東京大学(東大)は1月11日、特定の文字および数字パターンを有する「マイクロニードルパッチ」の新しい作製方法を開発し、それを用いる動物の個体識別用の新しい標識付け方法を提案・検証したことを発表した。

  • 今回開発されたマイクロニードルパッチを用いた動物識別方法の概要図

    今回開発された文字パターンを有するマイクロニードルパッチを用いた動物識別方法の概要図(出所:東大 生研Webサイト)

同成果は、東大 生産技術研究所(生研)の朴鍾淏助教、同・金範埈教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

マイクロニードルパッチは、長さ約1mm以下の針形状の微細構造体が一定の配列で並んだ(アレイ化)パッチである。その作製には、原型となるマスターモールド(最終作製物と同一な寸法と形状を持つように設計・作製された高精度の微細構造が形成されている鋳型)を作製し、それの雌型モールド(マスターモールドと同一寸法だが凹凸形状が反転しているモールドのこと)の追加作製、混合液の充填と離型というプロセスが使われる。つまり、異なるパターンを作製するためには、それぞれマスターモールドと雌型のモールドの作製が必須であり、コストや作業工数がかさむ要因となっていた。

そこで研究チームは今回、3Dプリンタで作製したプラグを用いることで、手軽に特定のパターンを有するマイクロニードルパッチ用の雌型モールドの作製が可能な新規手法を開発。同一のマスターモールドから、複数の文字を含むさまざまなパターンを有するマイクロニードルパッチの作製を実現したとする。

具体的には、マスターモールドから作製されたベースモールド上にあらかじめ設計されたパターンの形を持つプラグを固定し、不要な空洞を埋め込むことにより特定のパターンを有するマイクロニードルパッチが作製できる雌型モールドを準備。この時、プラグのデザインを変更するだけで、マスターモールドの新規作製をせずにさまざまなパターン入りの雌型モールドの作製が可能になる。そしてその雌型モールドを用いることで、最終的にはプラグと同様のパターンを有するマイクロニードルパッチを作製できるという仕組みだ。

  • 文字パターン入りの雌型モールドとそれによるマイクロニードルパッチの作製プロセス

    文字パターン(C3文字列)入りの雌型モールドとそれによるマイクロニードルパッチの作製プロセス(出所:東大 生研Webサイト)

研究チームは今回の成果により、今まで試されていなかった文字や数字などのパターン入りのマイクロニードルパッチの作製が、より簡便かつ迅速に実現できるようになるとする。そのため、今後はマイクロニードルパッチを用いた応用研究の発展に寄与することが期待されるとしている。

また今回の研究では、パターン入りのマイクロニードルパッチの新しい作製方法の開発に続き、さらなる応用研究として、そのパッチを用いた動物の個体識別を目的とした標識付け方法も提案され、その検証に成功したとのことだ。

従来の動物の標識付けには、別途の識別用タグを準備し、それを体外または体内に着けたり、埋め込ませたりする方法が用いられてきた。しかしそれらの手法では標識用タグ・施術用道具を必要とし、時には獣医師による麻酔や施術を要するという課題があった。

それらの課題を解決するため、研究チームは今回、特定の文字と数字のパターンを有する溶解性マイクロニードルパッチの作製の際に、針構造体となる材料に不溶性インクを混合。これにより、構造体が皮膚の真皮内に溶け出した際に、インクがパターンの形で同時に溶け出して永久に残存するようにしたという。その結果、パッチの貼付という作業のみで動物の皮膚上に標識付けが行われる「バイオタギング」が実現されたとした。

  • パターン入りのマイクロニードルパッチを用いたラットの皮膚上のバイオタギングの結果(10日後)

    作製されたパターン入りのマイクロニードルパッチを用いたラットの皮膚上のバイオタギングの結果(10日後)(出所:東大 生研Webサイト)

今回の研究成果から、認識用パターンを有する溶解性マイクロニードルパッチの利用により、低侵襲で医療従事者を要しない、一般人でも標識付けの施術が可能な、あるいは廃棄物の低減が可能な新しい標識付け方法が提案・実証された。研究チームは、今後動物関連の学界および産業界において、さまざまな応用分野への波及効果が期待されるとするとともに、今回の成果をもとにして、将来は美容タトゥーのような用途向けの応用も期待できるとしている。