パナソニック ホールディングス(HD)が社員を企業の財産ととらえる「人的資本経営」を加速させている。働く時間や場所の選択肢を拡大し、社員一人ひとりが自分らしい働き方を選択できる環境を実現している。実際にグループ内でさまざまな働き方の事例が出てきた。
パナソニックHD 執行役員 グループCHRO(最高人事責任者)の三島茂樹氏は12月7日、報道各社による合同取材で「自己実現の機会を創出している。公募によるグループ内の人材交流などを通じて、自発的な挑戦を後押ししていく」と説明した。
働く場所・時間を徹底的に柔軟に
同社は2022年度から1日の最低労働時間を撤廃しており、働く時間や曜日を柔軟にしている。社員は「キャリアを開発したい」「ワークライフバランスを重視したい」といった個人のニーズに合わせて、働く時間が選択できる。
所定労働時間を短縮して週休3日・4日を実現し、空いた平日1日を副業に充てるといった働き方も可能だ。実際に、グループ全体で労働時間を維持しながら週休3日制としている社員は93人、労働時間短縮で週休3日および4日としている社員は4人いるという。
また同社はフルリモートでの働き方も推進しており、社員は通勤圏外で働くことが可能だ。帰省先や旅行先など一時的な遠隔地からの就業も認められており(都度上司が判断)、出社の場合は交通費が支給される。
遠隔地の採用や単身赴任の解消などにつながり、育児や介護をしながらでも働きやすい環境が整っている。現在131人の社員が通勤圏外からのフルリモート勤務を行っているという。
「一人ひとりの大きな成長。これ自体が人的資本だ。働き方や働く場所の選択肢を柔軟にすることで、望まないキャリアの転換や中断を避けることができる。誰もが諦めることなくキャリアをつないでいけるように支援していく」(三島氏)
事業会社のパナソニック オペレーショナルエクセレンスに勤める岩木智宏さんは、通勤圏外のフルリモート勤務を行っている社員の1人だ。横浜拠点の仕事を鹿児島から行っている。共働きのパートナーの職場は鹿児島にしかなく、夫婦揃っての育児のために転職まで検討していた時、制度が新設した。リアルで打合せした方がよい案件もあるため、月に一度は出社しているとのこと。
一方、通常のリモートワーク制度(1カ月の半分以上を在宅勤務)は1万1882人と、全社員の約19%が利用している(2023年4月時点)。新型コロナウイルス感染症の収束に伴い、対前年人数比は15%減となっているが、リアルとリモートを掛け合わせたハイブリッド勤務が定着しているとも言える。
また、2022年の年休取得率(年間25日に対する取得率)は78.4%と対前年取得率比で10%増加した。男性の育児休暇への制度も拡充させており、男性の育児休暇の取得率が64.8%。200日の育児休暇を取得した男性管理職の例もある。
公募による異動は過去最高の1548人
パナソニックグループは、社員のやりがいを後押しするため、公募異動にも力を入れている。2022年度の事業会社間の異動(転籍)は654人で、そのうち52%の339人が公募からだった。パナソニック インダストリーや、パナソニック コネクトといった事業会社の独自制度を合わせると、2022年度の公募による異動は合計1548人と過去最高となった。
パナソニック コネクトに勤める稲垣江里子さんは、社内公募を利用し、営業・企画分野 から生成AI(人工知能)・データ利活用の分野へ異動した。「文系だから理系の仕事は無理」という考えを捨てて、新たな分野への挑戦に踏み切ったという。職場の仲間からは「ITの専門用語ではなく、現場の視点や分りやすい言葉でコミュニケーションしてもらえるのが心強い」といった声が上がっている。
また公募制度の他にも、自ら手を挙げて本業とは異なる業務を兼務する「社内複業」制度も広がっている。パナソニック ハウジングソリューションズに勤める長谷川やよいさんには、もともと人の話を聞くこと、文章を書くことに興味があった。現在は社内副業制度を活用し、岐阜県のショウルームで勤務しながら、パナソニックHDのイントラサイト上でさまざまな社員の姿を紹介するコンテンツを執筆している。
パナソニックHDの人的資本経営を推進するのは人事部門だけではない。経営層も「社員のウェルビーイングの実現」にコミットできるよう、役員報酬に「人材戦略」といった評価基準を設けている。パナソニックHDの執行役員および主要事業会社の社長などが対象だ。
三島氏は、「それぞれの経営者が指標を作ってその進捗を反映させていく。中長期的にみて人材育成で成果を上げているのか。組織開発の指標に沿った育成ができているかどうか。そういった部分を360度評価などでしっかりと見定めていく」と説明した。