米Amazonは2023年10月7日、衛星インターネット・システム「プロジェクト・カイパー」の試作衛星2機の打ち上げに成功した。
地球のまわりに3000機を超える衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンドを送り届けることを目的としたもので、今回の試作衛星による技術実証を経て、2024年末から初期サービスを開始するとしている。
衛星インターネットをめぐっては、イーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXが「スターリンク」を運用し、すでに世界中にサービスを提供しているほか、米国内をはじめ世界各国で開発が活発になっている。Amazonの参入により、今後この分野での競争がさらに活発になりそうだ。
プロジェクト・カイパー
プロジェクト・カイパー(Project Kuiper)は、Amazonが開発を進める衛星インターネット・システム画で、地球低軌道に3000機を超える衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンド通信を送り届けることを目的としている。
現在、世界では約半数にあたる何十億人もの人々が、ブロードバンドにアクセスするのができない、あるいは難しい状況に置かれている。米国も例外ではなく、シアトルにあるAmazon本社から車で60分以内の場所でもインターネット接続が失われることがあるという。これにより、最新の情報や教育、医療など、さまざまな面で格差--デジタル・ディバイドが生じており、世界的な社会問題にもなっている。
しかし、現在ブロードバンドが通っていない国や地域に、光ファイバーを通したり基地局を建てたりすることは、コストや地理的な事情から難しい場合が多い。また、従来の衛星インターネットでは、衛星は赤道上空の高度3万5800kmにある静止軌道に置くのが一般的で、その距離の遠さからタイムラグが発生したり、通信速度も遅くなったりといった欠点があった。
そこで、近年注目されているのが「地球低軌道コンステレーション」である。大量の衛星を地球低軌道(地球に比較的近い高度数百kmの軌道)に打ち上げ、地球を覆うように配備して運用することで、世界のどこでも高速・低遅延のインターネットを提供しようというものである。
また、こうした人々にブロードバンドを提供できれば、AmazonのKindleやEchoなどといったサービスの利用者も増えることになり、大きなビジネスチャンスにもなる。Amazonにとってカイパーは、ビジネスと社会貢献の両面で大きな意義がある。
今年3月には端末の試作機も披露され、小型モデルでは最大100Mbps、標準モデルでは最大400Mbps、企業や政府など向けの大型モデルは最大1Gbpsの速度を提供できるという。端末の価格やサービスの利用料金については明らかにされていないが、「手頃な価格で提供することはカイパーの重要な原則である」とされており、Echo DotやFire TV Stickなどのような低価格デバイスや利用プランも設定されるものとみられる。
カイパーの研究は2018年から始まり、カイパーという名前は当時の内部コードネームでもあった。この名前は、太陽系外縁にあるカイパー・ベルトに由来するという。そして2020年7月、米国連邦通信委員会(FCC)からカイパー衛星の打ち上げと運用のライセンスを受けている。
カイパーの初期の衛星コンステレーションの衛星数は3236機が計画されている。これらの衛星は、高度590km、610km、630kmの3つの異なる高度と、98の異なる軌道面に分けて配置される。FCCのライセンスでは、2026年7月までにこのうち少なくとも半分を配備して運用することが求められている。
開発の拠点はワシントン州レドモンドにあり、ワシントン州カークランドに衛星の生産拠点がある。また、フロリダ州のNASAケネディ宇宙センター内では衛星の整備施設の建設が進んでいる。現在、同プロジェクトにかかわる人員は1400人を超えるという。
なお、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏は、「ブルー・オリジン」という宇宙企業も創設して運営しているが、カイパーとの直接的なつながりはなく、あくまでAmazonのサービスのひとつという位置づけにある。ただ、将来的にカイパー衛星をブルー・オリジンのロケットで打ち上げる計画はある。