ものづくりの街として知られる新潟県三条市は、かねてより市民サービスの向上や業務効率化を目的にデジタル活用を進めてきた。2020年11月に滝沢亮氏が市長に就任したことを契機に、DXを推進する動きは加速。2023年10月には民間IT企業との提携を行い、IT人材の派遣を受ける取り組みも開始している。
トップダウンで始まったDXは、いかにして庁内に浸透したのか。そして今、どこまで広がりを見せているのか。今回、三条市 総務部 DX推進課 課長補佐の大竹芳弘氏、同 デジタルアシスタントオフィサーの青木僚児氏に、同市のDXの取り組みについてお話を伺った。
市民サービス向上のため、デジタル導入を促進
大竹氏は三条市のデジタル活用について、「三条市では比較的早い段階から、業務や手続きに手間がかかっていたり、マンパワーに頼っていたりするものをデジタル化し、事務の負担軽減に加え、その分で生まれた時間や労力を市民サービスの向上に使うという取り組みをしてきた」と説明する。市民向けには、マイナンバーカードによるコンビニエンスストアでの各種証明書の取得を推奨しているほか、選挙の投票受付に利用するなど、独自のサービスを全国に先駆けて複数実施している。庁内でも、県内の4つの自治体とともに基幹システムを共同で導入しており、「約10年間使用すると、従来独自システムにかかっていた費用を約50%削減できた」(大竹氏)という。
こうした取り組みをさらに後押しするきっかけになったのは、2020年11月に滝沢亮氏が市長に就任したことである。大竹氏によれば、就任以前、弁護士として活動していた滝沢氏は、初めて触れた市役所の業務の進め方に多くの課題を感じたそうだ。
慣例的だったコミュニケーションスタイルの見直し
滝沢氏が課題を感じたことの1つが、電話やメールでのコミュニケーションが中心であることだった。メールの文面は「お世話になっております。〇〇課の〇〇です」という挨拶文から始まり、気軽さやスピード感のあるやり取りができていない。そこで早速、ビジネスチャットツールの導入が検討された。
導入の大前提は、三条市が採用するネットワーク環境で使用できることである。自治体のネットワークは国主導の情報セキュリティ対策「三層分離」に従い、インターネットに接続できるネットワーク、個人情報などを扱う基幹システムのネットワーク、自治体のみが使用できる総合行政ネットワーク(LGWAN:Local Government Wide Area Network)の3つに分かれている。大竹氏によると、多くの自治体はLGWANを物理端末で接続し、インターネットは仮想端末で見るというアーキテクチャで構成しているという。しかし、三条市ではインターネットが手軽に使えないのは不便であると考え、インターネットを物理端末、LGWANを仮想端末でつなぐ構成をとった。こうしたことから、チャットツールの選定にあたってはまず、インターネット環境で利用できるツールを複数ピックアップし、それらの中から比較・検討したそうだ。