NTTドコモ(以下、ドコモ)は10月25日、流通・小売業向けにマーケティング領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する新サービス「ドコモリテールDXプログラム」を開始することを発表し、記者説明会を開いた。

同プログラムでは、ドコモのdポイントおよびd払いに加盟する流通小売企業の購買データと、約9600万のdポイント・d払いユーザーのデータ(ドコモデータ)を組み合わせて、バリューチェーン全体のマーケティングの課題解決を支援する。

プログラムを支えるために活用するのは、dポイントクラブ会員のデータを用いるプロファイリングAIエンジン「docomo Sense(ドコモセンス)」や、携帯電話ネットワークを活用して人口統計情報を算出する「モバイル空間統計」、データをマーケティングに利活用する際のセキュリティを担保する「認証基盤」などだ。

  • ドコモの会員基盤とパートナー企業との連携を活用した新サービスを展開する

    ドコモの会員基盤とパートナー企業との連携を活用した新サービスを展開する

ドコモが持つユーザーデータは、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字を取ったもの)のようなメディアプラットフォーマーが持つ広告向けデータとは異なり、キャリア契約時に取得する顧客情報や、スマートフォンの位置情報、d払いによる決済の情報などを組み合わせている強みを持つ。

ドコモは他キャリアの差別化ポイントとして、単一のdアカウントにひも付くサービス横断的なデータの連携を挙げている。サービスごとに分断されるのではなくシングルIDで、顧客属性から、オンラインおよびオフラインの行動データ、趣味嗜好まで管理できるのだという。

  • ドコモが発揮するシングルID活用の強み

    ドコモが発揮するシングルID活用の強み

ドコモリテールDXプログラムでは、バリューチェーン全体を広く支援する「リテール実行支援サービス」、バリューチェーンのデータを可視化する「リテールDXダッシュボード」、流通小売企業と顧客との接点を支援する「アプリ開発 / 収益化支援」、dポイントやd払いを用いた「店舗集客支援」の4つのサービスを展開する。

  • ドコモリテールDXプログラムの全体像

    ドコモリテールDXプログラムの全体像

リテールDXダッシュボードでは、ドコモが持つ約9600万の会員データと、位置情報や決済情報をはじめとするユーザーの日常生活のデータに加えて、加盟店が提供するID-POSの購買情報を掛け合わせて、データを高精度に分析しダッシュボードに提示する。

なお、会員データの取り扱いについては同社の「パーソナルデータ憲章」に従って、個人を特定できない統計データに加工処理をして扱うそうだ。

ダッシュボードでは、来店した顧客の属性分析の他に、セグメント別の売上分析や、d払いの決済やdポイント付与の履歴などから自社に来店した顧客の日常行動を分析する機能などが利用可能だ。商圏と来店顧客の属性から新店舗を出店した場合の来客を予想するエリアポテンシャル分析なども使えるという。同サービスはID-POSデータを常時連携可能なdポイント / d払い加盟店は無償で利用可能。

  • リテールDXダッシュボードが提供する機能一覧

    リテールDXダッシュボードが提供する機能一覧

アプリ開発においては、ドコモ子会社のDearOneが手掛ける流通小売企業の会員アプリ開発サービス「ModuleApps2.0」や、流通小売企業の会員アプリをネットワーク化して広告の横断配信(アドネットワーク)を支援する新サービス「ARUTANA」を展開する。

ARUTANAでは、アプリを活用した広告配信サービスによる広告収入も見込めるそうだ。イオンリテールやウェルシアグループと連携し13社9276店舗のネットワークを構築しており、これらのリテール公式アプリに広告配信が可能になる。同社のPoC(Proof of Concept:概念実証)の結果では、一般的なディスプレイ広告におけるCTR(Click Through Rate)と比較して約3~5倍の成果が出ているとのことだ。

  • ARUTANAのサービス概要

    ARUTANAのサービス概要

ドコモのスマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部で部長を務める石橋英城氏は、ARUTANAについて、「流通企業にとって自社アプリを活用した新たな収益の機会となるだけでなく、広告主であるメーカーは顧客が購買しやすいタイミングでのアプローチが可能となる。また、生活者はお気に入りの店のアプリから自分に適した情報が届くという購買体験につながる。まさに"三方よし"のサービスとして展開する」と紹介していた。

  • ドコモ スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 部長 石橋英城氏

    ドコモ スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 部長 石橋英城氏

ドコモはこのほど、フルファネル(消費者が商品を認知してから購入し、ファン化、リピート購入するまでの一連の行動全体)でのブランド体験を支援するために、インテージホールディングス(以下、インテージ)との協業を開始した。

上述の通り、ドコモは約9600万の会員基盤を生かした広告や販売促進の支援が強みだ。一方インテージは市場調査や商品開発の段階におけるデータ分析のノウハウと、メーカー企業との強い関係性が特徴。今回の協業により、ドコモが持つ会員データとインテージが持つデータ分析のノウハウや能力を組み合わせて、バリューチェーンの上流から下流まで支援できる体制を強化する。

両社は、まずはマーケティングソリューション領域とヘルスケア領域で、5つの課題解決に向けた新規事業の立ち上げを行う。今回発表した「ドコモリテールDXプログラム」はマーケティングソリューション領域の中で流通小売企業向けに展開するソリューションだ。両社は中長期的には金融や人流・交通、エネルギーなど、社会全体の課題解決に取り組む方針。

  • ドコモとインテージが協業を開始した

    ドコモとインテージが協業を開始した

さらに、ドコモは小売店やメーカーなどリテール業界のDXに取り組むフェズとの業務提携も開始している。ドコモはID-POSのデータ(IDと連携したPOSの購買情報)活用を特徴とするフェズの知見を利用して、これまで以上に広い流通小売企業に対してDXソリューションを展開する考えだ。

  • フェズとの連携でリテールのDX支援を強化する

    フェズとの連携でリテールのDX支援を強化する