お酒を飲む人に大ヒット中のアルコール対策サプリメント「アスガール顆粒」。DJ集団Repezen FoxxがYouTubeチャンネルで取り上げたり、2023年9月からドン・キホーテで全国展開されたりしていることから、目にしたことがある方もいるだろう。

累計販売数100万包を突破(2023年8月時点)し、知名度が全国区となったアスガール顆粒を開発・販売するのはコウダプロ(福岡市)。このほかにも、唐揚げ・揚げ物用緩衝材「カラッとペーパー」、大人向け香辛料「大人のカレースパイス」など、ユニークな自社ブランドを展開する。

小さな組織でも勝てる

そんなコウダプロは「面白屋」「ワクワク屋」を名乗り、「企業目的と経営理念を逸脱しない範囲において事業領域は無限」「面白くてワクワクすることなら何をやってもよい」と、社内の最高法規として定めた「コウダプロ憲法」前文に記載している。

2016年の創業後(2017年、コウダプロに社名変更)、化粧品やサプリメントを中心とするOEM事業(ヒット屋)を主軸としてきたが、近年は前述の自社商品を開発・販売する新規事業を立ち上げ、活動領域を広げている。

筆者がコウダプロを知ったきっかけは、同社「揚げ物革命事業部」事業部長で、新卒入社4年目(当時)の若さで、約3年の歳月をかけてカラッとペーパーを開発した原口水月さんとの出会いだった。従業員数21人(2023年10月時点)の小さな組織ながら、1つのプロダクトにそれほど長い月日をかけられることに驚いた。

さらに、先のコウダプロ憲法に加え「しあわせ食卓事業部」「飲みニケーション応援事業」などコーポレートサイトに並ぶ興味深い事業、note「福岡でコツコツまじめにやってる会社の平凡な日常」で発信される決して平凡とは思えない、良い意味で普通ではない組織を垣間見るうちに、コウダプロという会社について深く知りたくなり、今回の取材に至っている。

  • コウダプロ 代表取締役 幸田八州雄さん

    コウダプロ 代表取締役 幸田八州雄さん

創業者で代表取締役を務めるのは幸田八州雄さん。百貨店から雑貨店、保険代理業、フランチャイズ支援企業、通信販売、商品開発会社と、独立するまで多様な業界業種を渡り歩いてきた。

“戦場”と言っても差し支えないような、ハードな現場も数多くサバイブしてきた知見を生かし、大ピンチを大チャンスに変えて、今日まで7年に渡って会社を進化させてきた。

「自問自答ができる『人』の集まりでありたい」「面白いモノが次々と生まれ、世界中の人たちから支持される企業になる」。そんな想いと闘志を持ってコウダプロを率いる幸田さんに、コウダプロ流・小さな組織がヒット商品を生み出す戦略について話を伺った。

瞬間を知覚して言語化する~小さな組織が勝つ戦略#1

マーケティングの世界では何十年もの間「“不”に着目すること」が提唱され続けてきた。マーケターなら誰もが意識していることだろう。一方で、“不”に気づく人、気づかず通り過ぎる人は存在する。両者の差は「瞬間を知覚し、それを細かい粒度で言語化する能力があるか否か」と幸田さんは言い、それについてコミュニケーションの例を挙げて説明してくれた。

  • 幸田社長

    幸田社長

例えば、とある中小企業で社長と社員が些細なことで口喧嘩をして、以下のような険悪な状態になったとする(※架空のシチュエーション)。

社員:「社長、大人げないですよ」
社長:「君こそ、その態度を改めるように」

なぜここまで関係が悪化したのか、どこから諍いがスタートしたのか、「社長の目線」に立って、きっかけとなったであろうやりとりをプレイバックしてみる。

社員:「社長、生産性を上げるために、今私が使っているPCを買い替えてほしいです」
社長:「昨年新品を買ったばかりだけど?」

互いの意見の相違が引き金になったのか。「ここまでだとまだ“粒度が粗い”」と幸田さんは言う。さらに続くやりとりを振り返る。

社員:「それが何か問題ですか?」
社長:「…。『それが何か問題ですか?』ってどういう意味?」
社員:「生産性が上がった方が良くないですか?PCを買ったのが去年でも3年前でも関係ないというか、それが何か問題ですか?」
社長:「『それが何か問題ですか?』って言ったとき、PCを買った僕の気持ちを想像した?」
社員:「特に考えなかったです」
社長:「どうして言われた相手の気持ちを想像しなかったの?」
社員:「そういう習慣がないからです」
社長:「今までの人生で、言葉を受け取る人の気持ちを考えずに発言してきたんだね」
社員「:はい。自分が『これが正しい』と思ったら、相手の意見に耳を貸す習慣がないんだと思います」
社長:「そのままだと、今みたいな喧嘩は何回でも起きると思うよ。自分が正しいと思ったときほど、相手の考えを汲み取りながら自分の主張をするのを習慣にしたらいいんじゃない?」

