Lenovoは10月24日から2日間、年次イベント「Lenovo Tech World '23」を米テキサス州オースティンで開催した。ベンダー各社が生成AI戦略を打ち出す中、LenovoはAI戦略として「ハイブリッドAI」を打ち出している。これは、公開されている基盤モデルと非公開の基盤モデル、個人のパーソナルな基盤モデルを組み合わせるというものだ。
会期中、同社で会長兼CEOのYuanqing Yang氏、シニアバイスプレジデント兼CTOのYong Rui博士の両氏が記者向けのラウンドテーブルでAIを中心に、現在の戦略について説明した。
LenovoのAI戦略とは?
Yang氏: 今年のテーマはAI。Lenovoは「AI for All」として、あらゆる企業がAIを活用してビジネスを変革することを支援する。Lenovoは端末、インフラ、サービスを展開しており、それぞれでAIを使って生産性を改善したり、人々の生活をより良いものにしたりする。
Rui博士: AIは新しいものではなく、67年前の1956年に遡る技術だ。その間、技術への関心が高まったり、減ったりしてきた。現在はAIの3回目のピークとなる。3回目のピークを作ったのは基盤モデルで、テキスト中心の大規模言語モデル(LLM)から動画や音声などを含むマルチモーダルに進化しつつある。
ChatGPTが人気だが、これは公開された情報をベースとするパブリックな基盤モデルに基づく。企業には自社の情報をベースとする非公開のプライベートな基盤モデルが重要になる。さらに、個人ユーザーには個人情報ベースのパーソナル基盤モデルが必要だ。
このように複数の種類の基盤モデルを組み合わせる「ハイブリッドAI」がLenovoの提案だ。製品としても、サービスとしても、企業がハイブリッドAIを活用できるように支援する。
ChatGPTの登場からまもなく1年を迎えるが、その間、AIコミュニティも変化している。基盤モデルを構築することから、基盤モデルを使う方にフォーカスがシフトしている。状況に合わせて正しい基盤モデルを使うことが重要だという認識が形成されつつある。業界によっても異なるし、部門や役割によっても異なるだろう。
AIのインフラを提供する際のLenovoの強みとは?
Yang氏: 端末からクラウド、エッジまで、提供していることだ。
端末の将来を考えると、AI PCになるだろう。スマホはAIスマホになるだろう。ワークステーションはAIワークステーションになるだろう。
インフラに関しては、ヘルスケア、小売、教育など業界向けソリューションを展開する。パートナーと協業して、企業がハイブリッドクラウドを活用して、データを安全に保護し、規制に遵守した形でAIを活用したソリューションを導入できるようにする。
Lenovo Tech WorldではNVIDIAとの提携を発表した。提携により、どんなことをするのか。
Yang氏: NVIDIAとは25年にわたり、ゲームPC、ワークステーション、高性能コンピューティングなどで提携している。これをAIとインテリジェントなインフラに拡大する。
NVIDIAはパブリッククラウド、ハイブリッドクラウドを推進していく、エッジからクラウドまでをカバーするという野心的な目標を持っており、Lenovoも同じだ。
Tech Worldでは、「ハイブリッドAIイニシアティブ」を共同で発表した。ハイブリッドAIを提供するGo-To-Marketの提携で、顧客がハイブリッドAIを実現するために必要となるNVIDIAのモジュラーリファレンスデザインである「MGX」を活用したシステムや、サポートサービスを共同で進める。
企業や個人がAIを受け入れるにあたって、障害や課題は何か?
Yang氏: AIにはメリットがたくさんあるが、セキュリティ、プライバシーなどの課題もある。モデルのポイズニングなど生成AIならではのセキュリティ問題も指摘されている。
そこで、Lenovoでは“AIツイン”として、個人と企業が公開、非公開、パーソナルの基盤モデルを活用できるようにする。
Rui博士: ハイブリッドAIにおいて、データの管理とセキュリティは重要な要素となる。
Lenovoはセキュリティを重要視しており、Lenovo社内にはセキュリティ専門のセキュリティオフィスを設けている。同時に、ここではパートナーとも密に協業していく。セキュリティでもAIを活用して、より強固な防御を実現する。
セキュリティに加えて、サステナビリティも課題だ。Lenovo Tech Worldでは、「Sustainability AI Engine」として、企業が何らかの意思決定をすると、それがCO2排出などのサステナビリティの項目にどのように影響するのかを表示するソリューションも発表した。
ストレージ分野の進捗について伺いたい。Lenovoは2万5000ドル以下ではシェア1位だが、必ずしもハイエンドに強いとは言えない。ここでの戦略は?
Yang氏: 2022年、ストレージは前年比138%増で成長した。ローエンドではシェア1位、全体では5位だ。ハイエンド部分がまだ手薄であることは認識しており、ここをしっかり強化していく。これには、ストレージを強化するソフトウェアも含まれる。場合によっては買収を行うかもしれないが、社内での取り組みも進んでいる。
米国のチップ輸出規制をどのように見ているのか。AI戦略への影響は?
Yang氏: Lenovoは事業を展開する地域の規制を遵守している。もちろん、今回の米国の規制も遵守する。
新しい規制がLenovoのビジネスにどのような影響を与えるのか、精査している段階だ。一方で、Lenovoはグローバルで展開しており、さまざまな地域で製造や開発を行う体制を構築している。ビジネス継続に必要なレベルの柔軟性と耐性があると考えている。