【アパレル「3D活用」の可能性を3社に聞く】生産効率化に加え、バーチャル試着やメタバースに広がる商機

アパレル業界向けに3D技術導入を推進する3社に「3D活用の現状」「導入のハードル」「将来的な可能性」について聞いた。ユカアンドアルファは自社製品や韓国の3Dソフトウェア「CLO」の代理店販売などアパレル向けソフトを提供している。日鉄物産の繊維事業と三井物産アイ・ファッションの事業統合により誕生したMNインターファッションは、繊維商社としてOEM/ODMで製造を請け負っている。MNインターファッションはデジタル事業を行うデジタルクロージングという子会社を設立し、「CLO」の導入支援や3D技術活用の支援も手がけている。ソフトバンクはMNインターファッションとも協力しながら、3D技術を活用したバーチャル試着サービスの開発を進めている。アパレル企業への3D技術導入の最前線に立つ、ユカアンドアルファ 東京営業部 インストラクター マネージャー 笛木愛美氏、MNインターファッション 企画開発部 兼 デジタルクロージング 代表取締役社長 御子柴良太氏、ソフトバンク IT&アーキテクト本部 アドバンスドテクノロジー推進室 クリエイティブ制作課 課長 嘉数翔氏とイーストマン・マイケル氏に教えていただいた。

――アパレル業界における3D技術の導入状況は?

笛木(ユカアンドアルファ):アパレル企業の主な導入の目的としては、商品企画の効率化やサスティナブルな生産体制の実現、ECの販売促進などがあります。

特に企画業務においてコミュニケーションを円滑にするための活用が多いです。ODMと呼ばれる企画を請け負う会社や、繊維系商社などでは、かなり高い比率で導入が進んでいます。

ただ、企画業務の特性上、情報がなかなか外に出ることはありませんので、具体的な利用状況は導入企業から公開されるケースはほとんどありません。各社が着実に活用を進めているのは間違いありません。

――3D技術の具体的な導入事例は?

笛木:まず3D化をしていきましょうという原点として、アパレルの製品を作るには2Dの型紙が必要になってくるんですが、そのデジタル化が進んでいます。それが企業によっては、デジタル化の延長として3D化しましょうという段階に来ています。

3D化したデータのさらなる活用法としてECでの活用が出てきます。デジタルクロージングさんの3DCGの商品カタログやソフトバンクさんのバーチャル試着なども、その活用の一例だと思います。

御子柴(MNインターファッション):デジタルクロージングとしては、3DCGで商品カタログの制作やセールスプロモーションでの活用を行うケースがあります。特にスポーツアウトドア業界において活用が進んでいます。

例えば、レディースのフリルやレースがたくさん付いたスカートなどは、CGだと再現がすごく難しいです。

一方で、ナイロンのジャケットや、フーディー、ジャージーなどは、CGで写真と変わらないぐらいの再現性を持たせることができ、立体的に見せることも可能です。そういう面もあり、アウトドアスポーツでの活用が非常に進んでいるのだと感じています。

▲3DCGで商品カタログを制作。スポーツアウトドア業界で導入進む

――3D技術導入のハードルは?

御子柴:人材の課題はあると思います。というのは間違いなく1つネックですね。「CLO」というソフトを使いこなすのは、決して簡単ではないです。2DのCADデータを扱う専門知識と3Dモデリングをする専門知識の両方が一定程度必要となります。その知識の習得は簡単にできるものではありませんので、そこが導入の障壁にはなっていると思います。そういった課題を解消するために、当社のような会社が支援をしています。

笛木:「CLO」の操作性は3D着装シミュレーションシステムの中では、比較的簡単といわれているものではありますが、幅広い業務で使いこなしていくとなると、簡単ではない部分もあります。

嘉数(ソフトバンク):バーチャル試着を研究開発する上でさまざまな企業からお話を伺ったところ、そもそも商品の3Dデータを持っていない企業が多いことが分かりました。当然、3Dデータを作成するためには、コストがかかります。全シーズンのSKUで3Dデータを作ろうと考えると、数千数万という量がありますので、負荷が大きくなります。そのため、1つの用途だけで3Dデータを活用するのではなく、さまざまな用途で活用できるようになると、コストパフォーマンスが上がり、導入が進むと期待できます。

――コロナ禍に3D技術の導入が進みましたか?

