展によって、パワー半導体市場は大きく拡大しており、あらゆる機器の省エネ化を実現することで、カーボンニュートラルに貢献できる」としている。
パワー半導体は、ディスクリートよりも、モジュールの市場成長率が高く、三菱電機では長期間に渡って、モジュール分野に注力してきた強みを生かしたいとする。実際、民生用IPMでは世界1位、電鉄用フルSiCモジュールで第1位、SiおよびSiCを合算したパワーモジュール全体でも第2位のシェアを持つ。
「高い性能と品質を実現する設計技術と、製造技術の複雑な擦り合わせノウハウが強みであり、SiおよびSiCともにパワーモジュールの豊富な市場実績と強固な顧客基盤を構築している。これらの強みを生かして、高品質で競争力の高い製品を提供する」と述べた。
一方の「高周波・光デバイス事業」は、同社のコアコンピタンスである化合物半導体技術を、さまざまな用途に応用し、5G通信やデータセンターなどの情報通信分野、防犯や見守り、空調システムなどのセンシング分野をターゲットとした製品を提供。今後も化合物半導体の特性を生かして、新たな価値を創出することで、安心安全、快適な暮らしを支えるキーデバイスとして、デジタル社会の実現にも貢献していくことを強調した。
特に、データセンター向け光デバイスでは、生成AIやクラウドサービスの活用の広がりに伴い、データセンター向け光ネットワークの高速化、大容量化のニーズが拡大。三菱電機が得意とする超高速領域での動作が可能な光デバイスの需要が急拡大しているという。
同社によると、GAFAMなどのハイパースケールデータセンターや、NVIDIAのGPUを搭載したAIシステムに必要とされる高速大容量化のニーズにタイムリーに対応することで、データセンター向け光デバイスで半数近くのシェアを確保し、圧倒的な占有率を誇っているという。
「光デバイス市場での長年の実績によって培われた高い製品力に加えて、市場をリードする業界トップ企業との緊密なパイプがあること、化合物半導体の高度な製造技術とノウハウを有していることが強みになっている。今後も技術トレンドをリードする革新的な光デバイスを他社に先駆けて市場投入することで、現在のポジションをさらに強固にしていく」と自信をみせた。
今後の成長のカギを握るSiC事業
このほか、今後のパワーデバイスの成長戦略についても触れている。
三菱電機のSiCパワーモジュールは、同社が高度な化合物半導体技術と、世界最高水準の低損失化を実現するチップ技術、業界をリードする小型軽量化のモジュール技術が強みになっている。
「SiCは素材の性質上、基板に欠陥が多く存在し、高い品質や生産性確保には高度なプロセス技術が必要になる。三菱電機は、高周波・光デバイス事業で培った高度なエピ・プロセス技術を持っており、独自の高精度なスクリーニング技術のと組み合わせにより、高い信頼性と品質、生産性を実現している。また、独自のトレンチ型SiC-MOSFETにより、素子抵抗率で約50%の低減を実現。xEVの航続距離の延長とシステムコストの低減が可能になる。これからも改良を加えて、製品価値の継続的な向上を図る」とする。
その一方で、これまでに課題としていた収益力の強化と、次の成長に向けた事業基盤構築にも取り組むほか、2030年度には、SiCの売上比率を30%以上に高め、同社が得意としている領域を核とした売上拡大を目指す。
三菱電機の竹見氏は、「パワーデバイス事業の基本戦略は、三菱電機の強みと市場ニーズが合致する分野に、リソースを集中することである。産業分野と電鉄分野をベースにし、自動車分野と再生エネルギー分野、民生分野を成長領域に位置づけ、製品開発、生産、販売などの強化を図ることで、売り上げを拡大する」との考えを示した。
三菱電機では、パワーデバイスにおいて、約2600億円の生産体制の強化策を発表しており、今後は、調達や製品、販売力強化においても、具体的な施策を推進することになるという。
すでに、熊本県泗水地区にSiCの8インチ製品に対応した新棟を建設しており、竣工時期を2025年9月に前倒し、2025年11月に稼働することを決定したほか、米Coherentとの垂直連携によって、SiCの8インチ基板の安定調達を図るほか、Nexperiaとのアライアンス強化によるSiCディスクリートの販路拡大を発表。Siにおいては、福山工場での300mm(12インチ)生産ラインの整備を推進。モジュールの戦略製品として、自動車向けのJ3シリーズを投入する。
「J3シリーズは、SiおよびSiCの両方のパッケージで投入する。従来品に比べて約40%の小型化が可能であり、xEVの航続距離の延伸と、設計の容易化も実現することができる。2030年度までの成長を牽引する製品になる」と述べた。
Coherentとの連携では、2023年12月に、同社のSiC事業会社に対して約750億円を出資している。
今後は、SiCパワーモジュールの需要が増大するともに、さまざまな用途で利用されることを想定。xEVや充電ステーションのほか、ロボットや洋上風力、HVDC(/高圧直流送電)、エアコンなどにも用途を拡大させていく考えだ。
「三菱電機の強みを活かし、競争力が高いSiCパワーモジュールを幅広い分野に提供し、GXの実現に貢献する。また、三菱電機グループ自らが半導体を活用するユーザーであるという知見を取り込み、顧客目線で付加価値の高いデバイスを開発していく。価値を認めてもらえるお客様と、しっかりと関係を作っていく。市場競争力を維持し、持続的な成長を維持していく」と語った。
なお、GaNについては、現時点については、慎重な見方をしているが、SiCの次期素材として、酸化ガリウムに対する技術投資を進めていることにも触れた。同社では、酸化ガリウムウエハの開発、製造、販売を行うノベルクリスタルテクノロジーへの出資を発表している。