東京大学(東大)と広島大学は4月5日、音楽の和音列を聴き取ることによって誘発される心身への効果を明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東大大学院 情報理工学系研究科の大黒達也准教授、広島大 脳・こころ・感性科学研究センターの田中政輝研究員、同・山脇成人特任教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、物理・生命科学・地球科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。
音楽は人類の歴史の中で非常に古くから存在しており、それを聴くと、身体が動いたり、楽しさや悲しさ、懐古といったさまざまな感情を引き起こしたりすることなどがわかっている。これまでの研究により、音楽が聴覚系のみならず、心拍変化や鳥肌などの身体感覚や「内受容感覚」(呼吸、心臓の鼓動、体温、胃腸の動きなどの生理的な状態に関する身体内部の感覚のこと)を引き起こすことが示されていたとする。しかし、音楽のどのような要素が、ヒトの心と身体にどのように影響を与えているかは、まだ解明されていない部分も多いという。そこで研究チームは今回、音楽を聴き取った時の主観的な身体感覚を調べることにしたとする。
今回の研究では、実験の参加者527人の成人を対象に、刺激などによって感じた身体の位置を答えるテストである「ボディマッピングテスト」により、和音列を聴き取った時の主観的な身体感覚が調べられた。
まず、音楽コーパス(890曲)を用いて、和音列の予測誤差と不確実性の一般モデルを作成し、同モデルを用いて、8種類の異なる予測誤差と不確実性の時間的な「ゆらぎ」を持った和音列刺激を作成。この8種類の和音列を、参加者はランダムな順序で聴き、聴取10秒以内に感じた身体の部位を回答していく。
それに加え、感情を判断するテストも2種類用意された。1つ目は33の分類から、各和音進行によって引き起こされた感情を複数選び、その強度の順位付けを行うというもので、2つ目は、快・不快と覚醒度の強さについてである。
このようにして得られた、8種類の和音列聴取に対応する身体感覚と感情反応が分析された結果、音楽の和音列の不確実性と予測誤差の特定の「ゆらぎ」が、心臓や腹部に限局的な身体感覚を引き起こすことが判明。さらにそれらの感覚が、美感や快の感情と強く関連していることも明らかにされた。
今回の研究は、ムーンショット目標9山脇プロジェクトの中核である音楽による内受容感覚の気づきAwareness Musicの効果について、和音進行の予測誤差処理による身体感覚への効果(内受容感覚の気づき)をボディマッピングテストを用いて検討が行われたもの。音楽には感性の根源である無意識レベルの内受容感覚の気づきを促す効果がある可能性が示唆され、音楽の心身を介した感性のメカニズム解明に大きく貢献する成果とした。
また今回の成果は、音楽がヒトの心と身体に及ぼす影響を理解するための手がかりとなるという。特に、音楽聴取によって引き起こされる身体感覚と精神的健康との関連についての洞察を提供するとした。今回の成果は、音楽がいかにヒトの心身に影響を与えているかの理解につながり、さらには、音楽を用いた心身への健康増進への応用が期待されるとしている。