コロナ禍を経て、オフィスの存在意義や、従業員同士のコミュニケーションの在り方を再考する企業が増えている。三菱電機もそんな企業のうちの一社だ。同社は11月1日、従業員のリフレッシュ&コミュニケーションスペース「4rest(フォレスト)」を開設した。と言っても、これはただコロナ禍で減った社内コミュニケーションを活性化させようというものではない。
同社は、2021年6月に発覚した品質不適切行為問題を受け、2022年4月に品質風土改革、組織風土改革、ガバナンス改革の「3つの改革」に取り組むことを発表した。また、人的資本経営を掲げ、従業員が快適に生産性高く働くことができる職場環境整備にも積極的に取り組んでいる。今回、組織風土改革、従業員のウェルビーイング推進の一環として本社ビルの4階に開設されたのが4restというわけだ。同社はこのスペースを活かし、どんなコミュニケーションの在り方を目指しているのか。三菱電機 総務部 企画課 専任の飯島健一氏と、同 全社変革プロジェクトグループ 専任 の石山鮎子氏に話を伺った。
“働くだけ”の場から、コミュニケーションの場へ
三菱電機は2021年に発覚した品質不適切行為問題をきっかけに、3つの改革を掲げ、全社変革プロジェクトグループが中心となって取り組みを進めている。改革対象の1つにも挙げられている組織風土について、飯島氏は「個人的な印象ではあるが」と前置きした上で、「会社はほぼ働くだけの場所という雰囲気を感じていた」と話す。三菱電機の本社ビルでは、フロアごとに事業本部や部署が分かれており、特に仕事上接点が少ない他部署の人と会う機会はめったにない。
「以前から、会社に出社し、せっかく多くの人と触れ合う機会があるのだから、もっと部門の垣根を越えてコミュニケーションがとれるような場所をつくりたいと考えていました」(飯島氏)
元々、三菱電機本社ビルには4階に来客を迎える応接スペースがあった。しかし、別フロアを増床し、応接スペースと会議室などが一体化した空間をつくったため、4階のスペースが空いた状態になっていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、このスペースは社内のサテライトオフィスや、ワクチン接種会場として使用された。しかしその後、コロナ禍の落ち着きと共に、「ぽつんと空いた空間として残っていた」と飯島氏は説明する。
2021年11月に同社ではフリーアドレス化に向け、全従業員向けのアンケートを実施。その際この4階のスペースについての要望も聞いたところ、1位はリフレッシュスペースが欲しいという回答、2位は既存の売店をより使いやすい場所に設置してほしいという回答だった。
これらを受け、飯島氏らは本格的に「コミュニケーションができ、リフレッシュできる空間」の開設に向けて、取り組みを開始した。
このとき、飯島氏ら総務部としては「“入れ物”をどう整えるか」に重きを置いていたという。しかし、ただ便利なだけのスペースでは組織風土改革につながらない。そこでこの空間にどのようなコンテンツを用意するのかは、全社変革プロジェクトグループと共に取り組むスタイルを採用した。
「私は全社変革プロジェクトグループの中で特に、コミュニケーション活性化をメインに取り組みを進めています。変化の激しい環境・社会に適応していくためには、部門を越えた有機的な繋がりによる組織力の強化が不可欠と考えており、その中で重視しているのが、雑談と相談を組み合わせた“雑相”コミュニケーションができること。そのきっかけになるような"気軽に繋がる"場所が必要と考えていたので、4restという“入れ物”をどう活用し、“雑相”コミュニケーションを浸透させていくかを模索しました。」(石山氏)
癒しを重視して選定した数々のコンテンツ
4階のスペースを活用するにあたり、まず考えたのは「どうやったら人が集まるか」ということだ。同僚はもちろん、ときには上司とも気軽に話せる“雑相”コミュニケーションを生み出すには、自然に人が集まるような場所でなければならない。
