三菱電機は、5Gにおいて6GHz以下の周波数帯を用いるSub6に対応する透明アンテナを開発したことを発表。併せて記者説明会を開催し、詳細な内容などについての説明を行った。

  • 三菱電機が開発した透明アンテナ。液晶ディスプレイへ実装されている

    三菱電機が開発した透明アンテナ。液晶ディスプレイへ実装されている

近年、5GやIoTの普及が進んでいることから無線通信の使用が増加しており、それに伴ってアンテナの設置数も同時に増加傾向にある。そうした中で、同社では性能は落とさず、アンテナのサイズを小さくすることで目に見える範囲を小さくできるよう開発を進めてきた。そうした中、今回の取り組みでは「目に見えるか」に着目し「透明アンテナ」の開発に至ったという。透明になったことでサイズにとらわれずに使用できるというメリットが得られるほか、景観やデザイン性を気にせずアンテナの設置が可能となるため、世界的に需要が伸びており、事実、世界市場の年平均成長率は、5G透明フィルムアンテナが18.5%、車載用透明アンテナが7.1%と、今後の成長が見込まれていると同社では説明している。

  • 5G透明フィルムアンテナと車載用透明アンテナの世界市場規模のグラフ

    5G透明フィルムアンテナと車載用透明アンテナの世界市場規模のグラフ(出所:三菱電機)

この透明アンテナの開発に使用されている透明導電材料は「メタルメッシュ」という金属配線を格子状に形成した電極。近年、大型ディスプレイへのタッチパネル搭載に対応するべく透明導電材料の低抵抗化が進んでおり、以前は通常の金属に比べて高い抵抗を示していた「ITO(酸化インジウムスズ)」から、抵抗を抑えることのできる「メタルメッシュ」へ移行する傾向があるという。同社では、メタルメッシュの中に、東レがもつ透明導電材料の「RAYBRID」などを用いて開発を進めているという。一方で、メタルメッシュの台頭により性能は良くなったとはいうが、通常の金属の抵抗はさらに低くく、アンテナとして利用するにはまだ若干抵抗が高いため今後工夫が必要だとした。

  • メタルメッシュへの移行の背景

    メタルメッシュへの移行の背景(出所:三菱電機)

同社では、今回開発された透明アンテナを液晶ディスプレイ、建物の窓ガラスや車の窓ガラス、電子レンジなどでの活用を想定しているとしている。

  • 透明アンテナの活用想定製品の概要

    透明アンテナの活用想定製品の概要(出所:三菱電機)

まず、液晶ディスプレイへの実装では、透明アンテナで液晶ディスプレイを覆うアンテナ方式を採用しており、透明アンテナと金属フレームの間隙から電波を放射させることで、従来絶縁体材料である液晶の影響で発生していた損失電流を低減できる。また、透明アンテナの面積が広がることで透明導電材料による損失も低減でき、アンテナ性能も向上するとしている。

  • 液晶ディスプレイへの実装技術

    液晶ディスプレイへの実装技術(出所:三菱電機)

実際に、新方式を採用することで、電波の放射効率は従来技術比で2.3倍に向上しつつ、可視光の透過率も84~90%と高い視認性を確保しているという。説明会では、液晶ディスプレイへの実装がなされたデモが披露されたがフィルムをずらす動作をしない限りわからないほど透明であり、画面の機能性を妨げることなく実用できることが伝わってきた。

  • 従来方式と新方式の性能比較

    従来方式と新方式の性能比較(出所:三菱電機)

  • フィルムをずらす動作をしなければわからないほど透明なフィルム

    フィルムをずらす動作をしなければわからないほど透明なフィルム(出所:三菱電機)

また、窓ガラスへの実装では従来、ケーブルが窓ガラス上に露出する形だったものを、ガラスを支持する金属サッシ上に設けた給電素子からの電磁結合方式のワイヤレス給電とすることで、ケーブルが不要となり、景観を損ねないメリットが得られるとするほか、従来は透明アンテナの面積が小さかったため損失電流が82%ほどであったが、新方式では面積が広がったことで損失電流が抑制され94%の放射効率を示しているという。

  • 窓ガラスへの実装技術

    窓ガラスへの実装技術(出所:三菱電機)

さらに電子レンジへの実装技術としては、電子レンジの扉部分に電磁シールドとして活用することを想定しており、従来用いられてきたパンチングメタルと比べて大幅に庫内視認性が向上するほか、2層メッシュ構造にすることで、1層メッシュと比べて電力損失を約4分の1に低減することができたとし、今後、業務用電子レンジや、木材乾燥・半導体製造装置などに用いられているマイクロ波加熱装置に適用されることを想定していると語っていた。

  • 電子レンジへの実装技術

    電子レンジへの実装技術(出所:三菱電機)

同社に先駆けて透明アンテナを開発している企業は複数社あるものの、同社の透明アンテナは5G(Sub6)やWi-Fiへの対応が重点的になされている点が異なるとしている。なお、現在ラボレベルでの要素技術開発が完了している段階であり、今後3~4年をかけて製品化に取り組んでいく方針を示している。