北海道大学(北大)は5月10日、生後3歳までの小児湿疹に影響を及ぼす出生前の室内環境因子を解明するため、妊娠中の室内環境とエコチル調査参加者の1歳半、3歳時点の小児湿疹の発症の関連について、小児湿疹に強い関連がある生後の室内環境要因と遺伝的要因である親のアレルギー歴も考慮して解析。

その結果、妊娠中にカビが生えている部屋数が多いこと、複合フローリング床材を使用していることが、生後の室内環境や両親のアレルギー歴に関係なく1歳半時点の湿疹と関連することを明らかにしたと発表した。

同成果は、北大 エコチル調査北海道ユニットセンター エコチル調査北海道ユニットセンターのアイツバマイゆふ特任准教授、同・岸玲子特別招へい教授/ユニットセンター長ら20名以上の研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、環境問題に関連する全般を扱う学術誌「Environmental Research」に掲載された。

エコチル調査は、化学物質の曝露やそのほかの環境要因が子どもの健康に与える影響を明らかにするため、環境省が2010年から全国の約10万組の親子を対象として行っている大規模かつ長期にわたる(胎児期~13歳)出生コホート調査。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯の生体試料を採取し保存・分析すると共に、追跡調査も行われており、子どもの健康と化学物質の環境要因との関係をこれまで多数明らかにしている。

また同調査では、国立環境研究所が研究の中心機関となり、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターが設置され、それに加えて日本各地で調査を行うために公募で選定された15の大学などに地域の調査の拠点となるユニットセンターが設置されており、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。

小児湿疹は子どもの生活の質(QOL)を低下させ、その後の成長発達にも関わる疾患。その病因には、遺伝的要因、皮膚表皮バリア機能低下、免疫異常の他、環境要因などがあると考えられている。環境要因のうち、子どもの住む住居の湿度環境の悪化(カビ、結露、水漏れなど)が、アトピー性皮膚炎や小児湿疹の発症要因の1つであることが、これまで多くの疫学研究で報告されていた。

しかし、出生前(母親の妊娠中)のどのような室内環境要因が生後の小児湿疹のリスクとなるかについて、遺伝的要因や生後の室内環境要因の影響を考慮して検討した研究はほとんどなかったという。そこで研究チームは今回、1歳半と3歳までの小児湿疹発症に関連する妊娠中の室内環境要因を明らかにすることを目的とした研究を行うことにしたという。。

今回の研究では、妊娠中の質問票調査に回答したエコチル調査参加者(妊婦10万4062名)から2011~2014年に生まれた子ども(9万6230名)のうち、出産後に引っ越しした者を除外した母児ペアを1歳半(7万1883組)、3歳(5万8639組)までの追跡調査が行われた。妊娠中のどのような室内環境要因が1歳半および3歳までの小児湿疹の発症と関連するかを解明するため、統計学の基本的手法である「多重ロジスティック回帰分析」を用いて検討したとする。

小児湿疹の発症率は1歳半で11.5%、3歳では12.2%だった。今回の研究では、室内5か所(居間、寝室、台所、トイレ、浴室)のうち、カビが発生しているか所をカビ指数0~5での評価が行われた。同指数が高いこと、ガス暖房の使用、複合フローリング床材の使用、殺虫剤の頻用が1歳半時点の湿疹のリスクを1.2~1.5倍高める結果だったという。3歳では高いカビ指数と複合フローリング床材の使用について、湿疹との関連が認められ、これは特に両親共にアレルギー歴がない場合で顕著だったとした。

さらに、小児湿疹のリスク要因である遺伝的要因や生後の室内環境要因(家庭内喫煙者、カビの発生)の影響を取り除いても、妊娠中の高いカビ指数と複合フローリング床材の使用と1歳半時点の湿疹の関連が認められたとする。しかし、この関連は3歳では認められなかったとした。これは、1歳半までは両親のアレルギー歴や生後の室内環境に関わらず、妊娠中の湿度環境および床材の影響が小児湿疹の発症に大きく寄与している可能性が示されており、一方で、3歳では妊娠中よりも生後の室内環境要因の影響の方が強いことを示唆しているとした。

今回の研究成果から、住居の床材は容易に変更できないものの、出産前から適切な湿度環境の維持を心がけることが小児湿疹の予防につながる可能性があるといえるとしている。

なお、今回の解析に用いられた情報はすべて自記式質問票から得られた情報であり、小児湿疹や室内環境について医師の診断や環境測定を行ったものではないとする。今後、より定量的に評価された情報を用いた結果の検証が期待されるとしている。