衛星通信会社「ワンウェブ」は2023年3月26日、世界中にインターネットをつなぐための衛星コンステレーションの構築が完了したと発表した。

この日、インドの「LMV3」ロケットを使い36機の衛星の打ち上げに成功し、衛星数は計618機となった。

同社では今年末までに、全世界を対象とした接続サービスを開始したいとしている。

  • ワンウェブ衛星36機を搭載した、インドのLMV3ロケットの打ち上げ

    ワンウェブ衛星36機を搭載した、インドのLMV3ロケットの打ち上げ (C) ISRO-NSIL

ワンウェブ・コンステレーションの完成

ワンウェブ(OneWeb)は英国ロンドンに拠点を置く企業で、地球低軌道に多数の衛星を打ち上げて「衛星コンステレーション」を構築し、全世界にブロードバンド・インターネットを提供することを目指している。

2019年には試験機が打ち上げられ、2020年からは実運用機の打ち上げも始まった。しかし、同年はじめには、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で経営破綻し、インドと英国からなるコンソーシアムによって買収された。さらに2022年には、ロシアのウクライナ侵攻の影響で衛星の打ち上げが止まるなど、多くの困難が立ち塞がり、コンステレーションの構築やサービス開始が遅れていた。

こうした中、ワンウェブは競合相手でもある米宇宙企業スペースXのロケットや、インドの最新鋭大型ロケット「LMV3」などを調達し、打ち上げを再開し、コンステレーションの構築を進めてきた。

そして3月26日、インドのLMV3により36機の衛星の打ち上げが成功し、ワンウェブにとって通算18回目、今年に入ってからは3回目の打ち上げ成功を数えた。これにより、軌道上の衛星数は618機となり、全世界にインターネットをつなぐのに必要な衛星が揃い、コンステレーションが完成した。

なお、初期のサービスに必要な衛星数は588機であり、残りの衛星はバックアップとして機能する。ワンウェブではまた、レジリエンス(復元力)と冗長性を高めるため、追加の衛星の打ち上げを計画している。

ワンウェブはすでに、北緯50度より北の地域ですでに通信サービスを開始している。コンステレーションが完成したことで、今年末までに、全世界を対象としたサービスを開始したいとしている。

ワンウェブのエグゼクティブ・チェアマンを務めるSunil Bharti Mittal氏は、「世界人口の半分は、信頼性の高いブロードバンド接続を利用できない状況にあります。この打ち上げは、デジタル・ディバイド(情報格差)の解消に向けた大きな一歩です。ワンウェブの全世界を覆う衛星コンステレーションは、この夢を実現する上で極めて重要な役割を果たします」と述べている。

ワンウェブはまた、第二世代衛星の打ち上げも計画しており、将来的には6372機からなるコンステレーションを構築することを目指している。

  • ワンウェブ衛星の想像図

    ワンウェブ衛星の想像図 (C) OneWeb

  • ワンウェブ・コンステレーションの概念図

    ワンウェブ・コンステレーションの概念図 (C) Airbus

苦難続きだったワンウェブ

ワンウェブは2012年、実業家のグレッグ・ワイラー氏によって設立された企業で、衛星コンステレーションによる世界中へのインターネットの提供とビジネスとしての確立、さらにそれを通じて世界の情報格差の是正を目指している。

ソフトバンクグループやヴァージン・グループ、エアバスなどが出資を行い、2019年2月には、ロシアのロケットによる試験機6機の打ち上げに成功した。2020年2月と3月にもそれぞれ34機の衛星を打ち上げ、400Mbpsを超える通信速度と、32msの低レイテンシ(遅延時間)をもつブロードバンド・システムの実証実験に成功した。

しかし、その後は苦難続きだった。2020年には事業の継続に必要な新たな資金調達に失敗。同社は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に関連した財務上の影響や市場の乱高下により、資金調達プロセスが停滞したため」と説明している。これを受け、同社は同年3月、米国破産法第11章(チャプター11)の適用を申請した。

7月2日には買い手を探す入札が行われ、その結果、インドのバーティ・グローバル(Bharti Global)と英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省のコンソーシアムが落札した。

バーティ・グローバルは、移動体通信においてインド最大手の電気通信事業者バーティ・エアテルをグループ内にもつ。同社はアジアやアフリカにも進出し、世界で3番目に大きい携帯電話事業者でもあり、ワンウェブには初期から出資を行っていた。

落札額は10億ドルで、両者がそれぞれ5億ドルを出資したという。運営権はバーティがもつ。

2020年12月には衛星の打ち上げが再開されたものの、今度はロシアのロケットを使っていたことが仇となった。2022年2月のウクライナ侵攻に対する欧米などからの経済制裁への反発として、同年3月に予定されていた打ち上げをロシアが一方的に中止した。打ち上げ予定だった衛星はいまなお“人質”として、ロシアに押収されたままの状態にある。

こうした中、ワンウェブはインド宇宙研究機関(ISRO)傘下の国有企業ニュースペース・インディア・リミテッド(NSIL)と、インドの大型ロケットLMV3を使った打ち上げを契約。さらに、衛星インターネットの分野で競合するスペースXとも契約を結び、同年末から打ち上げを再開していた。

また、2022年7月には、フランスの衛星通信会社ユーテルサットとの合併が発表されており、今年の第2~3四半期ころには合併が完了することになっている。

低軌道衛星コンステレーションを使った通信サービスは、すでにスペースXの「スターリンク」がサービスを開始しており、実績やユーザー数など多くの面で先行している。ただ、スターリンクが主に個人ユーザーを顧客としているのに対し、ワンウェブは企業や政府、既存の電話・通信オペレーターなどを主な顧客としている。

また、Amazonも「プロジェクト・カイパー」と呼ばれる独自のシステムの立ち上げを計画している。

参考文献

Successful launch of 36 OneWeb satellites with ISRO/NSIL marks key milestone towards global connectivity
LVM3 M3/OneWeb India-2 mission accomplished successfully