社員の「それが何か問題ですか?」発言を1つの決定的な瞬間として捉え、ここまで踏み込んでやりとり・言語化できれば、コミュニケーションの仕方そのものが変わり、ネガティブな喧嘩がポジティブな気づきにつながる。

ここで挙げたのは架空の人間関係の問題だが、マーケティングの場面においては「人の一連の言動」にどんな不便があったのか、同じように瞬間を切り取って解析し、言語化する力があることが強みになる、と幸田さんは言う。潜在的な“不”を導き出し、人に伝わる形にアウトプットするには、高度な言語化が欠かせない。

リアルなコミュニケーションや対話の場を大事にするコウダプロでは、従業員全員が日ごろから言語化のトレーニングをしていると言っても過言ではない。社内に設けた書籍コーナー(コウダプロ文庫)にある書籍から好きなものを選んで読書感想文を書くと、難易度に応じて報奨金を支給する取り組みも、言語化スキル磨きに役立っているだろう。

文学的な思考を持って開発する~小さな組織が勝つ戦略#2

一般的な商品開発はロジカルなアプローチで行われることが多い。自社商品が他社商品と戦う市場と競合商品とを照らし合わせ、どんな要素を足すと競合に勝てるのかを考え、相対的な魅力を添えて商品を開発する。

一方、コウダプロでは「文学的な商品開発」という、それとは異なるアプローチをとる。より正確に言うと「組織(人々)が文学的な思考を持って商品開発と向き合う」というのだ。2023年4月にコウダプロが販売開始した「大人のカレースパイス」を例に説明したい。ふりかけるだけで、子ども向けの甘口カレーが本格スパイスカレー味に変身する“味変”香辛料である。

小さな子どものいる家庭はカレーを作る際、子どもの好みに寄せて甘いカレーにする傾向があるが、辛いカレーを食べたい大人はジレンマを抱えている。子どもはいつも通り甘いカレーを、大人は手間をかけずに辛いカレーを食べられるようにと、食を共にする人全員を置き去りにしない優しい商品開発の分かりやすい事例である。

1年をかけて100回以上の試作を繰り返し、ベストな調合のスパイスを完成させ、中身には自信がある。しかし、多くの人に売っていくには、商品の顔であるパッケージを「手に取ってもらえるデザイン」にすることが欠かせない。そこで幸田さんは、開発を担当した長倉裕美さん(「しあわせ食卓事業部」所属)にデザインを考える参考にと、こんな“材料”を提供した(材料は一部)。

  • 商品を手に取るのは、小さなお子さんを抱えている多忙な現代女性
  • 自分が辛いカレーを食べたければ、カレーを2種類作る必要があるが、とても忙しい中で2味も作りたくない
  • 仮にカレーを2味(子ども向け、大人向け)作る場合、鍋が2つ必要になる
  • カレー鍋を洗うのは確かに大変だが、洗い物をしていて2つ目の鍋を洗う際、+30秒要するくらいだと想定すると、鍋を2つ洗うことにボトルネックがあるとは言えない可能性がある
  • 女性が内面に抱えているのは、2つ目の鍋を洗う+30秒のストレスではない
  • 仕事をして帰って調理もして子どもに食べさせた後、「鍋も洗わないと」といった一種の被害感情の上に、もし2つ目の鍋を洗うとなると「2つ目が来た…」という憂鬱さやしんどさが積み上がる
  • イラストレーターのこいしゆうかさんがイラストを担当

    イラストレーターのこいしゆうかさんがイラストを担当

こういった女性の感情に寄り添って「私たちは味方ですよ」と伝えるようなパッケージデザインにしてほしいと伝えた結果、できあがったのが、優しく温かいタッチのイラストをベースにしたデザインだ。

「こういう属性で、こういう内面を抱えた人が、どういうパッケージだったら共感してくれるか」を私小説を書くような精緻さで考えるのがコウダプロ流だ。人間の感情を文学作品のレベルまで想像・解析してモノづくりを行う姿勢を組織として徹底しているのである。

接近戦+局地戦で広める~小さな組織が勝つ戦略#3

商品開発成功=ゴールではない。とくにコウダプロが自社商品として開発する非耐久消費財については、顧客に商品を手に取ってもらい、満足してもらい、リピートしてもらうのがゴールであると言える。

コウダプロは販促活動において「接近戦と局地戦」を重要視している。この“戦い方”について、冒頭で言及したアルコール対策サプリメント「アスガール顆粒」を例に挙げたい。幸田さんひとりで50回以上の試作を繰り返し、開発から販売まで4年もの歳月がかかった商品だ。

  • アスガール顆粒

    アスガール顆粒

接待続きで体調を崩すも参加を断れず、倒れそうになっていたサプリメント開発のプロ(幸田さん)が、お酒を飲む機会が多いが翌日も全力で仕事をしたい人たちのために開発した、当事者だからこそ生み出せた商品とも言える。

