ニトリ、武井直CIOが語ったマーケットプレイスの本当の狙いとは?求める商材、出店のベネフィットにも言及

ニトリホールディングスの常務執行役員 最高情報責任者(CIO) 武井直氏は2月21日、先日導入を発表したマーケットプレイスSaaSを提供するMirakl(ミラクル)の事業戦略発表会に参加し、マーケットプレイス参入の狙いや事業構想について語った。

マーケットプレイスの戦略を紹介する前に、ニトリHDのビジネスモデルを紹介した。同社は現在、「住まい」の範囲を超え、「暮らし」総合提案企業へ変化しようとしている。

「これまでは『住まい』のさまざまな商品を提供してきた。これからは『暮らし』のお困りごとを解決していく会社になりたい。その目標に向かって、会社のトランスフォーメーションを図っている」(武井氏)と説明した。

ニトリHDは製造物流IT小売業として、市場調査、原材料調達、商品開発から物流、システム開発、広告宣伝、店舗運営、コールセンターまで自社で運営している。

特にIT戦略に注力しており、グループ全体のIT推進を担うニトリデジタルベースという会社を2022年4月1日に設立している。武井氏はデジタルベースの代表取締役社長も兼任している。

「IT業界から人を採用しようと考えると、ニトリの人事体系では難しい面があった。ITデジタルに従事する人員数を2032年に約3倍の1000人規模に増加することを目指している」(同)と話す。

<EC化率20%へ、マーケットプレイスで加速>

IT強化の一環として取り組むEC事業の売上高は2023年3月期に885億円まで拡大している。EC化率は11.87%まで高まっている。

「2021年3月期にコロナの影響で一気に伸び、EC化率は10%を超えた。おそらく今期(2024年3月期)はEC化率が12%まで達しそうだ。2033年3月期には、20%までもっていきたい」(同)と話す。

EC強化に加え、新たな買い物体験を追求する中で、マーケットプレイスを導入することになったという。

「ニトリというと家具の会社と思われているが、実は家具の比率は全体売上の3分の1くらいしかない。ホームファッションが大きな割合を占めている。ただ、EC売上は家具が半分くらいを占めている。ホームファッションやホームセンターの商品などは、ECでまだかなり伸ばせる余地があると思う」(同)とみている。

ECを強化するため、ライブコマースを2年前から実施しており、現在は週3回のペースで配信している。スタッフコーディネートを導入し、スタッフが自宅の部屋のコーディネートの写真を紹介したり、「みんなのニトリ」というコンテンツでは顧客がインスタグラムに投降したコンテンツを紹介している。

<今夏以降のEC刷新がきっかけに>

ニトリHDは今年の夏から秋にかけて、ECサイトをリニューアルする計画がある。このリニューアル構想を検討する段階で、マーケットプレイスの導入を決めたという。

「総合サイトとして考えたときはアマゾンさんや楽天さん、ヤフーショッピングさんにはかなわない。ただ、目的を特化型にすれば、集客できる便利なサイトが作れると考えた。『暮らし』にフォーカスして、品ぞろえを一気に充実させ、何か『暮らし』の困りごとがあれば、ニトリのサイトを見ればいいんだと認知していただきたい。『暮らし』のポータルになれる会社はそんなにないはず。そこで早く1番を取りたいと考えた。品ぞろえに関しては自社ではスピードアップできない。多様化するお客さまの志向に自社製品だけでは対応は難しい。そこでマーケットプレイスを導入することを決めた」(同)と話す。

マーケットプレイス構築のためにMiraklのソリューションを選定した理由について、「自社開発や外部のソリューションの導入など、いろいろと調べた。マーケットプレイスの機能を持つパッケージのソフトウエアもあったが、日本の中できちんと使いものになるソリューションはMiraklしかなかった。日本でマーケットプレイスをやろうと思うと自社で開発するか、Miraklのソリューションを使うかの2択だった。われわれとしてはスピードアップするためにMiraklの導入を決めた」(同)と話す。

▲ニトリHD 常務執行役員 最高情報責任者(CIO) 武井直氏(左)とMirakl 代表取締役社長 佐藤恭平氏(右)

Miraklはフランス発のユニコーン企業(未上場で評価額10億ドル以上のベンチャー企業)であり、グローバルで450以上のマーケットプレイスを構築している。カルフール、メイシーズ、デカトロン、ベストバイ、H&M HOMEなど大手リテーラーのマーケットプレイス構築の実績がある。

日本においてもニトリHD以外にも三菱電機やフラッシュセール最大手のla belle vieなどがMiraklの導入を決め、マーケットプレイス構築を進めている。日本事業の2023年度の業績は前年比約3倍に成長しているという。

<「暮らし」をキーワードに品ぞろえの空白を埋める>

ニトリHDはECサイトのリニューアルは今年中に実施するが、マーケットプレイスのリリースは2025年以降になる見通しだという。

「マーケットプレイスのリリースは先だが、それまでにセラー(出店者)の募集などやることはたくさんある。先日、マーケットプレイスの導入を発表したことで、さまざまな企業さまからお問い合わせをいただいている」(同)と話す。

どのような商品を持つセラーを求めているかについては、このように言及している。

「PB商品としては家具やホームファッション以外に家電にも力を入れている。そういったカテゴリーにおいてもPB商品で全てのお客さまのニーズを満たせるわけではない。今まで競合だった会社にも、賛同してもらえれば出店していただける可能性がある」(同)と話す。

同社がこれまで取り扱ってこなかった領域の商品も求め、品ぞろえの空白を埋めていく。

「家具やホームファッションを始めとして、暮らしで必要なものがあったとき、お困りごとがあったときにこのサイトを見てもらえばすべて解決する、必要な商品を見つけられるという風にしていきたい。そういった商品やサービスを持つ企業さまにご協力いただきたい」(同)と話す。

「暮らし」をキーワードにニトリHDが取り扱っていない商品やサービスについてもそろえていきたい考えだ。

<セラーに提供できるベネフィットは?>

セラーはニトリHDの1600万人を超えたアプリ会員を始めとした顧客基盤にリーチできるだけではなく、多様なベネフィット(利益)を得られる可能性がある。

「家具であればホームロジスティクスという配送会社を持っており、全国への配送網を生かし、年間300万件くらい配達している。他の家具をお持ちの会社がマーケットプレイスで販売してくださった場合にニトリの商品と一緒に配達することも可能だ。自社の物流拠点も全国に8カ所作っている。現在は基本的に自社商品を扱っているが、将来的に他社商品を引き受けて、発送するサービスも提供していきたい」(同)と話す。

ECのリニューアルに合わせて、店舗受け取り(BOPIS)をさらに強化する方針だ。店舗での受け取りだけではなく、返品対応のサービスも提供していく。セラーはそのような店舗網を生かしたサービスも利用できるようにする構想もある。

ECのリニューアル時には、顧客参加型のコミュニティを立ち上げる予定だ。スタッフコンテンツやコミュニティでもセラーの商品が周知されていく可能性はある。

「セラーの商品をニトリの実店舗の一角で紹介することもできると思う。その場合は少し費用をいただくかもしれない。グループの島忠のホームセンターであれば、かなり店舗面積があるので、コーナーを作ってセラーを紹介するようなことは可能性がある」(同)と話す。