大阪公立大学(大阪公大)は4月9日、「ヘルパー」と呼ばれる両親以外の個体が子育てを手伝う協同繁殖魚において、親は怠け者のヘルパーに罰を与えることを実証したと発表した。

同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の日髙諒大学院生、同・十川俊平特任研究員、同・幸田正典特任教授、同・安房田智司教授らの研究チームによるもの。詳細は、米・動物行動協会が刊行する動物の行動生態学に関する全般を扱う学術誌「Animal Behaviour」に掲載された。

  • 協同繁殖魚Neolamprologus savoryiのヘルパーと親

    協同繁殖魚Neolamprologus savoryiのヘルパー(左)と親(右)。(c)大阪公立大学大学院 理学研究科 日髙諒(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

ヒトの社会では秩序を維持するために、親のしつけから法律による刑罰に至るまで幅広くの罰があり、罰によって個人に社会生活の社会規範を守らせることで、社会の維持が図られている。

ヒト以外でも社会性の動物はおり、動物たちが協力的な社会をどのようにして維持しているのかの研究が行われている。そこで研究チームは今回、ヒトのように両親以外の個体(ヘルパー)が子育てを手伝う魚の協同繁殖に注目することにしたという。ヘルパーは自分の両親の子育てを手伝うこと(要は弟・妹の育児の協力をする)で親のなわばり内に滞在できると考えられており、手伝わない怠け者のヘルパーは親から罰を受ける可能性がある。研究チームはこれまで誰も行っていなかった複数の水槽実験操作を組み合わせ、罰の証明に取り組むことにしたという。

今回の実験では、協同繁殖魚「Neolamprologussavoryi savoryi」(ネオランプロログス サボリ)が用いられた。両親と、両親の子であるヘルパーの実験群を8つ作り、複数の方法でヘルパーの手伝い行動を妨げる操作が行われ、合計3種類の実験を行うことで、罰が存在するのかどうかが調べられた。3種類の実験内容は、以下の通り。なおヘルパーの手伝い行動とは、繁殖巣の掃除や、近づいてくる他種の追い払いなどである。

  1. 操作期間1でヘルパーがほかの水槽に隔離され、手伝いをできなくした後、操作期間2でもヘルパーを入れた透明なケースが水槽内に入れられ、ヘルパーが親のそばにいて手伝えない状態にされた。
  2. 操作期間1でも2でも、ヘルパーはほかの水槽に隔離され、手伝いができなくされた。

  3. 操作期間1でヘルパーは手伝えるが、操作期間2では透明なケース内に入れられ、親のそばにいても少しの期間手伝えない状態にされた。

  • 3つの操作実験

    3つの操作実験(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

すべての実験で、操作期間3にヘルパーが解放され、手伝えるようにされた。3つの操作期間には他種の侵入者が水槽内で提示され、他種の追い払いが手伝い行動となる。実験(1)はヘルパーがサボっている状態に、実験(2)ではサボってはいるが、親から攻撃を受ける前に手伝いができる状態に、実験(3)は実験(1)と実験(2)と比較できるように手伝いのできる状態とされた。

  • 実験で使用された水槽

    実験で使用された水槽(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

実験の結果、実験(1)では、操作期間1で手伝えなかったヘルパーは、操作期間2で親から長い時間攻撃を受け、その後、操作期間3で手伝い行動を長く行ったという。また、攻撃を長く受ければ受けるほどヘルパーは手伝い時間を長くしていることが確認された。実験(2)では、操作期間1、2で手伝えなかったにも関わらず、操作期間3で親の攻撃を受ける前に手伝いを増やすことで親からの攻撃が少なく済んでいたとする。実験(3)では、操作期間1で通常通り子育てを手伝えるヘルパーは、操作期間2で親から攻撃をあまり受けず、その後、操作期間3で通常通りの手伝いを行っていた。

  • 実験結果

    実験結果(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

親はヘルパーの手伝い行動を引き出すために攻撃すること、また、ヘルパーは親からの攻撃を回避するために、手伝いの先手を打ったことから、親の攻撃は罰として機能しているといえるという。世界中で霊長類をはじめ、幅広い分類群で罰の研究が進められているが、罰として機能する行動を実証した研究はほとんどなかったとする。魚が、ヒトと同じように罰を使って協力社会を維持していることが明らかにされた今回の成果は貴重な発見とした。研究チームは今回の成果から、協同繁殖魚をはじめ、多くの魚類が「罰」を用いて協力的な社会を維持しているのではないかと考えているという。

  • Neolamprologus savoryiのヘルパーと親

    Neolamprologus savoryiのヘルパー(下)と親(上:雄親、中央:雌親)。ザンビア・タンガニイカ湖で撮影されたもの。(c) 大阪公立大学大学院 理学研究科 日髙諒(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

今回の研究成果は、ヒトと同じように魚も相手の意図、目的を推測する高度な認知能力を有しており、状況に応じて行動を調整していることが示唆されるとする。研究チームの先行研究により、協同繁殖魚も含めたさまざまな魚類が、今まで考えられていた以上に複雑な個体間関係、つまり社会を維持し、またほかの個体を顔で識別し、鏡を見て自分がわかるというような高度な認知能力を有することが明らかにされた。研究チームは今後、複雑な社会を維持し、高度な認知能力を駆動する脳機能の解明も含めた「認知進化生態学」研究を継続し、魚の社会をさまざまな側面から解明していきたいとしている。