東京大学(東大)は3月26日、野鳥の一種である小柄な「シジュウカラ」が翼の動きをジェスチャーとして用い、特定のメッセージを伝えることを発見したと発表した。
同成果は、東大 先端科学技術研究センターの鈴木俊貴准教授、同・杉田典正特任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、ヒトを含めた生物に関する全般を扱う学術誌「Current Biology」に掲載された。
ジェスチャーは、主に言葉を補助するコミュニケーション手段の一種としてヒトが使用している身振りや手振りのことだが、一部の動物たちも用いていることがわかっている。しかし、これまでの野生動物のジェスチャーに関する研究は、大多数がチンパンジーやボノボ、ゴリラなどの類人猿の手足の動きに関する観察報告に限られていたという。ところが実際には、類人猿以外の動物においても、腕や翼などのさまざまな部位の動きが知られており、ジェスチャーの可能性があるとする。とはいえ、それらが実際にジェスチャーとしてメッセージを伝えているのかどうかは、ほとんどわかっていなかったとのこと。そこで研究チームは今回、日本などに棲息する野鳥の一種であるシジュウカラの行動を詳細に解析することにしたとする。
今回の研究は、2023年5~6月にかけて長野県北佐久郡の森に巣箱を仕掛け、それを利用して繁殖したシジュウカラのつがい(8組)を対象に観察が行われた。シジュウカラは一夫一妻の鳥類で、卵が孵るとオス・メスで協力してヒナに餌を運ぶ。シジュウカラは樹洞(樹木に空いた穴)や巣箱を利用して繁殖するが、それらの入り口は小さいので、2羽で1度に入ることはできない。この時、巣箱に入る順番を決めるためにジェスチャーを使っていることを発見したという。
観察の結果、以下の4点が明らかにされた。
シジュウカラは、オス・メス2羽で同時に巣箱の近くに餌を咥えてやってくると、そのうち1羽が翼を小刻みに前後に震わせる。すると、もう1羽が先に巣箱に入る。
翼を震わせるのは大半の場合メスで、その様子を見ると、オスが先に巣箱に入る。一方、メスが翼を震わせなかった場合は、メスはオスより先に巣箱に入る。
オスが巣箱に入るまでの時間は、メスが翼を震わせた場合、そうでなかった場合と比べて短くなる。
親鳥が単独で餌やりに来た場合、翼を震わせる行動は1度も観察されなかった。
シジュウカラの翼の動きは、つがい相手(他者)に対し、ある目的のため(巣箱に先に入るよう促す)に用いられ、その目的が達成されたら動きを止めたので、ジェスチャーの定義に従うという。
今回の研究から、鳥の翼には「空を飛ぶ」以外にも「ジェスチャー」というコミュニケーション機能があることが判明した。ヒトは二足歩行を獲得したので両腕が自由になり、ジェスチャーが発達したと考えられている。鳥類も枝に止まっている間は、ヒト同様に前肢(翼)は自由になる。つまり、ヒトと鳥という遠く離れた分類群において、ジェスチャーが独立に進化した可能性もあるとした。
また、ヒトの場合、ジェスチャーは言葉の獲得に先立って発達することが知られており、それらには共通の認知基盤が関わっていることも示唆されているという。動物のジェスチャーに関するさらなる研究は、ヒトの言語の起源や進化を紐解く上でも大きく貢献する可能性があるとする。
今後、類人猿以外のさまざまな動物の身体の動きがどのような意味を伝えているのか、より詳細に研究が進むことで、動物たちの思考や会話の内容をより一層深く理解することにつながることが期待されるとしている。