米宇宙企業ロケット・ラボは2023年12月15日、小型ロケット「エレクトロン」の打ち上げに成功した。

エレクトロンは9月に打ち上げに失敗しており、今回が失敗後初の打ち上げとなった。

ロケットには日本のベンチャー企業QPS研究所の小型地球観測衛星「ツクヨミ-I」が搭載されており、無事所定の軌道に投入された。

  • QPS研究所の小型地球観測衛星「ツクヨミ-I」を載せたエレクトロン・ロケットの打ち上げ

    QPS研究所の小型地球観測衛星「ツクヨミ-I」を載せたエレクトロン・ロケットの打ち上げ (C)Rocket Lab

The Moon God Awakens (月の神の目覚め)

ツクヨミ-Iを載せたエレクトロンは、日本時間12月15日13時05分(ニュージーランド夏時間17時05分)、ニュージーランドのマヒア半島にある同社の発射場から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、14時02分に衛星を分離して、打ち上げは成功した。

分離から約40分後には、QPS研究所の地上局とツクヨミ-Iとの初交信が成功し、衛星の各機器が正常に作動しており、衛星の状態が正常であることを確認したという。QPS研究所は今後、調整を行い、アンテナの展開、そして初画像の取得を目指すとしている。

今回のミッションは、ツクヨミ-Iの愛称の由来である日本神話の月読命(ツクヨミノミコト)にちなみ、「The Moon God Awakens (月の神の目覚め)」と命名された。また、「QPS-SARコンステレーションの2機目(複数機)、さらには傾斜軌道となる5号機が打ち上がることで、まさにこれからその力が目覚め、本領を発揮する」という想いも込められているという。

QPS研究所は2005年に福岡で創業された宇宙開発ベンチャー企業で、電波を使用して地表の画像を得る合成開口レーダー(SAR)を搭載した小型衛星を開発、運用している。独自の技術で小型軽量ながら大型の展開式アンテナを開発し、従来のSAR衛星の20分の1の質量、100分の1のコストとなる、100kg台の小型SAR衛星を実現した。

これまでに6機の衛星が打ち上げられ、打ち上げに失敗した2機を除き、現時点でQPS-SAR1号機「イザナギ」、2号機「イザナミ」、6号機「アマテル-III」、今回打ち上げられた「ツクヨミ-I」の4機を運用している。

また、3号機以降には展開型太陽電池パネルとバッテリーを追加して使用できる電力量を増やし、アンテナの鏡面精度も向上させることで、さらに強い電波を出せるようになっているほか、「軌道上画像化装置」を搭載することでSAR観測データを軌道上の衛星内で処理し、衛星からのダウンリンク量の大幅な圧縮を可能とし、即応性の高い観測ニーズに応えられるようになっている。また、軌道制御用のスラスターも搭載するなど、さらに高精度・高画質の画像を取得できるよう改良が加えられている。

同社は将来的に、36機の衛星からなるコンステレーション(編隊)を構築し、世界中のほぼどんな場所でも平均10分以内に撮影し、特定の地域を平均10分に1回定点観測することを目指している。

  • ツクヨミ-Iの想像図

    ツクヨミ-Iの想像図 (C)QPS研究所

  • ツクヨミ-Iの収納型アンテナの展開の様子

    ツクヨミ-Iの収納型アンテナの展開の様子(C)QPS研究所

9月の打ち上げ失敗からの復活

ロケット・ラボ(Rocket Lab)はカリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、数百kg級の小型・超小型衛星の打ち上げに特化した「エレクトロン(Electron)」ロケットを運用している。

これまでに衛星の打ち上げでは41機が打ち上げられ、そのうち4機が失敗している。最も直近では今年9月19日に失敗しており、今回が失敗後初の打ち上げとなった。

9月の打ち上げでは、発射台からの離昇、機体に最も負荷がかかるマックスQの通過、そしてロケットの第1段と第2段の分離までは正常だった。しかし、打ち上げから151秒後、第2段の電源システムからの電圧が急激に低下する異常に見舞われた。エレクトロンのロケットエンジンは電動ポンプで駆動されており、この異常により1秒足らずで第2段は完全にパワーを失った。そして、軌道速度に達することができず、大気圏に再突入して打ち上げは失敗に終わった。地上や海上への被害はなかった。

失敗原因の分析の結果、エンジンの電動ポンプのモーターのコントローラーに高電圧を供給する電源システムの中で、予期せぬアークが発生し、バッテリー・パックがショートした可能性が高いと結論づけられた。

このアークは、複数の要因のまれな相互作用によって発生した可能性があると結論付けられている。

要因として挙げられたのは次の3つである。

  • 直流高電圧電気と重畳された交流電気が第2段の電源供給システムに供給されると、システム内のエンジン・モーター・コントローラーからリップル電圧が生成される
  • エレクトロンの第1段と第2段の間に、低濃度のヘリウムと窒素のガスが存在していた
  • 電源システム内のワイヤーハーネスの、きわめて軽微な絶縁不良

ロケット・ラボによると、これらの要因のいずれかが単独で今回のような事象を引き起こすことはおそらくないものの、これらの要因が宇宙の低圧環境で、なおかつ同時に発生すると、パッシェンの法則(放電が起こる電圧に関する法則)によって定められた、アークの形成と放電のしきい値に達するとしている。また、事前に予測することや、地上で宇宙環境を模擬した設備で試験することが難しい、非常に複雑な条件だったとしている。

この調査結果を受け、再発防止のため2つの是正処置を行うとしている。

ひとつは、第2段の電源システムの打ち上げ前試験の強化で、従来すでに圧力やイオン化レベル、電圧など、その動作パラメータの全範囲をカバーしていたものの、宇宙で経験するよりもさらに過酷な条件を考慮した、新しい試験ルーチンを設けるという。

もうひとつは冗長機能の追加で、電源システムを収容する部分を改良し、打ち上げから第3段のキック・ステージの分離まで最適なガス圧を維持できるようにしたという。この部分を加圧することで、アークが発生する可能性を大幅に減らすことができるとしている。

ロケット・ラボの創業者でCEOを務めるピーター・ベック氏は、「原因は非常に複雑で、おおよそ起こりそうもない、トリッキーな問題でした。ですが私たちのチームは、より優れたロケットに改良して打ち上げに戻れるよう、徹底的に調査し、修正しました」と述べている。

  • 打ち上げを待つエレクトロン

    打ち上げを待つエレクトロン (C)Rocket Lab

参考文献

Rocket Lab Reaches New Annual Launch Record with 10th Electron Mission This Year | Rocket Lab
Rocket Lab Sets Next Electron Launch Window, Provides Update on Anomaly Review | Rocket Lab
2023年12月15日(日本時間)にQPS-SAR 5号機「ツクヨミ-I」が打上げられ、初交信に成功しました | iQPS Inc.