東日本大震災の経験を踏まえた災害に備えるべき

2023年10月13日、国土交通省(以下、国交省) 四国地方整備局高知港湾・空港整備事務所にて、西日本電信電話 高知支店(以下、NTT西日本 高知支店)との合同勉強会が開催された。

この勉強会は、南海トラフにおける大地震の発生に備え、災害対応を担うそれぞれの職員に通信や防災などのインフラ整備についての知識を深めることで、高知県内における「安全安心なまちづくり」実現を目的としたものだ。

初めに、国土交通省 四国地方整備局 高知港湾・空港整備事務所の所長を務める野呂茂樹氏が挨拶を行った。同氏は、東日本大震災の経験を踏まえ、想定外の最大外に災害に備える重要性を強調した。

「東日本大震災では、それまでの想定外の規模の大災害だったことから、事前に備えたこと以外のことは何もできませんでした。このため、災害後の対応の際には“やれることはすべて行う”が徹底されることとなりました。例えば、津波に流された遺体を安置する十分な場所が被災地にはなかったため、東京に安置所を設けるなど、想定外の対応を行いました。そうした教訓から、何かあれば“あらゆることをやらなければならない”という意識のもと、今回の勉強会において今後起きるであろう南海トラフ巨大地震に関する備えについて情報を共有することで、高知県の皆さんの安心につながることを目指したいです」(野呂氏)

NTTグループが取り組む2つの災害対策

続いて、NTT西日本高知支店副支店長の村井孝至氏が、NTTグループにおける災害対応についてプレゼンテーションを行った。NTTグループは918社から成り、災害対策として大きく2つの取り組みを行っている。それは、通信事業者としての取り組みとICTソリューションパートナーとしての取り組みである。

まず、通信事業者としての取り組みの一つがネットワークの信頼性向上だ。NTTグループでは、全国に存在する膨大な数の通信設備に対して耐震化や津波対策を行うなど、通信インフラの強化に取り組んでいる。これにより、地震や津波などの自然災害が発生しても、通信網が維持され、情報伝達が途絶えるリスクを減少させることにつながる。

次が、重要通信の確保である。災害発生時には、“孤立させないため”にも緊急通信が重要となる。NTTグループでは、災害発生時の重要通信の確保のために、特殊公衆電話による避難所等の通信の確保や、自治体と連携した“ご当地Wi-Fi”の解放を行うとともに、災害伝言ダイヤル(171)・災害用伝言板(Web171)といったサービスを提供している移動式基地局や衛星通信設備を利用し、被災地でも通信が可能な環境を提供している。

通信事業者としての取り組みのもう一つが、少しでも早く“つなぐ”ためのサービスの早期復旧である。

そして、ICTソリューションパートナーとしての災害対策の取り組みにおいても、NTTグループ、そしてNTT西日本として防災分野におけるさまざまな支援サービスを提供している。、村井氏は、特に情報収集、情報共有、住民への情報伝達といった災害対応時の重要なプロセスに関わる一部のサービスについて紹介すると、「これからも通信インフラを守り、高知の防災・減災に尽力していきます」と力説した。

  • 「~高知の災害に備える~インフラ整備に関わる勉強会」の様子

港湾業務艇「とさかぜ」に乗船して津波対策現場を視察

その後、国交省 四国地方整備局高知港湾・空港整備事務所の野呂氏が、国交省、四国地方整備局、そして同事務所の業務や役割について簡単に紹介を行った。

高知港湾・空港整備事務所では、高知港・高知港海岸や須崎港・指宿海岸避難港における防波堤や堤防の整備促進、避難港である室津港での防波堤整備の推進や活用方針の検討、そして高知空港の排水対策やGSE車両(航空機に乗り降りする乗客の階段となる車両)の通行帯改良などを手掛けている。

南海トラフ巨大地震への備えに関しては、四国地方整備局において「四国の港湾における地震・津波対策検討会議」が設置され、2011年9月からこれまでに15回開催され、港湾における地震・津波対策の検討を行い、総合的な基本方針を策定している。

そして災害支援活動としては、国交省緊急災害対策派遣隊「TEC-FORCE(テックフォース)」が、大規模な自然災害時における被害状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧などに取り組み、地方自治体の支援を行っている。

ここで、勉強会の参加者達は事務所から秋空の下へと出て、港湾業務艇「とさかぜ」に乗船しての海上視察を行った。高知港海岸地震津波対策事業(高知港三重防護事業)の現場視察となるクルーズでは、高知港および高知港海岸を巡る中で、改めて津波対策における防波堤や堤防の重要性が改めて認識されることとなった。

  • 今回、海上視察で使われた港湾業務艇「とさかぜ」

四国整備局では南海トラフ地震における初動対応を準備

クルーズ後には再び事務所内へと戻り、意見交換会の時間が設けられた。最初に高知港湾・空港整備事務所の所長である野呂氏が東日本大震災の概要について説明しテーマ出しを行うと、NTT西日本高知支店の参加者から、現状における防波堤や堤防の津波に対する減災効果についてや、防災計画の見直し状況、河川の氾濫などについて質問が寄せられた。

  • 「とさかぜ」船内でで高知港および高知港海岸に関する説明が行われている様子

四国整備局内での南海トラフ地震における初動対応の準備に関する質問に対しては、「災害発生後の安否確認の訓練なども含めてさまざまな準備を行っている。実際に津波が発生した場合には漂流物が港へと押し寄せることになるので、シミュレーションによる訓練なども関係者間で連携しながら実施している」との回答が行われた。

勉強会の最後には、NTT西日本高知支店長の齋藤幸生氏が、今回の勉強会を通じて減災という考え方の重要性が改めて理解できたとしたうえで、「これを機に、ぜひ率直な意見交換を活発に行いながら、災害発生時の迅速かつ効果的な対応へとつなげ、高知の地域住民の安全と安心に貢献していきましょう」と訴えた。

  • 2023年3月より海外の外航クルーズ船の高知港への寄港が再開され、寄港の回数が増加しているという