東京理科大学(理科大)は4月2日、デンソーとの共同研究により、これまでに報告されているどの酸化物固体電解質よりも幅広い温度域において高いリチウム(Li)イオン伝導度を持つパイクロア型の酸化物固体電解質「Li2-xLa(1+x)/3M2O6F(M=Nb,Ta)」を発見したことを発表した。

同成果は、理科大 創域理工学部 先端化学科の藤本憲次郎教授、同・相見晃久講師(現・防衛大学校所属)、デンソーの吉田周平博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料に関する化学の全般を扱う学術誌「Chemistry of Materials」に掲載された。

現行の大半の市販リチウムイオン電池(LIB)は有機電解液を使用しており、構造的に発火の危険性を抱えている。そのため、充電速度には安全マージンを取らざるを得ず、電気自動車(EV)では15~20分といった充電時間を要することになっている。

それらを解決できる手段として、さまざまな企業や研究機関などが研究開発を進めているのが、電解質を有機電解液から固体電解質に置き換えた全固体電池だ。全固体電池であれば発火の危険性がなくなり、その結果として現在以上の急速充電も可能となるとされ、EVの充電も5分程度まで短縮できると予想されている。さらにエネルギー密度も高くなるため、1回の充電で走れる距離がエンジン車に近い距離になるとされる。

このように良いことずくめに思える全固体電池だが、課題もある。固体電解質は液体電解質に比べて電極との接触面積が小さくなるため、イオン伝導度が低くなってしまう点だ。そうした中で、室温で12mScm-1という高いイオン伝導度を示したのが硫化物系固体電解質で、EV用途などではその系統を中心に研究が進められてきた。しかし硫化物系固体電解質には、ケースが破損して大気中の水分と反応した場合、有毒な硫化水素を発生させてしまうという、有機電解液の火災と同等のリスクが存在していた。

それに対し、イオン伝導度は硫化物系に及ばないものの、有毒ガスを発生させるリスクがないのが酸化物系固体電解質だ。そのため現在はイオン伝導度を上げようと、ペロブスカイト型やガーネット型など、さまざまな結晶構造を持つ酸化物系固体電解質の研究開発が進められている。

高いイオン伝導度の発現要件として、「イオン伝導パス」と呼ばれる特徴的な構造が重要であることが明らかにされている。パイロクロア型構造の中には、イオン伝導パスが存在している可能性があるが、これまでLiイオン伝導に関する研究はほとんど進められてこなかったとのこと。そこで研究チームは今回、パイロクロア型酸化物を詳しく調べたとする。

今回の研究はまず、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化ランタン(La2O3)、酸化ニオブまたは酸化タンタル(M2O5(M=Nb,Ta))、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化リチウム(LiF)を用いて、パイロクロア型酸化物「Li1.25La0.58M2O6F」および「Li1.00La0.66Ta2O6F」を合成することからスタートした。

そして両者の導電率を計測したところ、室温(~298K)でバルクイオン伝導度7.0mScm-1、全イオン伝導度3.9mScm-1と、既知の酸化物固体電解質のLiイオン伝導度よりも高く、水素ドープLi3Nの導電率(6.0mScm-1)に匹敵することが確認された。また、両材料はイオン伝導の活性化エネルギーが小さく、硫化物系を含めた既知の固体電解質の中で、低温におけるイオン伝導度はトップクラスだったとする。

次に、粉末X線回折を用いて、合成された両材料の結晶相が同定され、誘導結合プラズマ発光分光分析で元素組成分析が行われた。得られたデータをもとにBond Valence Energy Landscape(BVEL)法を用いて、Liイオン伝導経路を計算した結果、パイロクロア型構造では、LiイオンはMO6八面体によって形成されたトンネル内に位置するフッ素(F)イオンを覆うような導電パスを持ち、Fイオンとの結合を順次変えながら移動するという伝導経路が示唆されたという。Fイオンの欠損を防ぐことおよび非伝導イオンであるランタンを減少させることが導電率の発現に必要であることが考えられるとした。

今回開発された材料は、有機電解液のような発火の危険性も、硫化物系固体電解質のような有毒ガスが発生する危険性もない。そして、これまでに報告されているどの酸化物系固体電解質よりも高いイオン伝導度が示された。これらのことから研究チームは、今回の材料を応用することで、低温から高温まで幅広い温度域で作動できる、これまでに無い全固体電池を開発できるものとして期待されるとしている。