大阪大学(阪大)と科学技術振興機構(JST)の両者は4月8日、生体内部を観察できる新たな「超解像顕微法」を開発することに成功したと共同で発表した。
同成果は、阪大大学院 工学研究科の天満健太助教、同・桶谷亮介特任研究員(常勤)(現・九州大学 理学研究院 助教)、同・藤田克昌教授、阪大 産業科学研究所の永井健治教授、阪大大学院 医学系研究科の上西達也助教、阪大大学院 生命機能研究科の濱﨑万穂准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生命科学における実証済みの基礎研究手法の新しい手法と大幅な改良に関する学術誌「Nature Methods」に掲載された。
生体を高い解像度で観察できる超解像顕微法の中でも、縞状の光を照明とすることで空間分解能を向上させる「構造化照明顕微鏡」(SIM)は、比較的弱い光強度で低侵襲に高速な観察を行うことができるため、生体の構造や動態を観察するのに広く用いられている。しかし、生体内部では観察用対物レンズの焦点外から発生する背景光が観察の妨げとなるため、観察対象は試料の表層付近に限られていることが課題だったことから、研究チームは今回、その課題の解決を試みたとする。
今回の研究ではまず、観察用対物レンズの焦点よりも薄いシート状の照明と、発光状態のon/offを切り替え可能な光スイッチング蛍光タンパク質を用い、選択的に発光する領域を限定することで、生体内部における背景光の発生を抑制することに成功したという。その上で、限定された発光領域に縞状の光を照明して蛍光を検出することで、生体内部を超解像観察が可能な「シートアクティベーション型構造化照明顕微法」(SPA-SIM)を開発したとしている。
なおSPA-SIMを用いた実験では、生きた細胞の3次元観察を行い、従来法では背景光が重なり見えづらかった構造が、明瞭に観察できるようになったことが確認された。さらに、従来法では観察が難しかった「細胞スフェロイド」(複数個の細胞が球状の塊となった細胞凝集塊)の内部構造を、超解像観察することにも成功したという。また、SPA-SIMは観察面内方向に140nm、奥行き方向に300nmという3次元的に高い空間分解能を有することを、理論と実験の両面から確認したといい、今回の研究により、従来の超解像顕微法の利用が及ばなかった生体内部の観察が実現されたとした。
近年、上述した細胞スフェロイドや、オルガノイド(ミニチュア臓器)などの3次元多細胞組織が、生体発生や疾患の原因究明、また生体の薬剤応答の観察といった幅広い分野の研究において関心を集めているが、これまでは詳細な空間分布を観察することが困難だったという。しかし今回開発されたSPA-SIMであれば、それらを高い空間分解能で生きたまま観察することが可能とする。そのため研究チームは、SPA-SIMが、これまで見ることの叶わなかった現象を解明できる新たな技術となることが期待されるとしている。