京都大学(京大)と広島大学の両者は12月25日、単一光子源と線形光学素子のみでは実現が不可能な複雑な量子状態の「非フォック状態」の存在を理論的に明らかにし、光量子回路を用いて最も本質的な同状態を実現、さらに同状態に特徴的な性質を用いて生成の検証実験に初めて成功したことを発表した。
同成果は、京大大学院 工学研究科の朴渠培大学院生、同・岡本亮准教授、同・竹内繁樹教授、広島大のHolger F. Hofmann教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
電子や光子などのミクロの世界に存在する量子は、マクロな世界に生きる我々の感覚に反するような、不思議な振る舞いをすることが知られており、量子個々の振るまいや相関を制御する量子コンピュータや、盗聴不可能な暗号を実現する量子暗号、従来の計測技術の限界を超える量子センシングなどの研究開発が進められている。
そうした量子の中でも光子は長距離伝送が可能であり、室温でも量子状態が保存されるため有力な担体と考えられている。特に、さまざまな、複数の経路(モード)に複数の光子が存在する量子状態(多光子多モード状態)は、光量子コンピュータや光量子センシング、また光量子暗号の長距離化のためのリソースとして非常に重要だとされている。
それらを応用するには、必要となる多光子多モード状態を実現し、そのような状態が実現されていることを効率的に検証することが必要となるが、これまでのさまざまな研究では、半透鏡(ビームスプリッタ)などの「線形光学素子」(光の入力強度に対して出力の強度が比例(線形)するような素子)に、複数の単一光子を入射させて量子状態を生成・制御する方法が用いられており、任意の多光子多モード状態を実現しうるのかといったことは不明だったとのこと。
そこで研究チームは今回、まず、単一光子源(光子を1つずつ発生させる装置)と、線形光学素子のみで実現できる多光子多モード状態の「フォック状態」に対し、その組み合わせでは実現が不可能な多光子多モード状態の非フォック状態の存在を理論的に解明することにしたという。
その結果、フォック状態に対する非フォック状態の存在を理論的に解明することに成功したほか、非フォック状態に関してもフォック状態から比較的容易に実現できる非フォック状態「NF-AFS」と、生成が困難な本質的な非フォック状態「iNFS」に分類されることが示されたとした。そして今回の研究ではそのiNFSの一種を、2つの光子が3つの経路に存在する場合について、独自開発の「フーリエ変換光量子回路」を駆使することにより実現したという。
iNFSは、含まれる光子のいずれかを検出しても、残りの光子が複数の経路の重ね合わせ状態に存在するという「条件付きコヒーレンス」を示すことが見出された。また、この性質を利用した効率的な検証方法が発案され、今回実現された状態がiNFSであることの実証も行われたとする。
なお研究チームは今後、今回実現された手法を用いてより大規模な多光子多モード状態の実現を目指すと同時に、今回実現された光量子回路のオンチップ化にも取り組む予定としている。