【「食品EC」注目の新サービス】新規顧客の獲得へ 多様な顧客ニーズ取込みに注力

コロナ禍の反動もあり消費者の外食回帰への動きが活発化する中、2023年度の食品EC・宅配各社は前年から比べると売り上げが鈍化している。こうした中で、ミールキットや生鮮品を販売する食品ECでは、新たな顧客層を取り込もうと新サービスの開発を進めている。

オイシックス・ラ・大地では、廃棄されていた食材を活用したアップサイクル商品を開発・販売するフードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」の商品開発を強化。7月からは、月に一度のペースで、全国各県のご当地グルメを期間限定で販売するミールキットも企画した。

ミールキットを軸に販売する食品宅配のショクブンでは、既存の顧客層以外の若年層の開拓を狙ったアプリ専用の新ブランド「Meafill(ミーフィル)」」を開始した。週末用の時短調理メニュー「SpeeDish(スピーディッシュ)」も販売。紙媒体ではなく、スマホを中心に注文できるようにして新規顧客の獲得を狙う。

ワタミも通販事業に力を入れる。冷凍総菜の通販事業「ワタミの宅食ダイレクト」の商品を製造する自社工場「ワタミ手づくり厨房尼崎センター」を兵庫県尼崎市に新設し、月間20万食の製造を見込む。

異業種の参入も見られる。食品ECを新たに立ち上げた大阪ガスは9月12日から冷蔵総菜のサブスクリプションEC「FitDish(フィットディッシュ)」を開始した。ユーザーの好みに合わせて自動でメニューを選ぶなど時短を追求した。

食品EC・宅配各社の新サービスを紹介する。

【Oisix】ご当地グルメシリーズ開始 期間限定、毎月新商品を投入

オイシックス・ラ・大地が展開するOisix(オイシックス)は、日本各地のグルメのミールキットが毎月楽しめる「ご当地グルメシリーズ」を始めた。7月からサービスを開始、月に一度、日本各地の郷土料理をミールキットで届ける。第一弾は山口県、第二弾は広島県、第三弾は宮城県の商品を期間限定で提供する。

▲宮城県のご当地グルメ「はっと汁」

「ご当地グルメシリーズ」は、日本各地のグルメを本格的な味わいに仕上げたミールキットシリーズ。「共働きで小さい子どもがいる世帯など旅行に行くのが大変な家庭でも、地方の味を自宅で簡単に楽める」(広報)と話す。認知度が高いものだけでなく、知られざる地方の魅力的なメニューを発掘・開発するように心掛けているという。

9月に発売した第三弾、宮城県のご当地グルメ「はっと汁」はオイシックスらしく野菜をふんだんに使ってアレンジした。

【食べチョク】「非常食」の販売を開始 秋元社長「生産者の経営に貢献」

産直通販サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデンでは、2023年1月に始動した「食べチョク一次産業SDGsプロジェクト」の取り組みが着実に進んでいる。10月30日には、SBI FXトレードと共同で、食べチョク生産者の食材を活用した「非常食」の製造を新たに始めた。

この取り組みは、販路がない食材や市場で価値がつきにくい規格外の食材など、廃棄となってしまう可能性のある食材を活用。生産者の経営の安定化に貢献することを目的にしている。廃棄食材を活用した商品の製造を行うことで、食品ロスの削減への貢献も目指す。

▲「食べチョク一次産業SDGsプロジェクト」

今回発売するのは、「かぼちゃ」「小豆」「玄米」の3つの食材において生産者のこだわり食材を活用。「日常的に食べてもおいしい」と感じる味を追求した。素材本来の味を活かしたまろやかな甘みを楽しむことができる「スープ粥」となっている。

▲食品ロスの削減への貢献も目指す

秋元社長は「生産者のこだわり食材や廃棄されてしまう規格外食材を利用することで、おいしく日常的にも楽しめる非常食を開発した。家庭と生産現場での食品ロス削減や、生産者の経営安定にも貢献したい」と話している。

【FitDish】冷蔵総菜ECを展開 顧客の好みでメニュー自動選定

大阪ガスは9月12日から冷蔵総菜のサブスクリプションEC「FitDish(フィットディッシュ)」を開始した。ユーザーごとにパーソナライズした冷蔵パウチ型のメニューを月1回届ける。大阪ガスは、共働き世帯や単身世帯、高齢者などの利用を想定、生鮮や冷凍に次ぐ「第3の宅食」として位置付ける。5年以内に売り上げ数十億円を目指す。

「FitDish」は、スマホで家族構成や食の好みやアレルギーについて簡単な質問に答える「おまかせ診断」を搭載。ユーザーの好みに合わせたメニューをセレクトした「パーソナライズメニュー」を月1回届ける。診断結果や届けたメニューへのフィードバックに基づきにパーソナライズの精度が上がっていく仕組みだ。

▲「FitDish」

冷蔵パウチは湯せんや電子レンジで温めるだけ。メニューは、グループの大阪ガスクッキングスクールが監修した。

商品は和食、洋食、中華の主菜、副菜など計40種類以上。「家庭料理をコンセプトにもう一品(時間がない時に)作りたい商品を揃えた」(エナジーソリューション事業部の藤田敦史氏)。保存料や着色料を使用せず、約1カ月間保存できる。将来的には150~200種類に商品を増やす。

▲メニューは大阪ガスクッキングスクールが監修

昨今の冷凍ブームを踏まえ、解凍不要な冷蔵パウチ食品を届けることで、冷凍と比べて調理が時短になるだけでなく、冷凍庫が満杯になってしまう「冷凍庫渋滞」の解消を目指した。

税込価格は送料込みで10パック4850円から、40パック1万5800円。5パック刻みで購入することができる。

藤田氏は「第3の食卓というキーワードにしており、競合はあまりないと考えている。例えば、ミールキットにもう一品追加する利用も想定している」と話し、新規市場の開拓を目指している。

【ショクブン】2つの新ブランド アプリやSNSを有効活用

食品宅配のショクブンは、20~30代の顧客開拓に本腰を入れている。10月からアプリ専用の新ブランド「Meafill(ミーフィル)」の運用を開始したほか、週末に便利な時短ミールキット「SpeeDish(スピーディッシュ)」の販売を開始した。

「ミーフィル」は20~30代の家族の利用を想定する。アプリで日替わりの献立・レシピを提案するほか、利用週の前週金曜日までいつでもアプリで注文が可能。届け日の3日前までならアプリから問い合わせや変更、キャンセルを可能にするなど利便性を高めた。

▲時短ミールキット「SpeeDish」

「ミーフィル」を利用する顧客には紙媒体のメニューブックは配布しない。メニューでは、サラダやカットフルーツなども取りそろえた。

「ミーフィルポイント」と、クレジットカードが使えてポイントも貯められる。アプリでは料理のコツが分かるショート動画の掲載も予定する。

月~金まで届けるミールキットはチルドで配送するが、週末用の時短ミールキット「スピーディッシュ」は最短10分で調理できることをコンセプトにした。冷凍のため消費期限を気にすることなく利用できる。毎週水曜日までに注文すれば翌週の金曜日に自社配送エリア内で配送スタッフが届ける。毎月別冊カタログを届け、希望する週に注文する。

▲公式アンバサダーに歌手の島谷ひとみを起用

2024年3月期は、公式アンバサダーとして歌手の島谷ひとみを起用。テレビCMを放送して東海や関西地域での販売体制を強化する。CM開始に合わせて「ショクブンダンスチャレンジ」を開催し、SNSの投稿で若年層への認知を高める考え。