2023年9月7日(日本標準時、以下すべて同様)、「小型月着陸実証機(SLIM)」を搭載したH2Aロケット47号機が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の種子島宇宙センターから打ち上げられた。月への軌道に無事に投入されたSLIMはその後も順調に飛行を続け2024年1月20日、月面への高精度着陸に成功させた。これまで、着陸目標地点と実際の着陸地点が数kmほど離れることもあった月面着陸において、100mを切る精度での着陸、いわゆる “ピンポイント着陸”に世界で初めて成功し、世間の注目を集めたことは記憶に新しいだろう。
多くの日本人に月への興味をかきたてたSLIM。その地球を出発してから月面に着陸する瞬間までをVRを活用して目の前で鑑賞できる技術を三菱電機が開発。今回、2024年3月10日より東京銀座の三菱電機イベントスクエア「METoA Ginza」にて、日本の宇宙開発の最前線や同社が持つ宇宙技術の可能性を発信することを目的に、SLIMを楽しく学べる新アトラクション「“月”から見る月面着陸VR体験」としてその技術が期間限定で一般公開されるのに先駆けて報道陣に向けたお披露目会が開かれたので、一足先にSLIMと一緒にリアルな宇宙空間を旅してきた様子をお届けする。
「“月”から見る月面着陸VR体験」が開催!
三菱電機がJAXAからの委託を受けて開発したSLIMは、「降りたいところに降りる」ことができる高精度着陸技術を実現した。その技術は、今後の月惑星探査にも応用が期待されているほか、SLIMが収集したデータについても今後のさらなる宇宙開発の進展に役立つと注目されている。
報道公開に併せてSLIMのシステム開発・製造担当である三菱電機鎌倉製作所 宇宙技術部の千葉旭氏ならびに同 衛星情報システム部 SLIMプロジェクト部長の小倉祐一氏は、SLIMの開発当時を振り返り「小型かつ軽量、電力や燃料などさまざまな制約を考慮した上で、どのような条件でも着陸させないといけないというのは初の試みということもあり高いハードルでした。1セット1000ケースあるケース実験を何百万回……いろいろなケースでシミュレーションし、誤差がでれば修正を繰り返して精度を上げていく作業はとても大変でした」と苦労の連続であったことを感慨深く語っていた。
また、JAXA研究開発部門 第一研究ユニット 宇宙科学研究所 SLIMプロジェクトチームの石田貴行氏は、小型化と高精度化の両立が宇宙開発のトレンドであることを強調。そうしたトレンドの中でSLIMを実際にピンポイント着陸させたことは世界的に見ても進んだ取り組みとなったと日本の技術力を評価していた。
三菱電機は今回のSLIMのピンポイント着陸で得たデータやノウハウを、同社が担当している「火星衛星探査計画(MMX)」の探査機システムでも活用したいとしている。
SLIMの月面着陸を目の前で体験、凄まじい臨場感に驚愕
宇宙空間を体験とは言え、実際に宇宙に行くわけではなくVRでの体験である。しかし、実際にVRゴーグルを装着してみると高い没入感を得られ、自分が本当に宇宙空間にいるような錯覚を起こしてしまうほどのリアルな作りとなっていた。
このVR体験のCG制作およびコンテンツを開発したのは、三菱電機エンジニアリングである。実際に開発に携わった第一人者である三菱電機エンジニアリング鎌倉事業所 生産情報技術部の柴崎健氏は「JAXAやNASAの公開データを活用し、太陽や地球の位置、月の地面の色まで月面環境を忠実に再現したのでその点は見どころだと思います」とコメント。また、今回はスペースの関係上、座っての体験であったが、「20km先まで宇宙空間が広がっているので、仮に歩くことができれば、実施に宇宙空間を歩いているような感覚になることもできますよ」と教えてくれた。
VRゴーグル装着後、CG映像が流れはじめ、アナウンスにより誘導される形で体験はスタート。目の前で行われる地球上空でロケットからSLIMが分離する様子から、顔を真上に向ければ上からSLIMが月面を目指して降下してくる様子も見ることができ、当初計画されていた月面着陸の瞬間の様子(実際にはSLIMは横倒しの形で着陸した)を臨場感たっぷりで見ることができる。
このSLIMの着陸を間近でみれる「“月”から見る月面着陸VR体験」のイベント概要は以下の通り。開催期間は期間限定としながらも、終了時期は明示されておらず、今のところゴールデンウィーク明けごろを考えているとしている。
イベント名:「“月”から見る月面着陸VR体験」
会場:METoA Ginza(メトア ギンザ)
場所:東京都中央区銀座5丁目2番1号「東急プラザ銀座」内
会期:3月10日~(終了時期未定。3月9日はSLIM月着陸成功記念1DAYイベントが先行イベントとして開催)
開場時間:11:00~19:00
諸注意:VR体験は7歳以上、13歳未満の子供は保護者の同意の元、保護者と一緒に体験する必要がある点に注意。また、妊娠中/飲酒中/高血圧/体調不良、首・脊髄・心臓・呼吸器系の疾患がある方、光刺激で痙攣・意識障害経験のある方などは体験ができない点に注意が必要となっている