北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は2月14日、リチウムイオン電池(LIB)における負極バインダーとしての「ポリビニルホスホン酸」が「マイクロシリコンオキシド負極」を高度に安定化することを見出したと発表した。

同成果は、JAIST 先端科学技術研究科の松見紀佳教授(物質化学フロンティア研究領域)、同・高森紀行大学院生、同・テジキランピンディ・ジャヤクマール元大学院生、同・ラージャシェーカル・バダム元講師(物質化学フロンティア研究領域)、丸善石油化学らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するエネルギー変換と貯蔵に関する学際的な分野を扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。

LIBの負極材料の体積変化は負極性能の劣化をもたらすことから、変化が少ないほど理想的で、マイクロシリコンオキシドはシリコンと比較して比較的穏やかな体積変化を示すため、負極材開発においてその活用が幅広く検討されている。

しかし、なお体積変化による負極性能の劣化を抑制できるバインダーの開発が望まれており、研究チームは今回、ポリビニルホスホン酸をバインダーとして活用することにしたという。

  • ポリビニルホスホン酸

    (a)ポリビニルホスホン酸、(b)PAA、(c)PVDFの構造式(出所:JAIST Webサイト)

密度汎関数理論(DFT)計算を用いて、ポリビニルホスホン酸の電子構造の計算が行われた。すると、LUMOレベルは-1.92eVであることが導き出され、「ポリアクリル酸」(PAA)の-1.16eVや「エチレンカーボネート」(EC)の-0.31eVのそれよりも大幅に低いことがわかった。負極側近傍においてECの還元分解に先立ってポリビニルホスホン酸の還元が起こることが想定され、ECの過剰な分解の抑制、つまり被膜形成の抑制と界面抵抗の抑制につながることが考えられるとする。

次に、ポリビニルホスホン酸を銅箔でサンドイッチした系の引き剥がしに要する応力が評価された。すると3.44N/mであり、PAAの2.03N/m、「ポリフッ化ビニリデン」(PVDF)の0.439N/mと比較して大幅に高い接着力が示された。

続いて、負極の組成を「マイクロサイズSiO:グラファイト:ポリビニルホスホン酸:アセチレンブラック:カルボキシメチルセルロース」(比率は30:30:20:15:5)とし、EC:DEC=1:1(v/v)LiPF6溶液を電解液とした「アノード型ハーフセル」(以下、「AHC」と省略。LIBでは、アノード極/電解質/リチウムの構成からなる半電池を意味する)が構築された。

  • 各AHCの充放電曲線

    (a)各AHCの充放電曲線。(b~d)各AHCのサイクリックボルタモグラム。(e)各AHCの充放電サイクル特性。(f)各AHCの充放電レート特性。(g)各AHCにおける活物質担持量の影響(出所:JAIST Webサイト)

AHCのサイクリックボルタモグラムでは、ポリビニルホスホン酸バインダーを用いた場合にのみ第一サイクルにおいてバインダーの還元ピークが観測された。また、今回の系ではリチウム挿入・脱挿入の可逆的な両ピークがほかのバインダー系(PAA、PVDF)以上に明瞭に観測されたという。

そしてAHCの充放電特性評価が行われたところ、ポリビニルホスホン酸バインダー系では1000mAg-1の電流密度において200サイクル後に650mAhgSiO+C-1以上の放電容量(1300mAhgSiO+C-1以上の放電容量)が維持されていた一方、PAAバインダー系では200サイクル後には300mAhgSiO+C-1まで放電容量が低下し、PVDFバインダー系では200サイクル後には初期容量の20%の容量しか維持していなかったという。

グラファイトを用いず、負極におけるSiO組成を増加させた系(SiO:ポリビニルホスホン酸:アセチレンブラック:カルボキシメチルセルロース=60:20:15:5)についての検討も行われた。すると、0.21mgSiO+C-2、0.85mgSiOcm-2、1.84mgSiOcm-2の活物質の塗布量において、それぞれ100サイクル後に92.2%、90.9%、60.8%の容量維持率が示されたとした。

さらに、200サイクルの充放電サイクル後に電池セルを分解し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた負極の観察が行われた。すると、ポリビニルホスホン酸バインダー系においては集電体からの剥離は観測されなかったという一方、比較対象のPAAバインダー系、PVDFバインダー系では剥離が観察されたとした。

  • 各バインダーを用いた系の充放電前後の負極のSEM像および充電後の膨張率

    各バインダーを用いた系の充放電前後の負極のSEM像および充電後の膨張率(出所:JAIST Webサイト)

最後に、ポリビニルホスホン酸バインダーを用いたSiO負極とLiFePO4正極を組み合わせたフルセルも構築された。そして、1.5mAh以上の放電を150サイクルにわたって観測できたとする。

ポリビニルホスホン酸の優れた結着性を活用することで、さらにさまざまなエネルギーデバイスへの適用範囲の拡充が期待される。研究チームは今後、さらに電池製造に直接的に関わる企業との協同的取り組みへの展開を期待しており、電池製造技術を保有しつつJAIST、丸善石油化学と三極的に連携できる企業の実用研究への参画を求めているとした。