明治、桜美林大学、東京都健康長寿医療センター(TMGHIG)の3者は10月19日、特定の地域に在住する高齢者を対象とした疫学研究により、チーズの摂取が認知機能の高さと関連することを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、明治、桜美林大大学院 国際学術研究科の鈴木隆雄特任教授、TMGHIGの研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、栄養学に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Nutrients」に掲載された。

乳製品が健康にいいとされているのは多くの人が知るところで、研究チームの一員である桜美林大の鈴木特任教授らは、以前の研究で、カマンベールチーズなどのカビ発酵したチーズが脳内の神経細胞に効果的な成分(BDNF)を増加させることを明らかにしている。また海外においては、チーズの摂取と認知機能との関連性を示す研究成果も数多く発表済みだ。しかし、その対象者、地域、測定方法には違いがあり、一貫した結果は得られていなかったという。そこで研究チームは今回、特定の地域に在住する日本人高齢者を対象に、チーズ摂取と認知機能の関わりを明らかにすることを目的とした調査を行ったとする。

今回の研究では、東京都板橋区在住の65歳以上の日本人高齢者男女を対象に、対面でのアンケートや機能的能力測定を通じて食品摂取や日頃の生活習慣、身体状態と認知機能の関係を評価する横断研究が実施された。そのうちチーズ摂取と認知機能に関して欠損のないデータの取得ができた1504名について、国際的に最も使用頻度の高い、認知機能障害を簡易にスクリーニングするための検査法「Mini-Mental State Examination(MMSE)スコア」を収集し、23点以下を認知機能低下(LCF)として分類したうえで、解析が進められた。

その後、いくつかの要因をもとにしてある事象が起こる確率を説明・予測する解析手法(または、ある事象に対する要因の影響度を測定する手法)である「ロジスティック回帰分析」を用いて、LCFと関連する因子を分析したとのこと(今回の場合、一例としてはチーズを摂取しているか否かが認知機能の高さにどう影響するかが解析された)。分析にあたり、チーズの摂取状況、年齢、身体機能、体格要因、既往歴、血圧、歯の残存本数、血液変数、尿失禁の頻度、牛乳の摂取頻度、食事多様性スコアの影響が統計的に調整された。

そして調査の結果、週に1回以上チーズを摂取する人は、チーズ非接種者と比較して通常歩行速度が速く、歯の残存本数が多いうえ、血中の善玉コレステロールが高い値を示した。また、チーズ摂取者の方が尿失禁の頻度が低く、さらにMMSEスコアも高い値を示すことが見出されたという。

加えて、今回の分類でLCFに該当した調査対象者(全体の約4.6%)は、それ以外の集団と比較してふくらはぎの周囲径が小さく、通常の歩行速度が遅く、貧血の頻度が高いことがわかったとのこと。研究チームはこの結果から、LCFと関連する因子として、チーズの摂取状況、年齢、通常歩行速度、ふくらはぎの周囲径が重要であることが示されたと結論付けている。

  • 認知機能低下に関連する因子として、チーズ摂取・年齢・通常歩行速度・ふくらはぎの周囲径の4因子が確認された

    チーズを摂取すること、通常歩行速度が速いこと、ふくらはぎの周囲系が大きいことは認知機能低下の起こりにくさと関連することを示している。逆に年齢は高齢になるほど、認知機能低下と関連することが示された(出所:明治Webサイト)

超高齢社会として世界の先頭を走る日本においては、高齢者の健康維持は非常に重要な課題だ。研究チームは今後、チーズ摂取による認知機能の維持の可能性を研究することで、健康寿命の延伸に寄与していきたいとしている。