キヤノンが10月19日、20日にかけて開催しているプライベートイベント「Canon EXPO 2023」にて、同社の宇宙への取り組みを複数の展示にて紹介していた。
実はキヤノンは、宇宙向けビジネスとして、観測用の光学素子や分光素子、望遠鏡用の鏡などを手掛けているほか、キヤノン電子が超小型衛星や衛星コンポーネントの販売、そしてキヤノン電子が出資するスペースワンが小型ロケットの打ち上げサービスを計画するなど、幅広い事業を展開しており、それぞれにキヤノンらしい技術の粋が込められている。
超精密な切削加工で観測性能の向上に貢献
例えば天文用分光素子。もろく割れやすいGeやInPであっても、内製の高精度5軸切削加工装置を活用することで、素材を割ることなく、回析格子に求められるノコギリ形状を切削することを可能としたという。また、物理的に切削するため、任意の大型格子を製作可能で、かつ表面粗さを2nmレベルで制御することができるという特徴があり、例えば2020年にファーストライトを行った米国ハワイ州マウイ島ハレアカラにあるアメリカ国立太陽観測所(NSO)の太陽望遠鏡「ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡(DKIST)」向けには、0.005°の角度で切削加工機を制御し、2mm角の中に角度違いの100枚の光分割ミラーを切削したという。会場では、この光分光ミラーのほか、ヨーロッパ南天天文台がチリ・パラナル天文台に建設した「超大型望遠鏡(VLT)」向けに製造したGeを用いた分光素子や、2024年度に打ち上げ予定の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「温室効果ガス・水循環観測技術衛星(Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle:GOSAT-GW)」(GOSAT、GOSAT-2の後継機)向け分光素子が展示されていた。
こうした切削技術は精密な金型の製造や高性能レンズの磨き上げなどで培われたもので、会場には国立天文台をはじめ5カ国が参加してハワイ島マウナケア山頂に建設が進められている口径30mの超大型光学赤外線望遠鏡「TMT(Thirty Meter Telescope)」の紹介ならびに搭載される主鏡分割鏡の実寸模型も展示されていた。この主鏡は対角1.44m、厚さ45mmの六角形でできた492枚(交換用まで含めると574枚)の分割鏡を組み合わせることで構成され、同社がその研削の一部を担当している。この加工にも2μm以下の表面平坦性が求められるという。
市販のデジカメをそのまま衛星に搭載して地上を撮影
このほか、キヤノングループの中で実際に超小型衛星を開発し、製造受注まで行っているキヤノン電子が、自社の手掛ける超小型衛星やコンポーネントの紹介を行っていた。
同社は2009年より宇宙事業を開始、2017年6月に「CE-SAT-I」を、2020年10月に「CE-SAT-IIB」を打ち上げるなど、実用性のある超小型衛星を開発してきた実績を有しており、2021年より実際にそれらの衛星の受注活動も開始しているほか、打ち上げ済みの衛星が撮影した地球の画像などの提供サービスも開始している。
今回の展示では、CE-SAT-IおよびCE-SAT-IIBの開発で用いられたエンジニアリングモデル(フライトモデルは流石に持ち込めなかったとのこと)を展示していたほか、リアクションホイールや磁気トルカ、スタートラッカー、地磁気センサー、太陽センサーなどのコンポーネントも紹介されていた。
また、もっともインパクトが大きかったのは衛星に搭載される光学望遠鏡の展示。口径400mm、200mm、87mmの3種類の光学望遠鏡が出展されていたのだが、口径200mmの超高感度カメラは別として、87mmがEOS M100を、400mmがEOS 5D Mark IIIをそのまま据え付ける形で展示されていたため。宇宙用に改良したのは地上にダウンリンク通信するために衛星本体と接続しながらもSDカードに記録することが可能な仕様を変更した程度と限られた部分のみで、民生品のカメラをほぼそのまま使ったとのことであった。
なお、実際に上空500kmからこれらのカメラで地上を撮影したものをパネルにしたものも同じコーナーに展示されていた。パネルに描かれた観測画像も十分きれいではあったが、地上に送られてきたデジタルデータでは、例えば直下視画像ではEOS 5D Mark IIIの場合、5km×3kmの広さを0.84mの分解能で撮影できることが確認されたとするほか、PowerShot S110の場合、760km×571kmに及ぶ広域撮影を、超高感度カメラの場合では夜間の撮影にも成功したとのことで、今後のさまざまな企業や研究機関などからの観測ニーズに応えていくことで、宇宙ビジネスの拡大を図っていきたいとしていた。