キンドリルジャパンは3月15日、オンラインで「メインフレームを巡る現状を知り、今後を考える」と題したメディア向け勉強会を開催した。
メインフレームの現状は?
まず、キンドリルジャパンプラクティス事業本部メインフレーム・サービス事業部 事業部長 斎藤竜之氏がメインフレームモダナイゼーションの現状と、今後について説明した。
斎藤氏は「数年前からメインフレームはコストや人材の課題に加え、国内メインフレームベンダーの撤退などの理由からメインフレームからの脱出が検討された。だが、システム要件の充足や、そのほかのプラットフォームへの移行の複雑性をはじめ、どのようなワークロードを残し、何を移行させるべきか方向性がシフトした」と述べた。
同氏によると、長年の作り込みでアプリケーション間やアプリケーションと基盤が密接に連携するシステムの複雑性をふまえた移行計画が立案できなかったほか、時限性のある大量・並行処理などメインフレームの優位性が発揮される処理の他プラットフォームへの移行で品質面にギャップがあったという。また、プロジェクト開始後に多くの課題に直面することになり、予定していた期間・コストを超過するプロジェクトが続出した。
グローバルにおける中堅企業から大企業のビジネス・ITリーダーを対象とした同社の調査では、95%の組織でアプリケーションの一部をメインフレームから移行しているほか、回答者の90%がメインフレームは自社の事業運営に不可欠、または重要であると考えているという。
このような課題に対して、同社では「メインフレームを活かす部分の見極め」「メインフレームの最適化、利活用の検討」「CoE(センター・オブ・エクセレンス)の立ち上げと人材育成」の3つを提言している。
見極めについては、ミッションクリティカルな処理やコアアプリケーションはメインフレーム、アジリティ/イノベーションを求める処理はクラウドなど、メインフレームを中心としたシステムポートフォリオのロードマップを作成する必要性を説いている。
最適化、利活用の検討に関してはパフォーマンスチューニングやプログラムの最適化、現行環境の整理・文書化など、クラウドをはじめとした他のプラットフォ―ムとの連携を図る。
そして、アプリケーションごと、機能ごとの縦割りの組織ばかりでなくシステムポートフォリオ全体を把握するCoEの立ち上げと、メインフレーム+クラウドなど、複数領域に知見を持つエンジニアの育成が重要だという。
これからのモダナイゼーションの姿
こうした状況をふまえて、これからのモダナイゼーションとして「Modernize on」「Integrate with」「Move off」が主流になるという。斎藤氏は「現在のシステム課題と技術動向をふまえたうえで、メインフレーム上のモダナイゼーション(Modernize on)、他プラットフォームとの連携・統合(Integrate with)、メインフレームからの移行(Move off)を組み合わせたハイブリッドのアプローチだ」と説明する。
具体的には、Modernize onはシステムの最新化、プログラム資源の最適化、自動化運用の高度化により、メインフレームの能力を効率よく活用する。Integrate withではAPIやデータレプリケーションによるメインフレームのデータかつようなど、クラウドといった他のプラットフォームとの連携を促進。Move offは、ビジネス要件と品質要件をふまえた選択をしたうえで、アプリケーションを最適なプラットフォームに移植するというものだ。
斎藤氏は「進化する周辺環境への対応、資源の効率利用、管理の容易性を考慮した中期的な利活用プランを策定は重要。また、データの配置と連携を整理地してデータ活用の最適解を検討し、PoC(概念実証)を用意に実施できるような環境と体制を準備すべきだ。さらに、最新技術に対して後手に回らずに先手を打つ体制を整備し、エンジニアの育成とパートナーの活用で持続、効率よく技術動向を把握することが求められる」と強調した。
モダナイゼーションのカギになるもの
続いて、キンドリルジャパン プラクティス事業本部メインフレーム・サービス事業部プリンシパル・テクニカル・スペシャリスト 山下文彦氏がモダナイゼーションのカギとなる技術と、アクションについて解説した。
モダナイゼーションのカギとなるものとして山下氏は「DevSecOps」「AI活用」「人材育成」の3つを示した。
DevSecOpsは、インフラだけでなく、アプリケーションもセキュリティを強化することが重要だとメインフレームユーザーは考えており、同社ではホスト上のビジネスアプリケーションを他のプラットフォームと適合させ、セキュリティを強化するれファクタリングのプロセスを提供するという。
また、ソリューションの変換品質は数年で向上しているため、特殊なシステムプログラムを除けばCOBOLからJavaへの変換は可能になっているほか、リファクタリングによるコードの最適化を行うことが重要であることから保守性を高めるための技術がポイントになるとのことだ。
AIの活用は、長年メインフレームに蓄積されたデータを積極的に利用するための重要なソースで、ビジネスの差別化を図るための重要な位置づけとなり、AIに質問を投げかけるスキルやデータを組み合わせるスキルが必要との見立てだ。メインフレーム上の膨大なデータをリアルタイムにアクセス可能にする仕組みやデータをクラウド上に展開し、洞察を得てフィードバックしていくようなデータ活用のプラットフォームが重要になるという。
人材育成に関しては、メインフレームの人材育成は学習リソースや学習機会の不足、メインフレーム技術習得のモチベーションの低さなどの課題がある。
こうしたことから、企業間によるコミュニティの連携で効率的な人材育成を図り、メインフレームのスキルに加えて、クラウドやAIOpsなどの最新の技術にも長け、システム全体を把握、理解できる人材が必要となり、メインフレーム技術者が高いIT理解力もとにクラウドといったスキルを身に着けていくのが最適解だという。さらに、基幹システムに利用され続けているメインフレームの現状や、システムアーキテクチャやミッションクリティカルな処理に対する知識、経験、市場価値などをふまえITのコア人材として評価することが求められるとのことだ。
メインフレームにおける3つの示唆
山下氏は「メインフレームユーザーはワークロード処理の配置やデータ活用、AIをはじめとした最新のソリューションや人材育成などのITトレンドに注目しつつ、システムポートフォリオの“あるべき姿”を追求していく必要がある」と力を込める。
そして、メインフレームにおける3つの示唆として「現行システムの見える化とモダナイゼーションロードマップの策定」「自動化・データ活用を軸とした最新技術の活用」「人材育成とパートナー連携」を挙げている。
ロードマップの作成については、メインフレームユーザーは信頼性、可用性、俊敏性の観点でアプリケーションを仕分けし、アプリケーションやシステム間の連携を可視化しつつ、モダナイゼーションのロードマップを策定する。
最新技術の活用では、企業はDevSecOpsにより生産性向上を図りつつ、APIやデータレプリケーション、AIの活用を加速し、データの管理と活用に重点を置くことで、ビジネス価値を高めることを目指すというものだ。
人材育成、パートナー連携は、メインフレーム製品のスキルを有し、業務システム環境を理解していることに加え、連携先のシステムに対する知識、スキルを有する人材のほか、高度なスキル保持者の育成への動機づけと、幅広い知見を持つパートナーとの連携が必要だという。