その要件として考え出されたものの1つが、「おしゃれな空間」であることだ。元々応接スペースだった4階は天井も高く、窓の外は樹木で囲まれ、窓越しにグリーンを垣間見ることができる。そこで、これを借景に「緑豊かで落ち着いた空間をつくる」という案が生まれた。そしてこの案を土台に、テーブル席やソファー席など約100席を配置し、売店と喫茶・軽食コーナーを持つ空間のデザインが完成した。またスペース内で流れる音楽は、時間帯に応じて曲調が変わるプログラムになっており、実際に切り替わりのタイミングで在室していた石山氏は「素敵な演出だと感じた」と語る。
居心地の良い空間はできたが、そこにどのようなコンテンツがあれば人が集まるのだろうか。犬や猫などのペットがいるスペースづくりを真っ先に考えたが、テナントビルであるため、動物の飼育はハードルが高いと断念した。その代わりに売店スタッフからの推薦により導入されたのがペットロボットの「LOVOT」である。「きなこ」と名付けられたロボットは、話しかけたり、撫でたりすることで鳴き声を発するなど、コミュニケーションをとることができる。その他にも、頭を柔らかくするためのパズルや、リフレッシュグッズを用意。さらに、特例子会社※「メルコテンダーメイツ」のチャレンジドによる10分間マッサージが受けられる空間も設け、癒されるコンテンツを充実させた。活力をリチャージし、ウェルビーイングに働くための環境づくりも意識した。
※「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」により一定の要件を満たしたうえで、厚生労 働大臣の許可を受けて、親会社(三菱電機株式会社)の1事業所(親会社に雇用されている)とみなされ、 特例として親会社の障がい者雇用率に織り込まれる会社
雑談できるのは「安心感」あってこそ - より充実したコミュニケーション空間を目指して
こうして11月1日、リフレッシュ&コミュニケーションスペース「4rest(フォレスト)」がオープンした。
では、従業員たちの反応はどうか。飯島氏は「じわじわと情報が広がっている」と話す。在宅勤務を主とする従業員が久しぶりに出社し、「初めて来てビックリした、うちの会社ではないみたい」と感嘆したという話や、「きなこに癒された」という声も耳に入ってきているという。
中でも飯島氏が印象深いと挙げたのが、他部門にいる同期入社のメンバーに久しぶりに会うことができたというエピソードだ。他にも、「久しぶり!」「元気にしてる?」という会話をしばしば耳にするという。部門ごとにフロアが分かれていることで、仕事上接点の少ない人と会う機会が少なくなりがちだったが、4restができたことで、そうした邂逅が生まれたことに、飯島氏は「やっていて良かったなと思う。ここに来ると、誰かに会えたり、何かを得られたりする、そういう認識が広まってくれたら嬉しい」と顔をほころばせる。
4rest開設までにかかった約2年を振り返った飯島氏は「この空間をつくり上げるまでの間にも、コミュニケーションの重要性を強く感じた。この空間がある会社で働けるというワクワク感を生み出すため、総務という立場での目線をこれからもキープしていければ」と話す。
新たな取り組みとしてサステナビリティ推進部と共に採り入れたのが、食品ロス削減に向けた取り組み「ECO FOOD 4U」だ。売店で賞味期限が迫り、従来は廃棄していた弁当などを無償提供し、その代わりにマッチング寄付制度への寄付を呼び掛ける。他にも、ごみの分別廃棄を呼びかけるリサイクルコーナーを設置するなど、社会貢献や環境を意識した取り組みにも力を入れる。
「これからも、コンテンツを充実させ、“楽しい”と思ってもらえる空間をつくっていきます。当社の従業員や4restで働くスタッフを含む全員がワクワクする空間になれば、リフレッシュ、リチャージにつながり、それがやがて会社の成長にもつながるのです」(飯島氏)
「ますます“雑相”コミュニケーションが広がる取り組みをしていきたいと考えています。雑談をする大前提は安心感があり、リラックスしていること。4restでリラックスした状態で人々がつながり、新たなアイデアが生まれるような場所になると良いですね」(石山氏)