2023年も数えられるだけの日数を残すだけとなり、もう2024年は目の前に迫っている。無事に新しい年を迎えられるのは喜ばしいことだが、「2024年がやってくる」ということを手放しに喜べない業界もある。

その理由が「2024年問題」だ。これは、働き方改革法案により、物流/運送業界・医師・建設業などの業界で労働時間に上限が課されることで生じる問題の総称のことを指す。

物流/運送業界の2024年問題においては、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで、1人あたりの走行距離が短くなり、長距離で荷物が運べなくなると懸念されている。

さらには、物流・運送業界の売上減少、トラックドライバーの収入の減少なども懸念されており、非常に深刻な問題だ。そのため各社は、2024年問題に対応するためにさまざまな取り組みを行っている。

今回は、荷主企業(物流会社から見た倉庫に置いてある商品の権利を持つ企業)のメーカーとして、2024年問題の対応に奔走するサントリーホールディングスの取り組みについて、同社 サプライチェーン本部 物流部部長 兼 戦略部部長の大泉雪子氏に話を聞いた。

  • 今回話を聞いたサプライチェーン本部 物流部 部長 兼 戦略部 部長の大泉雪子氏

    今回話を聞いたサプライチェーン本部 物流部 部長 兼 戦略部 部長の大泉雪子氏

自社開発の配車システムで無駄を省く運輸を

まず、大泉氏は「荷主企業のメーカーにとって物流問題は最重点課題です。酒類・清涼飲料を含む『食料工業品』は、機械に次ぐほどの国内輸送量となっています。その中でもサントリーグループは、国内酒類・飲料で、年間約6億ケースを販売しているため、酒類・飲料メーカーの中でも日本最大級の物流量となっています」と語る。

  • サントリーグループの物流について語る大泉氏

    サントリーグループの物流について語る大泉氏

輸送力の減少によって顧客に商品を届けることが困難になる可能性が出てしまうことは、サントリーにとっても死活問題であると捉えている。

サントリーは20年以上前から物流への取り組みを実施しており、その中でも特徴的な取り組みは、無駄を省く配車システムの構築だ。1億5000万通りの組み合わせの中から最適な配車・ルートを計画するシステムを、サントリーの物流機能会社であるサントリーロジスティクスが開発し、特許を取得している。

「この配車システムは、1997年にサントリーロジスティクスが自社開発し、2001年に特許を取得しました。各配送センター間の往復や工場と資材会社間などの空車運行を減らすことで、輸送トラック台数を削減することに役立ててきました」(大泉氏、以下同)

加えて、サントリーは2023年6月より物流管理システム刷新に取り組んでいる。委託先が持つ車両の位置情報を自動収集し、把握する機能を搭載するというものだ。これにより物流企業やドライバーに対する配送状況の問い合わせ業務の削減につながっているという。

  • サントリー物流管理システム画面イメージ

    サントリー物流管理システム画面イメージ

「年末年始やゴールデンウィーク、夏季など、貨物量が増える時期は特に交通網の乱れなどが発生しやすいと言われています。そのため、今までは問い合わせ業務に割く時間も多かったのですが、物流管理システムの刷新によって、物流企業やドライバーの問い合わせ対応時間が年間で計約6万時間の削減を見込んでいます」

  • 物流管理システムによる効果

    物流管理システムによる効果

大王製紙グループとの共同の取り組み

またサントリーは、自社内での取り組みだけでなく、さまざまな企業と共同で2024年問題へ向けた取り組みを進めている。それが「他企業との共同輸送」だ。

サントリーでは2009年以来、ビールメーカー各社や異業種の各社と共同で輸配送を実施している。その中でも、大王製紙グループとの取り組みは特徴的だ。

「酒類・飲料製品は重く、積載重量制限のため、サントリーの酒類製品をフル重量で積載した際の容積率は60%程度でした。そのため、紙という軽い製品を扱う大王製紙グループと共同でトレーラー輸送を行うことで、空きスペースを上手く活用し、混載させることで積載効率をアップすることに成功しました」

  • トラック混載イメージ 上段:大王製紙 ノーカーボン紙 下段:サントリー オールフリー

    トラック混載イメージ 上段:大王製紙 ノーカーボン紙 下段:サントリー オールフリー

大王製紙グループとの取り組みはこれだけに留まらない。3人のドライバーがリレー形式で「スイッチ輸送」を行うという形式を取ることで、労働時間や労働環境の改善を行っているのだ。

両社は、輸送エリアを関東・中部・関西という3つに分割し、それぞれの地域を担当する乗務員を分けることで、ドライバー1人あたりの拘束時間を削減している。次の担当者に交代する時はトレーラーシャーシ(貨物部分)を交換することで、簡単に引き継ぐことができるため、従来1泊する必要のあったドライバーが日帰りすることが可能になったという。

「これらの取り組みに加えて、大王製紙グループとは、2022年8月から関東~関西間、2023年9月から関東~四国間を往復で鉄道輸送を開始しました。サントリーは関東から関西へ、大王製紙グループは関西から関東への輸送が多く、これまでは各社が別々に片道分の鉄道輸送を利用していたのですが、共同で取り組みを進めることで、往復で鉄道輸送ができるようになり、往復輸送が前提となる、大型コンテナの使用が可能となりました」

これにより、トラックから鉄道輸送へのモーダルシフト(トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること)をさらに促進していきたい考えだという。

消費者の「美味しい」を聞くために…… サントリーの挑戦は続く

今回、話を伺った大泉氏は、元々マーケティングの仕事をしている時にサプライチェーンの重要性を感じ、サプライチェーン部門に異動した。それから10年近く、身を置く中で「サプライチェーンの難しさ」は年々強くなっていると感じているという。

その要因の1つとなっているのが「災害」の存在だ。今夏も「災害的な暑さ」という言葉を聞く機会が多かったように、この10年で災害の数は増えている。大泉氏は「大袈裟に聞こえるかもしれませんが、災害にどのように対応していくかが企業の生き残りに関係してくると思います」と話すほど、今後の1つの重要な部分になっていくとの見立てだ。

最後に大泉氏に「サントリーとして今後どのように物流問題に取り組んでいきたいか」を伺うと、以下のように今後の展望を語ってくれた。

「日本郵便が土曜日の配達を廃止したことも記憶に新しいと思いますが、日本の物流を守るために日本の体制が少しずつ変わっていっていると思います。サントリーの事業も、商品をお届けして、消費者の皆さんに『美味しい』と言っていただけて、初めて成り立つ仕事です。物流を企業の最重要課題と捉え、サントリーが今後の物流業界の新たなスタンダードを作る覚悟で取り組んでいきたいと思っています」

  • 今後の展望を語る大泉氏

    今後の展望を語る大泉氏

2024年はもう間もなく。間違いなく、物流/運送業界と荷主企業であるメーカーのこれまでの取り組みが試される1年になることだろう。サントリーの取り組みはこれからも続く。