東急田園都市線・溝の口駅から徒歩数分ほど歩くと、2階建ての古風な建物が目に入る。建物の名前は「nokutica」だ。nokuticaは溝の口一帯を地盤とした不動産企業であるエヌアセットが運営するカフェを併設したシェアオフィス。今回、nokuticaにフォトシンスが提供する入退出管理システム「Akerun」を導入事例について、エヌアセット 取締役事業企画部部長の山下直毅氏に話を伺った。

  • 「nokutica」の外観

    「nokutica」の外観

“怪しい洋館”に足を踏み入れてみると……

まず、山下氏は開口一番に「不動産を主軸に基本テーマとしては、溝の口ひいては高津区を盛り上げよう!ということをミッションとしています」と述べた。

nokuticaは築約95年の元診療所兼住宅をリノベーションし、2017年にオープンした。シェアオフィス、カフェに加え、レンタルスペース、コワーキングスペースを備え、エヌアセットのグループ会社である「のくちのたね」が運営している。

  • 「nokutica」の見取り図

    「nokutica」の見取り図

山下氏は「もともとは2メートルほどのブロック塀で囲われており、“怪しい洋館”の雰囲気がありました。隣接する建物が当社の管理物件でオーナーさんが同じ方で、今後の方針についてお伺いした際に、次世代の活用方法が決まるまでの回避策として既存のまま運営してみましょうという話になりました。そこで、当社から10年間の契約で貸してくださいとアプローチしました」と振り返る。

  • エヌアセット 取締役事業企画部部長の山下直毅氏

    エヌアセット 取締役事業企画部部長の山下直毅氏

また、シェアオフィスやコワーキングスペースは三軒茶屋や渋谷など、都心部には存在していたものの、溝の口在住者からすれば通勤時間もかかるため、同社ではニーズを把握するために聞き取り調査を行った。その結果、溝の口にシェアオフィスを整備することに舵を切った。

“街の価値を高める”を掲げるエヌアセット

エヌアセットでは、戦略の1つとして「街の価値を高める」ことに注力している。山下氏は「溝の口に住みたい人、住み続けたい人を増やせば、街の魅力と価値の向上につながることから、街の人から最も応援される企業を目指しています。近隣の二子玉川やたまプラーザをはじめとした“オシャレな街”ではなく、人が集まりやすく、子育て、老後も住みやすいという観点で街自体の底力を挙げていくことを目指しています」と力を込める。

  • エヌアセットでは「街の価値を高める」ことに注力している

    エヌアセットでは「街の価値を高める」ことに注力している

こうした経緯もあり、街に人を集められるような施設として「街のランドマーク」を掲げ、2017年にnokuticaをオープンしたというわけだ。

とはいえ、当初はシェアオフィスという発想はなく、シェアハウスという構想もあったが、消防法や建築基準法の規定などもあり、コストと見合わなかったため、シェアオフィスとして整備したという。

山下氏は「人を集める施設にしたいとうこともあったので、1番最初に企画したのはコーヒースタンドのテナント募集でした。そこで手を挙げていただいたのが『二坪喫茶アベコーヒー』でした」と話す。

nokuticaの工事監修を行い、レンタルオフィスに入居している人との打ち合わせで「知り合いの方にカフェをやりたい方はいませんか?」と聞いた際に、将来的にカフェの開店を検討し、当時は広告代理店に勤務していた女性を紹介されたという。その後、女性は会社を退職し、オーストラリア・メルボルンで1カ月の修行を経てオープンに至ったという。

  • エントランス横にある「二坪喫茶アベコーヒー」

    エントランス横にある「二坪喫茶アベコーヒー」

  • エントランスを上がると石油ストーブが鎮座。温かみとレトロな印象を演出している

    エントランスを上がると石油ストーブが鎮座。温かみとレトロな印象を演出している

Akerunの採用に至った背景とは?

改装に関しては、なるべく古いものをそのまま利活用しようとしたものの、配線系統や電気設備などの経年劣化もあり入れ替える必要があった。そして、施設への入退出についてはAkerunやビットキーなど、複数のスマートロックを比較した結果、Akerunを採用することになった。

  • フォトシンスのスマートロック「Akerun」(1)

    フォトシンスのスマートロック「Akerun」(1)

  • フォトシンスのスマートロック「Akerun」(2)

    フォトシンスのスマートロック「Akerun」(2)

Akerunを採用した理由について、山下氏は「nokuticaは365日(6時~23時)開けていますが、ゴールデンウィークやお盆、年末年始など長期休暇の際はスタッフが不在で買い維新現手にしています。不在とするため、セキュリティに課題を抱えるため会員への権限付与を増やして、まずはその方々達しか入れないようにしたいと考えた一方で、スタッフが常駐しているときは、権限なく誰でも入りやすい空間にしたかったので、細かな時間分けの設定を可能にしたいとも考えていました。そうした中、われわれが望むような使い方ができたのはAkerun一択でした」と経緯を説明した。

  • 1階の共用ラウンジ

また、同氏は細かな設定に加え、遠隔で操作できることやワンタイムパスワードの発行なども含めて、手間を削減できることも採用に至った理由に挙げている。解錠の際はAkerunのアプリでBluetooth通信、または入会時に購入してもらうICカードをかざせば入室できる。

  • カフェで購入したコーヒーも飲める施設内の屋外スペース「nokutica Pocket Park」

    カフェで購入したコーヒーも飲める施設内の屋外スペース「nokutica Pocket Park」

顧客管理にはstationが提供するコミュニティツール「station」とAkerunをAPIで連携させており、施設内のイベント情報や募集中の案件、施設・近接エリアのQ&Aなどに活用し、キャッシュレス機能も設けている。

  • 2階のコワーキングスペース

    2階のコワーキングスペース

  • 2階のコワーキングスペース天井部にある立派な梁

    2階のコワーキングスペース天井部にある立派な梁

“溝の口”という街のポテンシャルに期待

事業について山下氏は「ほぼ利益はありません。ただ、われわれとしては『エヌアセットさんが何か面白そうなことやってるね、いいことやっているね』と感じてもらい、赤字にならない形で運営しています」と街の価値を高めるための取り組みである点を強調している。

  • 2階のレンタルオフィス

    2階のレンタルオフィス

席数自体が多くはないものの、平日昼帯は7~8割程度席が埋まり20~30人、土日祝日はアベコーヒーはオープンしているため、遠方から来る人も含めると40~50人に利用されているという。

さらに、アパレルの撮影やワークショップなどを開催する人もいるとのこと。2~3人程度で利用する個室レンタルオフィスのニーズもあり、現在では20組程度のキャンセル待ちが発生している状況だ。

最後に、同氏は「溝の口は昔からの地主さんが多く、チェーン店ではなく20~30代など比較的若い方も飲食店を経営するなど、個人店が力を持っていることがままあります。ただの都心から近い便利な街、だけではないポテンシャルを秘めているのです」と感慨深げに語っていた。