九州大学(九大)と国立天文台(NAOJ)は4月11日、地球から約450光年という、星の誕生現場としては最も近くにある「おうし座分子雲」の分子雲コア「MC27」に潜む原始星をアルマ望遠鏡で観測した結果、同星を取り巻く「原始星円盤」(「原始惑星系円盤」の前段階)から数天文単位の大きさを持つ「棘(とげ)」のようなものが存在していることを観測。円盤の縁に磁力が集中した際に重力中心の原始星から外側に向かう浮力が働き、突発的な爆発現象のようにして短時間で磁束が放出されることから、ヒトの「くしゃみ」にも似た現象であることがわかったと共同で発表した。

同成果は、九大大学院 理学研究院 地球惑星科学部門兼国立天文台アルマプロジェクトの徳田一起学術研究員/特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

宇宙空間には、水素を主とする星間ガスが漂っており、それらが一際豊富に存在する場所が分子雲である。その中でもさらに濃度が増した領域が分子雲コアと呼ばれ、太陽などの星の卵となる。

分子雲コアのガスは部分的に電離しており、ガスは磁場とお互いに影響を及ぼし合いながら運動することがわかっている(ガスと磁場は(強く)結合している)。そのことから、ガスは磁力線に貫かれていると考えられており、分子雲コアが収縮して原始星が誕生する際には、磁力線が束ねられた「磁束」も一緒に持ち込まれる。

  • アルマ望遠鏡の観測に基づいて描かれた、原始星(明るい方の円盤の中心)からくしゃみによって、円盤の端から磁束が放出される様子のイメージ

    アルマ望遠鏡の観測に基づいて描かれた、原始星(明るい方の円盤の中心)からくしゃみによって、円盤の端から磁束が放出される様子のイメージ。(c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

しかし、この磁束を全部持ち込んでしまうと、現在の太陽や知られている原始星が持つものよりも何桁も大きい磁力(1000万ガウス)が発生してしまうため、星が誕生する過程で磁束を外に捨て去る必要があるという。磁束がどのようなメカニズムで捨て去られているのかは、現時点ではさまざまな議論があり、「磁束問題」と呼ばれている(星が誕生するには、分子雲コアの回転の勢いを捨て去る「角運動量問題」と、磁束を捨て去る「磁束問題」という、2つの大きな問題を解決する必要がある)。

磁束問題に関して、従来は重力で原始星にガスが集まる時間と同程度の長い時間尺度で、円盤を通して一定の割合でじわじわと磁束が抜かれて磁力が弱まっていくという考え方が主流だった。しかし研究チームが今回、アルマ望遠鏡を用いて、おうし座分子雲の分子雲コアMC27に潜む原始星に対する、非常に高い解像度の観測を行ったところ、従来の考え方とは異なる、一気に磁束を捨て去ったと思われる特徴を発見。当初は予想されていなかった、原始星周囲の円盤から数天文単位の大きさを持つ棘のようなものがあったという。

  • 過去の観測で明らかになっていた、原始星を取り巻く弓状ガス雲

    (a)過去の観測で明らかになっていた、原始星を取り巻く弓状ガス雲。画像はHCO+分子からの電波強度が示されている。(b)アルマ望遠鏡の最高解像度観測によって原始星の近傍がより詳しく観測された結果。画像は濃いガスに含まれる塵からの電波が表されている。原始星円盤に付随する棘のような特徴が見られる。(c)画像1の想像図と(b)の観測を比較・対応させ、各部位の説明を重ねたもの。(c) (a),(b) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Tokuda et al, (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

この観測結果に対し、理論的な研究との比較から研究チームが着目したのが、磁気流体不安定の1つである「交換型不安定性」という現象。同現象は、磁場の強さとガスの密度(またはガスの圧力)の比が重力の方向に対して急激に変化すると起こり、原始星円盤の場合は、円盤の縁に磁束が集中した際に、原始星から離れる方向に浮力が働くという。短いタイミングで一気に磁束(磁力)を放出することから、ほこりやウイルスを空気と共に一気に押し出すヒトのくしゃみにも似ているとした。この不安定性が起こった瞬間にガスの空洞が作られ、その空洞の端の濃い淀みのガスが棘として観測されたものと推測。まさに、磁束が抜ける現場を捉えたものだという。

また、このMC27では数千天文単位(太陽~海王星間が約30天文単位、1000天文単位は約0.016光年)に渡った弓状のガス雲も観測されていた。これは、過去のくしゃみによって生じた空洞が音速(毎秒200m)程度で成長した結果生じた構造と考えられ、過去に複数回のくしゃみをしていた可能性も同時に浮かび上がったとする。

  • 交換型不安定性前後のガスと磁束分布の変化

    交換型不安定性前後のガスと磁束分布の変化。くしゃみが起こる前は円盤の縁に磁場が拡散していき、降り積もってきたガスがさらに磁束を持ち込むため、円盤の端で相対的に磁場が強い場所ができる。円盤の縁に磁力が集中した際に重力中心の原始星から外側に向かう浮力が働き、突発的な爆発現象のようにして短時間で磁束が放出される(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

星の誕生を理解するためには、角運動量問題と磁束問題を解決する必要があることは上述した通り。角運動量問題に関しては、原始星の「うぶ声」と呼ばれる、原始星円盤の上下に噴き出すガスの「アウトフロー」が知られていた。それに対して磁束問題に関する現象は観測されていなかったが、今回初めて観測され、同問題解決の大きなヒントとなり得るとしている。

また、MC27で観測されたような大きな弓状構造自体は、近年、さまざまな原始星で発見されるようになってきていることから、研究者の予想を超えてくしゃみは頻繁に起こっている可能性があるとする。このくしゃみをする条件を、スーパーコンピュータを使った理論計算やアルマ望遠鏡による観測で、ほかの原始星の周囲のガス分布をさらに詳しく調べることにより、原始星の形成過程や惑星のもと(原始星円盤や原始惑星系円盤およびその中に含まれている微粒子などの物質の特徴)の理解が急速に進むことが期待されるとした。