適格請求書(インボイス)などの保存を仕入税額控除の新たな要件とする「インボイス制度」が開始してから1カ月以上が経過した。インボイス制度施行後、初めての月末を迎え、登録番号の確認作業といった新たな業務負担に戸惑った担当者は少なくないだろう。

インボイス制度、3割が「対応が遅れている」

会計ソフト「勘定奉行クラウド」などを提供するオービックビジネスコンサルタントの調査結果によると、経理担当者の7割以上がインボイス制度の施行によりストレスを感じていることが明らかになった。特に不安に感じている業務としては「適格請求書発行事業者と免税事業者などの管理」が挙げられた。また、約8割の経理担当者が国のインボイス制度に対する説明について、不満を持っていることもわかった。

また、帝国データバンクが10月6日~11日までに実施したインボイス制度への対応状況に関する企業アンケートによると、順調に対応できている企業は3社に2社で、対応がやや遅れている企業は3割だった。制度の導入によって、現在または今後に「懸念事項あり」と回答した企業は9割に上る。懸念事項は「業務負担の増加」が7割でトップだった。

  • 出典:帝国データバンク

    出典:帝国データバンク

迫る「電子帳簿保存法の宥恕期間終了」

インボイス制度への対応が順調に進んでいたとしても、まだ一息つける状況ではない。2022年1月に改正された電子帳簿保存法(電帳法)の宥恕期間終了が2023年12月末に迫っているからだ。これにより、2024年1月からは電子取引データを紙で保存することが原則できなくなる。

Sansanが経理担当者1000人を対象に、9月29日~10月4日までに実施した調査結果によると、電帳法の対応率はいまだ6割を下回ることがわかった。特に対応率が低かった業界は食品や公共機関で、共に5割を下回った。対応しない理由としては「紙の請求書のやりとりが多く、請求書の電子保存は予定していない」といった回答が多かった。

  • 出典:Sansan

    出典:Sansan

電子帳簿保存法に対応するメリットとは?

一方で、電帳法に対応することのメリットは小さくはない。請求書を処理する時間を削減でき、請求書の検索も容易になる。もちろん書類のペーパーレス化にもつながる。

基礎工事やダム・トンネル工事などを手掛ける青山機工は、インボイス制度・電帳法それぞれに対応している。制度への対応だけでなく、業務削減を通じてより人材育成などへの時間に充てるため、2023年5月にSansanが提供するインボイス管理サービス「Bill One」を導入した。

Bill Oneは、郵送で届く紙の請求書やメールに添付されるPDFの請求書など、形式問わずあらゆる請求書をオンラインで受領・データ化することができる。請求書をクラウド上で一元管理することで請求書業務をデジタル化する。インボイス制度や電帳法にも対応しており、受領した請求書が適格請求書の要件を満たしているかを自動判定できる機能も備わっている。同サービスの有料契約件数は8月時点で1900件を超える。

青山機工の従業員は約130名で、毎月届く請求書は750件程度。システム導入を担当した青山機工 管理部 副部長の古部信氏は「毎月、幅が8センチあるキングファイルを3冊以上使わなければいけないくらい紙の数が膨大でした。業務負担も大きかったし、保管場所の確保も大変でした」と、システム導入前の当時を振り返る。

  • 青山機工 管理部 副部長の古部信氏

    青山機工 管理部 副部長の古部信氏

同社は、紙の請求書のやり取りが主流だったといい、直接書いた紙の請求書の情報をデータとして起こすといった2度手間も多く発生していた。紙の請求書は郵送する必要があり、「建設現場担当者の大きな負担になっていた」(古部氏)という。

Bill Oneを導入した背景について古部氏は「経理担当者が従来のアナログな作業に慣れていたので、『面倒がられたらどうしよう……』と、システムの導入には不安がありました。ですが、コロナ禍のようなパンデミックが再び訪れたとしても、テレワークで必要最低限の対応ができる環境を構築しようと思いました」と話す。

また、数多くある同様のサービスの中からBill Oneを選定した理由については、「デジタル化された請求書のアップロードだけでなく、紙の請求書の郵送にも対応している点が決め手となりました。完全にデジタル化してしまうと、今まで紙でやり取りしていた取引先は困ってしまいます。当社の場合、2次下請けや一人親方の会社との取引も多いので、今まで通り紙で出すこともできる機能は心強いです」と説明する。

インボイス制度の影響でさまざまな企業で混乱が続いている中、「電帳法の宥恕期間終了」という課題の渦が接近してきている。直撃まであと2カ月を切っている。