群馬大学(群大)は1月23日、動物モデルを用いて膝関節の機能に重要な半月板の変性に対する衝撃波治療法の効果を検証した結果、同治療法は半月板の変性の進行を抑制することを明らかにしたと発表した。
同成果は、群大 医学部附属病院 整形外科の髙瀬亮太医員、群大大学院 医学系研究科 整形外科学講座の筑田博隆教授、群大大学院 医学系研究科 応用生理学講座の鯉淵典之教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国スポーツ医学整形外科学会が刊行する公式学術誌「The American Journal of Sports Medicine」に掲載された。
膝関節にある半月板は、関節の上にある大腿骨と下にある脛骨の間に存在する軟骨組織で、歩行時の衝撃を吸収するクッションや、関節を安定させるなどの重要な役割を担っている。その半月板などの膝関節を支える軟骨組織が加齢などによりすり減り、膝関節の骨が変形して痛みを発症する疾患が、変形性膝関節症だ。上述したように、膝関節において半月板は重要なパーツであるため、その変性や損傷は、変形性膝関節症の発症と進行に大きく関係している。なお、運動器疾患を予防対象とした大規模コホート調査の「ROADスタディ」によれば、変形性膝関節症患者は特に女性に多く、日本に2530万人がいると推定されているという。
膝の痛みは歩行を困難にするため、痛みの発現に伴って外出が減りがちだ。高齢者にとって歩行ができなくなることは、認知症の発症や進行にもつながるため、膝の痛みを取り除くことが強く求められている。しかし、変性した半月板に対する有効な治療法がないのが実情であり、変形性膝関節症による痛みがとても強い場合などには、骨や軟骨を人工のものに置き換える手術(人工膝関節置換術)を行うしかない。厚生労働省のデータによると、同手術は年間に9万件以上が実施されており、医療経済に大きな影響を与えているとする。
そうした中で、変形性膝関節症による課題解決において期待されているのが、衝撃波治療法だ。同治療法は、高速で動く物体が生み出す音波などの波の速さが音速を超える時に発生する圧力波(衝撃波)を利用して痛みを取り除き、筋肉や腱膜の修復を促すというもので、整形外科領域においても腱付着部症などに有効な治療法とされている。また、軟骨に対しては保護効果があることがわかっているが、これまでのところ半月板の変性に対する効果については不明だったとする。
そこで研究チームは今回、前十字靭帯損傷によって変性が生じた半月板に対する体外衝撃波治療法の効果を検証するため、同靱帯を損傷した動物モデルを用いた実験を行ったとのこと。なお同靭帯は、大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯の1つとして膝関節の安定性を担っており、損傷によって同靭帯の機能が失われると、半月板が傷むことが知られている。
今回の研究では3年間にわたる動物実験が行われ、衝撃波治療法を行うことで、4週と12週において半月板の変性変化が抑制されることが確認されたという。また、その過程で衝撃波治療法は半月板における「軟骨修復因子」(軟骨が治る際に発現するタンパク質)の発現を活性化することも判明したといい、前十字靭帯損傷後の変性半月板に対する衝撃波治療法の有効性が初めて示されたとする。
研究チームは今回の研究成果について、半月板変性に対する新たな治療法の確立に向けた、重要なステップになることが考えられるとしている。