北海道大学(北大)は2月1日、体の模様がジャイアントパンダの顔のようであることで知られる、沖縄県久米島に生息する「ガイコツパンダホヤ」が新種のホヤであることを発見し、「Clavelina ossipandae(クラベリナ・オシパンダエ)」という学名を提唱したことを発表した。
同成果は、北大大学院 理学院の長谷川尚弘大学院生、同・大学大学院 理学研究院の柁原宏教授の研究チームによるもの。詳細は、日本動物分類学会が刊行する日本および東アジアとその周辺地域の水棲動物などを扱う学術誌「Species Diversity」に掲載された。
ガイコツパンダホヤは、体の前端部の白い部分にある3つの黒い斑点模様がジャイアントパンダの顔のようであること、胸部のエラに走る白い血管がガイコツのあばら骨を彷彿とさせることから、その名で呼ばれている。そのユニークな外見が話題となり人気を博しているが、その正体は不明とされていた。
ホヤの仲間は、世界では約3000種、日本では約300種が報告されており、体長は大きいものだと数十cm、小さいものだとわずか数mm程度。ホヤは脊索動物門・尾索動物亜門に属し、進化学的に見るとヒトを含めた脊椎動物とは親戚の関係にあたる。オタマジャクシ型の幼生の時は海中を泳ぐが、成体になると海底の岩などに固着して移動しなくなり、それ以降は海中のプランクトンをろ過することで生きていくという生態の生き物である。
ホヤの仲間には、卵と精子が受精して子孫を作る有性生殖だけを行う単体性のホヤと、有性生殖を行うとともに体の一部から新しいホヤを生みだす無性生殖も可能な群体性のホヤがいる。この体の一部から生み出された新しいホヤはすべてがクローンで、遺伝的に母体とまったく同じものになるといい、ガイコツパンダホヤは群体性のホヤにあたる。
日本におけるホヤの生物相調査は150年以上の歴史があるが、南西諸島におけるホヤの多様性調査は本州の沿岸域に比べると少ないとのこと。そこで今回の研究では、沖縄県久米島のガイコツパンダホヤの正体を探るべく形態観察と系統解析を実施したとする。
今回の調査では、2021年3月に久米島の南に位置するダイビングポイント(通称「トンバラ」)において、ガイコツパンダホヤを徒手で合計4群体採集。そこで得られた群体を実体顕微鏡下で解剖することで、体内の形態を詳細に観察したという。DNAバーコードとしてよく用いられる、細胞内のエネルギー生産を担うミトコンドリアの「チトクロムcオキシダーゼサブユニット(COI)」遺伝子の部分配列を決定し、近縁種間における系統的位置も推定された。
その形態を詳細に解析した結果、ガイコツパンダホヤはツツボヤ科・ツツボヤ属に属する種であることが判明。さらに、世界から報告されている同属の既知の44種との形態を比較したところ、いずれとも異なる特徴を持つことから、未記載種(名前の付いていない種)であることが明らかになったとした。そのため研究チームは、「骨の」を意味するラテン語“ossis”と「パンダの」を意味する“pandae”を組み合わせ、ガイコツパンダホヤを「Clavelina ossipandae」と命名し、新種として記載したとする。
なおDNAの情報を用いた系統解析の結果も、ガイコツパンダホヤがツツボヤ属に属することを裏付けたとのこと。今日まで、ツツボヤ類は日本から10種が報告されており、ガイコツパンダホヤは11種目になる。また、今回の研究以前に久米島のホヤ類に関する学術的な報告はなかったといい、つまりガイコツパンダホヤが久米島のホヤ第1号になるという。
今回の研究で、久米島に分布するガイコツパンダホヤが新種であることが判明し、学名がつけられた。本州に比べてホヤ類の多様性調査が行われていない久米島を含めた南西諸島は、サンゴ礁が豊かであり、生物多様性が高いことで知られている。そのためこのような地域で調査を行うことで、さらなる新種が発見されることが大いに期待できるといい、研究チームは、「変なホヤや珍しいホヤを見つけた時は連絡してほしい」とする。
また今回の研究の特筆すべき点に、SNSやメディアを通じて生物の情報が研究者のもとに届けられた結果(ガイコツパンダホヤを最初に紹介したのは、久米島のダイビングショップ)、新種の発見につながったということが挙げられるとのこと。今回の事例は、日本中の誰しもがホヤに限らず、新種の生物の発見者になる可能性を示唆しているという。しかし、SNS上での生物情報の拡散による乱獲や生息地の破壊は絶対に防ぐ必要があるため、今後も生物多様性の保全に努めながら、そこに棲む生物たちの多様性を地道に明らかにしていく必要があるとしている。