脊椎動物の生命の初期段階である胚細胞で起こる細胞分裂を、メダカの受精卵を一定間隔で写真撮影しコマ送り動画にした「タイムラプス」で観察することに、沖縄科学技術大学院大学の清光智美准教授(細胞生物学)らのグループが成功した。これまで難しかった生きたまま胚形成中の細胞を追跡できる手法を確立。細胞分化が比較的進んでから起こる体細胞分裂とは違う仕組みであることがわかった。胚細胞の発生過程を詳細に解明していくことで、将来的にはヒトの不妊症の診断・治療法開発にもつなげたいという。

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    分裂する胚細胞(左から受精したばかりの1細胞期と2細胞期、4細胞期、8細胞期)。白い点に見える部分が染色体で、染色体から鉄アレイのような形に広がった紡錘体が強く緑色に光る(沖縄科学技術大学院大学提供)

細胞分裂は、皮膚細胞や筋肉細胞のような特殊な機能を持つ体細胞での研究が進んでいる。細胞分裂装置となる紡錘体の中心的役割を担う細胞小器官で2個ある「中心体」それぞれからタンパク質繊維が集まってできた紡錘糸が伸びて細胞の真ん中で染色体にくっつき、分裂の際に生じる娘細胞に染色体を均等に分配する。その様子を描いたイラストは高校の教科書などに載っている。

ただ、メスの生殖細胞に中心体はなく、これまでに「Ran-GTP」という分子が分裂に関わることが分かっている。一方、精子には中心体のもとが含まれており、受精した胚細胞は中心体とRan-GTPが存在する状況で細胞分裂を行うことになる。両分子がある状況で短期間に胚細胞が1、2、4、8、16と倍々に分裂していく仕組みは、体細胞とは異なるのではないかと清光准教授らは考えた。

胚細胞の分裂を観察する例としてはカエルの胚発生があるが、細胞に色がついていて内部が見えず、分裂の段階ごとに薬品を加えて固定するため死滅した細胞をみていくという難点がある。そこで、清光准教授らは細胞を生きたまま観察する方法を模索。まず材料として透明な胚細胞をもつ魚類の中から、ミナミメダカに目を付けた。

ミナミメダカは毎日卵を産むため、観察資料が得やすい。また、染色体と分裂に関わるタンパク質繊維を光らせる蛍光タンパクを入れるゲノム編集を行うのにも適した比較的小さなゲノムサイズをもつ。生存できる温度範囲も広く、室温で長時間生きたままの細胞を観察できる。こうした点からゲノム編集技術を使って遺伝子組み換えメダカを作製し、その胚細胞の分裂の仕組みを観察することにした。

観察手法としては新しいイメージング技術で、植物の成長動画などで使われるような、一定時間をあけて撮った写真を集めてコマ送り動画にしたタイムラプス撮影を企画。3分間隔で一つの胚細胞が数千の細胞に分裂する約10時間の写真を撮影した。

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    胚細胞の細胞分裂写真のコマ送り動画「タイムラプス」撮影に用いたミナミメダカ。毎日卵を産み、比較的小さなゲノムを持つ(沖縄科学技術大学院大学提供)

タイムラプス撮影の動画を確認すると、体細胞分裂で見られるのと同様に中心体から糸のようにタンパク質繊維が伸びるのに加え、細胞の中心に染色体が並んだ付近からも繊維が伸びていた。この現象には染色体の周囲で生成されているRan-GTPが関わっていることが分かった。

体細胞分裂で確認されている、染色体が分離前に正しく整列しているかチェックするシステムが無いことも判明した。それにもかかわらず「ミナミメダカの胚細胞は早く分裂が進むなかでも、染色体の分離が非常に正確」といい、「胚で染色体が均等に分かれる複雑なプロセスを理解する研究を進める上で役立つ」と清光准教授は話す。

今後はミナミメダカの胚細胞の分裂の仕組みが、ヒトを含めた脊椎動物で一般化することが可能か検証するなどし、最終的にはヒトの胚発生の理解につなげていきたいという。

研究は名古屋大学や国立遺伝学研究所などと共同で行い、英オンライン科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に2月掲載された。

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