「リスキリング」という言葉を聞くようになって久しい。DX(デジタルトランスフォーメーション)を成し遂げるためには人材の適切な活用が不可欠であり、その中で最新のデジタル・IT技術を身に付けながらビジネスを進められる人材が求められている。
その一方で、社員の数が多ければ、従来のスキルマッピングでは誰がどのような知識やスキルを持っているのかを把握するのは時間がかかる。また、各社員が自身のスキルを正確に把握し、その成長を促進する手段が必要となる中で、テクノロジーを活用したアプローチが必要だ。
大鵬薬品工業(以下、大鵬薬品)もDXに取り組むにあたり、人材活用において課題にぶつかったという。同社はこの課題を解決するために、どんな手を打ったのだろうか。
大鵬薬品 デジタル・IT統括部 ビジネスデザイン課 の今岡忠氏は以前の社内の様子について、「多くの企業と同じように人材活用とDXへの取り組みを始めようとしたのですが、社内の従業員のスキル状況が不明確だったので、DXに適した人材がどこにいるのか、誰に何を任せてよいのかも分かりませんでした」と振り返った。
そうした状況の中で目を付けたのが、エクサウィザーズが手掛ける「exaBase DXアセスメント&ラーニング」だ。同サービスはDXの実践と推進に必要な「デジタル」と「イノベーティブ」の観点から、「スキル」と「素養」についてDX推進に適した人材の把握や育成方針の策定にも使えるスコアを算出する。ラーニング機能としては、アセスメントによって受検者の強みや弱みを可視化した情報と、設定した目標の情報を加味した育成プログラムを提供する。
従業員に対し学習機会のアンケートを実施したところ、当初は1000人ほどが興味を示していたようだが、最終的には1600人が参加を表明したそうだ。同社はアセスメントの結果をもとに、子会社の社員を含む全社員約2300人分のDX人材ポートフォリオを作成し、その上で約1600人を対象にeラーニングを開始している。
今岡氏によると、同サービスはデジタルスキルだけでなくビジネス側のスキルも可視化できる点が導入のきっかけとなったという。「デジタルスキルは一部の人が学ぶもので、ひとごとになっている」という意見が課題となっていたため、デジタルスキルとビジネススキルの両面から人材を評価できる仕組みが有用と判断したそうだ。
「当社のような製薬会社ではテクノロジーの知識やスキルはひとごとのように思われがちです。テクノロジースキルを可視化するだけのサービスでは、全社的な導入には至らなかったでしょう。しかし、ビジネス側のスコア(イノベーティブスキル・素養)も可視化することで会社のリーダー人材のスキルセットを示せるようになりました」とも、同氏は語っている。
なお、同社では導入直後のeラーニングの進捗はあまり良くなかったとのことだ。アカウントを登録するだけで、実際には学習を始めていない従業員が多かったという。しかしexaBase DXアセスメント&ラーニングは計3回のテストを受講する必要があるため、そのテストに向けて少しずつ学習する人が増えていった。
exaBase DXアセスメント&ラーニングは、数分と短時間で見られるセミナー動画やeラーニングコンテンツを備えている。忙しそうな役職者でも学習を進めている人が多かったようで、その結果、周囲の人材にも波及して学習する雰囲気が広がったのだろうか。
同サービスを導入してから、さまざまな指標を見ているうちに、人によって学習の傾向が固まりつつあることが見えてきたという。例えば、土日など休日に学習する人はいつも休日に、朝に学習の時間を設けている人はいつも朝に、といった具合だ。中には、部下の手本になろうと自ら積極的に学習を進める上長レイヤーも見られるそうだ。
このように、大鵬薬品では単にサービスを導入するだけではなく、同社が保有する人材の役職や属性情報などと組み合わせてデータを最大限に活用している。独自のデータ指標を作成することで他社にはない人材戦略を生み出しているのも、今岡氏が生み出した同社の強みだ。
今岡氏は今後の取り組みについて、アセスメントのスコアが高い人の特徴を分析する予定だという。社員の年齢や属性、役職などの情報と組み合わせることで、次なる人材配置や人材育成につなげる狙いがあるそうだ。
そのうえで、学習を継続してビジネスでもパフォーマンスを発揮できる人材の特徴を特定する方針だ。アセスメントの結果による客観的なスコアと、現場の上司から見た人となりや個性、仕事のスタイルといった情報を組み合わせて、適材適所での人材活用を進める。
「会社の方向性やビジョンに共感してくれる人で、自分をブラッシュアップできる力があり、なおかつ周囲を巻き込んで物事を進められる人を求めています。今は希望者全員を対象にexaBase DXアセスメント&ラーニングを提供していますが、これからは対象者を絞った発展的な研修も実施する予定です」(今岡氏)