光を使う次世代計算機として期待が大きい「光量子コンピューター」は、計算誤りを自ら訂正する機能に必要な基本素子「GKP量子ビット」の実現が必要とされる。そのGKP量子ビットを光によってつくり出すことに世界で初めて成功した、と東京大学などの共同研究グループが発表した。

光量子コンピューターは、量子コンピューターの中でも室温で動作し、小型化が期待できることなどから世界中で激しい開発競争が展開されている。しかし超電導量子コンピューターなどでは実現例があるGKP量子ビットは成功していなかった。研究グループは今回の成果により、誤り訂正できる光量子コンピューターの実用化に向け大きく前進したとしている。

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    今回の研究で開発、活用した高性能光子検出器(東京大学など共同研究グループ提供)

研究グループは、東京大学大学院工学系研究科の古澤明教授、アサバナント・ワリット助教らのほか、情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、チェコ共和国のパラツキー大学、ドイツのマインツ大学の研究者で構成した。

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    東京大学の古澤明教授(科学技術振興機構提供)

量子コンピューターは光や原子、電子など量子と呼ばれる極めて小さな物質の性質を使う。従来型コンピューターは情報の最小単位「ビット」を0か1で表すのに対し、「0と1が混ざった状態」の「量子ビット」を利用する。ハードウエアに光量子のほか、超電導、イオン、半導体などを利用するさまざまな方式があるが、いずれも計算途中で誤りが起きやすい。

量子ビットは壊れやすい性質があるため、多くの量子ビットを連携させて“1つの量子ビット”として構成する。これが「論理量子ビット」で、いくつかの方法がある。GKP量子ビットはその一つで、その完成度は量子コンピューターの計算誤り訂正の鍵を握るとされる。

古澤教授らが研究開発している光量子コンピューターは、量子ビットに光の信号の波と言えるパルスを使う。研究グループはまず、超電導を使った高性能の光子検出器を開発した。この検出器は同じ工程を繰り返すことで、質の高い量子ビット連携状態をつくることができるという。

研究グループは次にこの光子検出器を活用。多数の光の粒を含む1つのパルスから特殊な光の状態(ピーク)をつくり出すことに成功した。これにより大量の量子ビットを並べた状態と同様の働きをする論理量子ビットのGKP量子ビットを実現させたという。

超電導やイオンを利用する量子コンピューターでは、既にGKP量子ビットを実現させて誤り訂正機能に成功したとする成果発表もある。しかし、大量の量子ビットが必要で、計算機が大型化し、電力消費も大きい。今回、論理量子ビットを光で生成したことで、実用レベルのサイズの量子コンピューター実現に近づいた形だ。

古澤教授の「誤り耐性型大規模汎用光量子コンピューターの研究開発」は政府が進める「ムーンショット型研究開発制度」の目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」の中の有力研究に位置付けられている。

研究グループは、これまで光量子コンピューターの計算能力を高める手法や、従来は困難とされた「かけ算」を可能とする手法を開発してきた。今回の成果を受けて9月ごろには実用化に向けたベンチャー企業を立ち上げるという。研究成果は1月19日付の米科学誌「サイエンス」に掲載された。

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