順天堂大学は10月30日、同大学が開発し2018年2月より公開されている花粉症研究用スマートフォンアプリケーション「アレルサーチ」を用いて収集した包括的な花粉症関連健康ビッグデータを解析し、ドライアイと花粉症の併発による症状と、両疾患が併発するリスク因子を解明したことを発表。今回の研究では、花粉症患者の約半数にドライアイが併存していること、ドライアイ症状の重症化は花粉症症状の重症化ならびに生活の質(QOL)の低下と関連があることを示したと報告した。
同成果は、順天堂大大学院 医学研究科眼科学の猪俣武範准教授らの研究チームによるもの。詳細は、医療情報学や医療サービス/医療政策に関する全般を扱う学術誌「Journal of Medical Internet Research」に掲載された。
花粉症とドライアイは、免疫アレルギー性疾患のうち眼表面において炎症を惹起するアレルギー性結膜炎であり、特にスギ花粉症とドライアイはどちらも乾燥した春季に重複して発症するため、互いに病態を悪化させてしまうことが知られている。また両疾患の併発は、コンタクトレンズの装用中断の主な原因にもなっている。
両疾患はその掻痒感、充血、乾燥感などの多くの症状でオーバーラップがあることが指摘されているが、どちらの症状も個々人における多様性と不均一性が存在する。そのため、これらの多様な症状を層別化し、個々人に適した予防や診療によるドライアイと花粉症に対する双方向的な治療が必要だという。
そこで研究チームは今回、アレルサーチを用いて収集した花粉症関連大規模ビッグデータを解析し、ドライアイと花粉症の併存やその症状の関連と、ドライアイと花粉症の併存するリスク因子の解明を目指したとする。さらに、個々人に適したドライアイと花粉症に対する予防や診療方法の確立を目指し、ドライアイと花粉症における個々人の多様な症状の層別化を行ったとのことだ。
今回の研究では、アレルサーチを対象期間中(2018年2月1日~2020年5月1日)にダウンロードし、オンラインで同意した1万1284名が対象とされた。同アプリでは、年齢、性別などの基本情報、病歴、生活習慣、住居環境、花粉症の症状(花粉症は研究参加者が「花粉症あり」と回答した場合に花粉症と定義され、9041人が該当した)、ドライアイの症状(ドライアイは同疾患の自覚症状ならびに視機能への影響を評価するための質問紙票「日本語版Ocular Surface Disease Index」を用いて評価)、花粉症と関連したQOL(アレルギー性結膜疾患QOL調査票を用いて評価)についてのデータ収集が行われた。なお花粉症の症状は、鼻症状スコア、非鼻症状スコアで評価したとしている。
そして研究チームは、ドライアイ症状と花粉症症状の関連を、多変量線形回帰分析を用いて解析した。また、花粉症患者におけるドライアイの併発と関連した因子については、多変量ロジスティック回帰分析で解析された。さらに、次元削減アルゴリズム「Uniform Manifold Approximationand Projection」(UMAP)を用いて、ドライアイと花粉症の併発した多様の症状を層別化し、階層型クラスタリングを用いて層別化された各群の特徴が解明された。
研究チームによると今回の研究結果から、9041人の花粉症患者のうち、約半数である4429人(49.99%)にドライアイ症状が認められ、ドライアイ症状の重症化は花粉症症状の重症化との関連が示されたという。
また、花粉症患者がドライアイを併発するリスク因子として、女性、低BMI、治療中の高血圧、血液疾患・膠原病・心疾患・肝疾患・呼吸器疾患の既往、アトピー性皮膚炎、トマトアレルギー、現在および過去の精神疾患、ペットの飼育、花粉症の季節におけるコンタクトレンズ装用中断歴、現在のコンタクトレンズの装用、喫煙習慣、6時間未満の睡眠時間などが特定されたとのことだ。
さらにUMAPにより、ドライアイと花粉症の多様な症状を14群のクラスターとして層別化することに成功。階層型クラスタリングから、クラスター9が重症ドライアイと重症花粉症の併発群であり、クラスター1が軽症ドライアイと重症花粉症の併発群であることが特定されたとする。
今回の研究では、ドライアイと花粉症の症状が臓器横断的に解析され、花粉症患者の約半数におけるドライアイの併発と、ドライアイ症状の重症化と花粉症症状の重症化との関連が解明された。さらに、ドライアイと花粉症の複合的な症状をもとにした層別化手法の開発や、花粉症にドライアイを合併する特徴的な因子の特定にも成功したとする。研究チームは今回の成果により、ドライアイと花粉症の併存による多様な症状に対する適切な加療が可能になることが期待されるとしている。