2018年に発売開始後、コウダプロ本社のある福岡最大の歓楽街・中洲の飲食店を中心に、リアルな口コミで認知を広げ、5年の歳月をかけて全国区の商品となった過程にヒントがある。幸田さんが馴染みの店一軒一軒に足を運び、経営者や従業員に商品を使ってもらうことから始まった、地味で地道な草の根活動が長い時間をかけて実を結んだ。この攻め方を幸田さんは「接近戦と局地戦」と表現している。

「大前提として、日本という国はそこまで広くありません。主要な地域5ヵ所で勝てば、そこからの影響力は大きいので、日本全体の4割ほどの認知を獲得できたと言っても過言ではないと考えています。中洲をカバーすれば人の移動とともに、お店の姉妹店がある六本木や新宿、大阪などの大都市圏にも自然と広がっていく流れが生まれました」

弱い立場にある側が強者に挑む「弱者の戦い方」と言われるランチェスター戦略と重なるところもある。大手メーカーであれば日本全国にキャンペーンを仕掛ける膨大な予算があるだろう。コウダプロには巨額の予算はないが「弱者の戦略」に活路を見出していると幸田さんは語る。

自身に縁のある地域で、関わりのある人たちに商品を伝え、気に入った人が人的ネットワークを通じて、日々の会話の中で商品を広げていく。こういったアナログな活動、口コミの自然発生は大企業がいくら広告費を投入しようとも真似することは不可能だろう。

福岡で長く暮らし、地域に濃い人的資本を持っている幸田さんだからこそ成し得る戦略である。ただし、このやり方は応用可能だ。とくに、地域に根差している小さい組織ほど、再現性があるのではないだろうか。

事業計画を持たず、コンパクトに動く~小さな組織が勝つ戦略#4

コウダプロには事業計画書や予算計画が存在しない。一般的な企業の場合、新商品を開発・販売開始し、事業計画書に定めた期限までに目標を達成しなかった場合、KPIやKGI、PLなどの指標で判断して撤退するのが常だが、その発想がないのである。

消費者の本質的なニーズを捉えた上で十分な開発期間をかけ、営業面でアクセルを踏めば必ず売れる・ヒットすると確信できる、一球入魂の商品を生み出していることが前提にある。「その上で、もし撤退するなら、商品が無力化するような“前提の変更”が起きたときでしょうね」と幸田さん。

  • 唐揚げの余分な脂を取るカラッとペーパー

    唐揚げの余分な脂を取るカラッとペーパー

「“前提の変更”とは、自社商品『カラッとペーパー(※)』を例に説明すると、唐揚げは余分な脂も食べるのがいい、脂っこい方が美味しいんだといった価値観が定着した場合、唐揚げの余分な油分を取り去る必要はなくなりますよね。そんな文化が当たり前になった際は、カラッとペーパーは撤退する、ということです」

※唐揚げ・揚げ物の余分な油分や水分を吸収してカラッと美味しくヘルシーに仕上げ、さらに保温効果もある、特許取得済の緩衝材

先のアスガール顆粒の開発期間は約4年、ブレイクするまでに約5年かかっている。驚くような長い月日が流れているが「(アスガール顆粒が)すぐに売れなくても問題ない」体制で開発・販売を行っていた。

具体的には初期コストを可能な限り抑えていたのである。会社経営の傍ら開発・販売担当を担う幸田さんに加え、出荷担当者1人という、非常にコンパクトなチームで動いていた。

「アスガール顆粒の開発・販売には本当にコストがかかっていません。かかっても月10万程度ですから痛くはないんです。もし専属の従業員を何人も置いて、事業計画に沿った撤退基準を定めて動いていたら、こんなに長い月日は当然かけられません。新規事業は一種の勝負ごとです。良くも悪くも予期しないことが起きて、勝敗を分けることも往々にしてあるのです。だからこそ、ある程度の許容期間は必要です。『発売して6カ月で目標に届かなければ撤退』なんて基準を設けて動くのは、私にはあえて負けに行っているように見えます」

はじめは小さくスタートし、火がついたら投入するリソースを増やしていく。スモールスタートはビジネスを成功させる鉄則の1つだが、大きな組織ゆえに大きくスタートし、それゆえ撤退期限を短期で設定している企業は多いのかもしれない。

  • コウダプロ社内での会議の様子

    コウダプロ社内での会議の様子

最後に、今後の展望を幸田さんに聞くと「大企業相手の商品開発コンサルも積極的に受けていきたい」との答えが返ってきた。

小さな組織として商品開発からヒットさせるノウハウを持つコウダプロと潤沢なリソースを持つ大企業が組めば、互いの強みを生かすことで、成功へ最短距離で進んでいけることだろう。OEM事業に始まり、渾身の自社商品を展開し、それが徐々に軌道に乗ってきたコウダプロの事業領域は、コウダプロ憲法にある通り「無限」に広がっていく。