御子柴:コロナ禍には、生産している中国の工場から現物のサンプルが届かないといったこともあり、3D活用に舵を切らざるを得ない状況になりました。その結果、3D技術の導入が一定程度、加速度的に進んだのですが、アフターコロナを迎えて、その動きは鈍くなったり、寄り戻しが起きている面はあります。

笛木:アパレル企業にとって3Dサンプルを自社内で作るとなると社内の人たちが作業をすることになります。現物のサンプルを作る場合は、工場に委託することができるので、アパレル企業の手間という観点ですと、現物の方が負荷は低いという面もあります。

――バーチャル試着などのサービスが広まると、3D技術を導入するメリットが大きくなるということですか?

笛木:商品企画における3D活用は、導入することでどのくらい収益に貢献しているかが分かりにくい部分があります。バーチャル試着などで収益への貢献が具体的に見えてくると、3D導入が進むという期待感があります。

御子柴:ECサイトでバーチャル試着を活用するとコンバージョンレートが上がり、売り上げや利益が伸びるのだから、そのために必要な3Dサンプルを作成しようという良い循環が生まれることを期待しています。

嘉数:ECサイトでは商品を試着できないため、実店舗よりも購入に不安を持たれる方がいます。バーチャル試着によって、そういった不安を解消することができます。

ブランド側にとっても、バーチャル試着で複数のアイテムをコーディネートしてもらうことで、店舗で購入するかのようにセット販売での売り上げ貢献を期待できます。

例えば店舗では同じ会社であっても異なるブランドを合わせて試着することは難しいと思いますが、ECサイト上だと複数ブランドを横断的にコーディネートして、バーチャル試着するような新たな顧客体験を提供できます。

――バーチャル試着の技術自体も進化しているのですか?

嘉数:顧客体験を高めるために、当社としては高速シミュレーションにより、エンドユーザーに遅延なくサービスを提供する技術を独自開発しています。利用者がストレスを感じずに快適にECで試着体験を楽しむことができると思います。

マイケル(ソフトバンク): ソフトバンクでは、できるだけ処理の負荷を抑えられる技術を開発しており、リアルタイムに遅延なくバーチャル試着できるようにしております。さらに、重ね着やコーディネート、ボタンの開閉、トップスのタックインとタックアウト、ボトムスのウエストの位置調整といったスタイリングも可能になっています。

▲バーチャル試着では重ね着やコーディネート、ボタンの開閉、トップスのタックインとタックアウトなど自在にできる

こういったことをエンドユーザーが持つ一般的な端末において、ウェブブラウザで気軽に体験できるというのが当社の技術の特徴だと考えております。

――サイズレコメンデーションのようなサービスはすでに導入が進んでいますが、バーチャル試着で提供できるベネフィットは?

嘉数:MNインターファッションさんと当社で、バーチャル試着に対するニーズを調査したことがあります。そこで上がってきた意見によると、「自分のサイズに合うか」を気にする声も多かったですが、「自分に似合うか」という観点もすごく大きい要素として出てきました。似合うかどうかをビジュアル的に確認できるのが、サイズレコメンドにはないベネフィットだと思います。

――3D技術の今後の可能性は?

嘉数:バーチャル試着を応用してメタバースで試着体験を提供することも可能だと思います。メタバース空間でしたら、3Dデータを活用して、アバターやゲームのキャラクターに好きな洋服を着せることも可能になります。

笛木:メタバースやNFTなど活用範囲が広がることで、3Dデータの価値を高められるようになると、アパレル企業のビジネスも広がりが出てくると思います。実際、アパレル企業の中には、VRチャット用の衣装として洋服のデータを販売しているケースもあります。「CLO」でも現物の洋服をさまざまなキャラクターの形に変換できる機能をすでに搭載しています。

御子柴:現時点で3D技術を活用しきれてないアパレル企業が多いと思いますので、より簡単に、より安価に3DCGを活用できれば、もっとメリットを感じてもらえると思っています。そうすると制作企画のところから販売、ECでバーチャル試着を使ってもらうことができると、リアルの洋服も売れるし、メタバースやゲームで販売できる可能性も広がっていくと思います。

▲MNインターファッションが描く3DCG活用のイメージ

普及が進んでいる生成AIのような技術と3Dは非常に相性がいいと思います。そういう新しい技術と組み合わせて、よりアパレル業界やその先にいる消費者がメリットを感じられるようなサービスになっていけば、さらに活用が広がるのではないかなと考えています。

嘉数: AIを活用して3Dデータをもっと手軽に作れるようにすることで、業界全体の3D化率は上がると思います。当社としては流用性などを含めたデータ活用の可能性を広げられるように、バーチャル試着のサービス開発をさらに進めていきたいと考えています。