群馬大学(群大)と富山大学の両者は5月2日、出産後に母乳を通して子に渡される母親の抗体が脳に与える影響について、マウスを用いた動物実験を実施した結果、脳のさまざまな細胞の数が変動することや、マウスの社会性に影響を与えることが明らかになったと共同で発表した。
同成果は、群大大学院 医学系研究科 附属教育研究支援センターの定方哲史准教授、富山大 学術研究部 医学系 行動生理学講座の高雄啓三教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、免疫系と神経系の相互作用に関する全般を扱う学術誌「Journal of Neuroinflammation」に掲載された。
ヒトは生まれてから、さまざまな病気にかかることで(さまざまな病原体が体内に侵入してくることで)免疫を獲得していく仕組みを持つ。それ以外にも、胎児期や乳児期に母親から抗体をもらい受けるという仕組みも備えている。母親の抗体が、妊娠中に胎盤を経由して胎児に渡され、そして出産後も母乳により渡されるのである。よく、乳児には初乳(出産後数日して出始める濃い黄色をした母乳)を飲ませることがとても望ましいとされるが、初乳に多くの免疫物質が含まれていることが大きな理由である。
こうして母親からもらい受けた抗体が、子どもの免疫力を高めることはわかっていたものの、それが子どもの脳に与える影響についてはこれまで研究がなされていなかったという。そこで研究チームは今回、マウスを用いて、母親の抗体が子どもの脳にどのような影響を与えるのかについて調べることにしたとする。
幼児期のマウスの脳を調べたところ、脳の細胞の一種で、異物の除去や栄養因子の分泌などを行っている「ミクログリア細胞」に、母親の抗体が結合していることが発見されたとした。また、抗体が結合したミクログリア細胞は、免疫応答に関係するサイトカイン(細胞間でやり取りされるさまざまな生理活性を持つタンパク質)の一種である「I型インターフェロン」を分泌することが確認されたという。
それを受けて、次に、母親の抗体が子どもに渡されない特殊なマウスが遺伝子改変技術により作製され、その子どもの脳が調べられた。すると、子マウスの脳の特定のニューロン(神経細胞)や、その周囲で補佐をする役割を担う「グリア細胞」の密度に変化があることがわかったとする。それに加え、それらのマウスの行動解析が行われたところ、社会性行動に違いがあることが観察されたとした。母親の抗体をもらえなかったマウスは、通常のマウスに比べ、ほかのマウスに接触する時間が増えていたとしている。
今回の研究成果に対して研究チームは、ヒトに置き換えた場合を考えると、母親の抗体が子どもの脳の発達に対し、良い影響を与えているのか、悪い影響を与えているのかについては解釈が難しいとし、さらなる研究を進め今後明らかにしていくことを考えているとしている。