千葉大学、理化学研究所(理研)、広島大学の3者は12月13日、有機半導体の「励起子束縛エネルギー」(以下、EBE)の精密測定に成功し、EBEがバンドギャップの4分の1に比例することを発見したと共同で発表した。

同成果は、千葉大大学院 工学研究院の吉田弘幸教授、千葉大 融合理工学府の杉江藍大学院生(研究当時)、理研 創発物性科学研究センターの中野恭兵研究員、同・但馬敬介チームリーダー、広島大大学院 先進理工系科学研究科の尾坂格教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する物理化学に関する全般を扱う学術誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」に掲載された。

電気が流れる有機物である有機半導体はプラスチックの一種であり、シリコンなどの無機半導体に比べて、薄くて軽くてフレキシブルなデバイスを製造可能だ。また生体との相性も良いことから、今後、バイオセンサやヘルスケア分野への展開も期待されている。そうした次世代半導体として期待される有機半導体を、さらに発展させるために詳細に調べる必要があると考えられている性質の1つが「励起子」だ。

励起子とは、半導体が光を吸収する際に、電子と正孔がクーロン引力(電荷同士が互いに引き合う力)で結びついて生成される準粒子のことで、その引力の大きさがEBEだ。有機半導体のEBEは、0.03電子ボルト(eV)ほどの室温エネルギーの10倍以上もあるため、励起子が有機半導体中にいつまでも残ってデバイス動作を決定づけるとする。

  • 半導体に光を照射すると、正孔(+電荷)と電子(-電荷)が結びついた励起子ができる。励起子を解離させ、正孔と電子に分けるのに必要なエネルギーがEBEだ

    半導体に光を照射すると、正孔(+電荷)と電子(-電荷)が結びついた励起子ができる。励起子を解離させ、正孔と電子に分けるのに必要なエネルギーがEBEだ(出所:千葉大プレスリリースPDF)

このことから有機半導体の光エレクトロニクスでは、EBEを制御することが重要で、たとえば太陽電池では、まず半導体が太陽光を吸収すると励起子が生成され、それを電子と正孔に解離させることで発電する。励起子をできるだけ効率よく解離するには、EBEを小さくすることが肝要だが、これまでの有機半導体ではEBEの精密な測定はなく、励起子の性質についての研究が進んでいなかったとする。そこで研究チームは今回、千葉大の吉田教授が2012年に開発した「低エネルギー逆光電子分光法」(LEIPS)を用いて、有機半導体の「電子親和力」の測定を試みたという。

そして測定の結果、0.05eVという“画期的”な高精度で測定することに成功。これを用いてEBEを0.1eVという、従来の5倍の精度で決定する方法が確立された。

さらに同手法を用いることで、有機太陽電池材料、有機EL素子など、42種類もの有機半導体のEBEの決定にも成功。その結果をまとめたところ、EBEがバンドギャップ(電子の入れない禁制帯)の4分の1に比例するという結果が得られたとしている。

  • 42種類の有機半導体のEBEとバンドギャップの関係

    42種類の有機半導体のEBEとバンドギャップの関係(出所:千葉大プレスリリースPDF)

従来は、このような系統的で精密な測定結果がなかったため、大まかにEBEは0.5eV程度であり、分子の形や官能基の種類と関係すると信じられてきた。しかし今回の研究は従来の学説からはまったく予想できなかったものであり、分子の形などによらず、バンドギャップだけでEBEが決まることが判明した。つまり、EBEを制御するには、バンドギャップを変えることが最も効果的であることが判明したのである。

さらに今回の結果が、水素原子モデルを当てはめると説明できることも突き止められた。このような簡単な説明ができることは、有機半導体の励起子の性質を解明する上で重要な情報となるという。

研究チームはこれらの結果について、光エレクトロニクスと直結するものとする。今回の研究から、有機太陽電池材料ではEBEが0.2~0.6eV、有機EL材料では1eV以上であることが確認された。有機太陽電池材料で高い発電効率を得るには、EBEは小さい方が望ましく、それとは反対に、有機EL材料ではEBEが大きい方が電荷を結合して発光するのに有利と考えられる。これまでの有機デバイスの開発では、試行錯誤により材料が選ばれてきたが、今回の研究成果からEBEの面からも適切な材料が選ばれてきたことが確かめられたことになる。

EBEはバンドギャップに比例し、バンドギャップは、イオン化エネルギーと電子親和力の差でもあることから、光エレクトロニクスデバイスでEBEを最適化するには、バンドギャップを制御すること、そのためには適切なイオン化エネルギーと電子親和力の材料を選ぶ必要があることになる。バンドギャップは光波長と関わり、イオン化エネルギーや電子親和力は電子や正孔の注入・収集効率と関わることから、応用目的に合わせて、電極材料の選択まで含めた総合的なデバイス設計が必要であり、今回の研究の成果はその指針を与えるものとしている。

また研究チームは、今回の研究成果がきっかけとなって、励起子の性質についての基礎・応用研究がさらに発展し、今後の有機半導体を使った光エレクトロニクスの材料選択やデバイス設計に役立てられることが期待されるとした。

  • EBEの測定法を表すエネルギーダイヤグラム

    EBEの測定法を表すエネルギーダイヤグラム(出所:千葉大プレスリリースPDF)