龍谷大学は4月5日、2019年以降に地域絶滅した可能性が高いとされていた南西諸島の海棲ほ乳類「ジュゴン」について、野外で採取されたフンのDNA分析や遊泳個体の目撃情報から、現在も琉球列島に生息していることを突き止めたと発表した。

同成果は、沖縄県環境科学センター 総合環境研究所の小澤宏之所長、龍谷大 先端理工学部の丸山敦教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

  • 大型草食動物のフンが採取された場所、ジュゴンと思われる動物が目撃された場所、しすてジュゴンの餌跡が確認された場所もあったという

    大型草食動物のフンが採取された場所、ジュゴンと思われる動物が目撃された場所、しすてジュゴンの餌跡が確認された場所もあったという。なお、世界のジュゴンの分布図は、Marsh & Sobtzick,20191に基づいて作製された(出所:龍谷大Webサイト)

ジュゴンは日本の南西諸島の辺りを北限としており、暖かい海に棲息する海棲ほ乳類。世界的に個体数が大きく減っており、現在の南西諸島での生息状況は不明な部分が多かったという。そうした中、2019年に沖縄本島北部の今帰仁(なきじん)において死亡個体が見つかって以降、南西諸島のジュゴンは地域絶滅した可能性が高いことが危惧されていた。

ジュゴンの生息状況を調べるには、沿岸漁業者などからの目撃情報に加え、動物のフンを調べることも重要であるが、沖縄周辺の海域で見つかる大型草食動物のフンはアオウミガメのものが多く、その外見だけではジュゴンのものだと特定することができない。そのため、研究チームは今回、フンに含まれるDNAを調べることで、ジュゴンなのかそれ以外の動物なのかを調べることにしたとする。

今回の研究では、沖縄島東部の久志(くし)および宮古諸島の伊良部島佐和田で採取されたフンから、それぞれジュゴン固有の配列を持つDNAを検出することに成功したという。動物のフンには、その動物自身のDNA断片が含まれることがあり、PCRテストを用いて種ごとに固有の配列を検出することで、そのフンをした動物の正体を特定することが可能。なお、沖縄本島北部の屋那覇(やなは)島で採取されたフンからは、ジュゴンのDNAは検出されなかったとした。

  • 2019年9月26日に伊良部島沿岸部でジュゴンと思われる海洋動物の画像

    2019年9月26日に伊良部島沿岸部でジュゴンと思われる海洋動物の画像。今回の論文の著者の1人である吉浜隆宏氏がUAV(水中ドローン)で撮影したもの(出所:龍谷大Webサイト)

そして2010年以降のジュゴンそのものや、喰み跡の目撃情報などの整理が行われると、ジュゴンが琉球諸島の広い範囲(沖縄島周辺海域、宮古諸島、八重山諸島)に生息している可能性が確認されたという。ちなみにこれまでの目撃情報には、母子と思われる個体の遊泳情報も含まれており、琉球諸島で現在もジュゴンが繁殖していることが推察されたとした。

  • 2020年3月、伊良部島の沿岸部で発見されたジュゴンの餌跡の写真

    2020年3月、伊良部島の沿岸部で発見されたジュゴンの餌跡の写真(出所:龍谷大Webサイト)

なお、今回の研究で確認された沖縄島周辺での分布は、2019年の今帰仁村での死亡個体確認以来となる貴重なものである。また今回の研究で確認された宮古諸島での分布については、約半世紀ぶりの再確認となり、その点でも貴重だとした。

ジュゴンの移動能力は高いが、琉球諸島内での移動や、フィリピン集団からの移動の可能性もあるが、その詳細は現時点では不明だという。

謎の多いジュゴンの分布状況を知るには、地元の沿岸漁業者などから提供される目撃情報が有効だが、今回の研究成果からわかるように、合わせて海域で採取されたフンの分析を行うことで、より正確な情報を得ることが可能とする。研究チームは今後、今回の技術などを用いて日本における分布などについての研究を進めると共に、絶滅が危惧されるジュゴンや、その餌場となる海草藻場の保全対策に取り組んでいく必要があるとしている。