国立がん研究センター(国がん)は12月22日、医用画像をデータベースから検索するための新しい人工知能(AI)技術を開発したことを発表した。

同成果は、国がん研究所 医療AI研究開発分野の小林和馬研究員、同・浜本隆二分野長、国がん中央病院・放射線診断科の渡辺裕一医長、理化学研究所 革新知能統合研究センターのLin Gu研究員、同・幡谷龍一郎特別研究員、東京大学 先端科学技術研究センターの原田達也教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、医学および生物学的画像分析に関する全般を扱う学術誌「Medical Image Analysis」に掲載された。

CTやMRIは、がんをはじめとするさまざまな疾病を診断するため、患者体内の構造や機能を可視化することができる、現代医療になくてはならない検査機器だ。そのため、日々撮影された検査画像がデジタルデータとして病院に大量に蓄積され続けている。医用画像における疾病の“見た目”は、それぞれの疾病の性質をよく反映していることが多いため、過去に蓄積されてきた膨大な医用画像検査のデータから、目の前の患者の診療に対して参考になる症例を検索することができれば、精密な診療を行う上で大きな助けとなる可能性があるという。

しかしながら、このような医用画像における疾病の見た目は、キーワードや文章では表現しきれない。そこで、医用画像の「どこに・何が」写っているのかという画像中の内容(コンテンツ)に応じたコンテンツベースの画像検索技術が開発されてきた。

従来のコンテンツベース画像検索の主なアプローチでは、医用画像のどこに・何が写っているのかというコンテンツを表現する情報を、実際に検索したい参照画像と同じ特徴を有するクエリ画像をあらかじめ用意し、そのクエリ画像から抽出していたという(クエリとはデータベースに対する問い合わせのこと)。

ところが、医療者が検索したい参照画像に類似したクエリ画像が常に手元にあるとは限らず、その検索の自由度には大きな制約があったとのこと。また希少な症例のように、そもそも類似したクエリ画像を用意することが困難な医用画像データを検索することが難しいという、原理的な課題も抱えていた。そこで研究チームは今回、クエリ画像を必要としないコンテンツベース画像検索の新技術として、スケッチによる医用画像検索技術の開発を目指したという。

  • 従来の医用画像検索の方法と、今回考案されたスケッチによる医用画像検索技術

    従来の医用画像検索の方法と、今回考案されたスケッチによる医用画像検索技術(出所:国がんWebサイト)

その開発において鍵となるのが、医用画像のどこに・何が写っているのかというコンテンツを表現する情報を、医用画像の特徴分解という考え方を応用することで、「どこに」という情報と、「何が」という情報の2つに分解し、それぞれを別々の方法で指定することによって表現できるのではないかと考えたとする。

具体的には、最初に場所を指定する情報(どこに)を、テンプレートとなる画像シリーズから、ユーザが任意の画像をテンプレート画像として選択することで示す。続いて、疾病の特徴を指定する情報(何が)については、そのテンプレート画像の上にユーザがスケッチすることで示す。この2つの操作の組み合わせにより、医用画像のどこに・何が写っているのかというコンテンツを表現する情報を、クエリ画像を要することなく表現することが可能となったとしている。

  • スケッチによる医用画像検索技術の仕組み

    スケッチによる医用画像検索技術の仕組み。医用画像の「どこに、何が」写っているのかというコンテンツを表現する情報を、テンプレート画像の選択と、ユーザによる病気の特徴のスケッチという2つの操作によって、検索システムに伝えることができる(出所:国がんWebサイト)

このスケッチによる医用画像検索技術により、クエリ画像を用意できない状況での医用画像検索や、希少な症例のようにそもそも類似したクエリ画像を用意することが困難な医用画像データについて、大規模なデータベースから効率的に検索できることが実証された。

このスケッチによる医用画像検索技術によって、膨大に蓄積された過去の医用画像検査から、目の前の患者の診療に対して参考になる症例を効率的に検索できるようになり、精密な診断やフォローアップを行う上で大きな助けとなる可能性があるとのこと。また研究チームは今後、今回開発された技術の社会実装にも取り組んでいく予定だとしている。