GMOインターネットグループは1月26日、自社イベント「GMO 渋谷 FUTURE 2024 - GMO SONIC Warm Up」を開催した。同イベントは1月27日、28日に開催された音楽フェスティバル「GMO SONIC 2024」の前夜祭に位置付けられたもので、飲食ブースの設置や、DJのスティーヴ・アオキ氏を招いたクラブセッションなど多数の催しが行われた。
その中から本稿では、東京大学 大学院 工学系研究科 人工物工学研究センター 技術経営戦略学専攻 教授の松尾豊氏が登壇した特別講演の模様をお伝えする。
2023年のAI旋風を振り返って「時代が何倍速にもなって進んでいる」
冒頭から松尾氏は、ChatGPTに代表される2023年のAIブームを振り返った。OpenAIら海外ベンダーの大規模言語モデルのパラメータ数は1兆以上にまで拡大し、巨大化の一途をたどっている。国内ベンダーにおいても大規模言語モデルの開発は進みつつあるが、松尾氏は「100億パラメータくらいのモデルが多く、もっと大きくなるはこれから」と見通しを述べる。
「ChatGPTの台頭以降、複数の企業がものすごい勢いで新しい大規模言語モデルを開発しています。国内外でもいろいろな動きがあり、時代が何倍速もの早回しになって進んでいると感じます」(松尾氏)
これから生成AIはどうなっていくのか
大きな時代の変化があった2023年を経て、2024年以降、生成AIを取り巻く環境はどのように発展していくのだろうか。松尾氏は複数の観点から今後の展望を語った。
まず語られたのは「大規模言語モデルの多段階活用」である。現在、生成AIを活用する際の課題の一つにハルシネーションがあるのはご存じの通りだ。生成AIは、必ずしも正確な答えを返してくれないのが“玉にきず“なのだが、松尾氏曰くLLMを何度も活用することが精度向上の鍵になるという。
「例えば、学校の試験問題を解くときに、1回だけ教科書を読んで、解答して終わりではありませんよね。見直してから、再度解き直すこともあると思います。要はそれと同じで、生成AIも複数回使うことで精度が上がります」(松尾氏)
加えて、他の大規模言語モデル同士を組み合わせて使うことで、異なるデータベースからより精度の高い回答を生成するといった活用法も今後の主流になると見解を示した。
領域特化型のLLMにも期待感
「皆さまが人生で作ってきた書類のうち、検索エンジンで検索したパブリックデータから参照する情報はごく一部に過ぎないと思いませんか。ほとんどのデータが、自分の勤めている企業のサーバや、自分のPCに入っているものから引き出されるはずです」(松尾氏)
同氏曰く、今後は「特定の領域に特化したLLM」の開発についても注目したいところだという。医療業界や金融業界など、その業界に特化したLLMの開発が業界の発展に直結することもあるだろう。実際に、Google Cloudでは「Med-PaLM」という医療向けの大規模言語モデルをリリースしている。
また、現在、生成AIが出力するものは言語が主流となっているが、「今後は“行動”を出力できるようになる」と語る。つまり、生成AIによってブラウザの操作やロボットへの指示など、人間が営んできた作業の自動化が可能になるというのだ。
すでにこうした技術は各所で研究が進んでいて、松尾氏は「(その成果は)1、2年くらいで我々の目に入ってくる」と展望した。
「インターネットが台頭した時と同じく、我々が持っている生成AIへの期待に対して実際にできることが明確になっていくと思います。なので『ここまでしかできない』というポイントもわかってくるでしょう。そうすれば、技術的な発展も生まれやすくなると思います」(松尾氏)
松尾氏「同じことができるなら人間よりコンピュータの方が100倍速い」
松尾氏は「人間もアルゴリズムで動いていて、脳や臓器も行動理論に基づいて成立している」と語る。ただ、明確に定義がなされない知能や感情面があるからこそ、人間の知能は神格化されているのだという。
「人間の脳が行っていることが今後解明されていけば、生体としてそれをなすのが人間であり、コンピュータで出力するのがAIです。そう思って私も研究を重ねてきました」(松尾氏)
最後に同氏は、人間とAIの発展が隣り合わせになることに対して、「より良い形で進めていけば良い」と見解を示した。
「コンピュータが人間と同じことができる場合、そこからスケールさせるのは人間よりコンピュータの方が100倍速いです。だからこそ社会を豊かにしていけると思う一方で、どう使わなくてはいけないかを考えなくてはいけません。これから10年、20年の間に社会に大きな変化が起きるので、私自身も変化を生み出していきたいですね」(松尾氏)