2023年10月1日。コミュニケーションツールを提供するLINEと、ネット検索サービスなどを手掛けるヤフーが1つの会社へと統合し業務を開始した。会社名はLINEヤフー。そして10月4日よりユーザーが任意で設定できる「LINE」と「Yahoo! JAPAN」のアカウント連携が開始した。両社は2019年11月より経営統合していたが、サービス連携をさらに強化させるため合併に踏み切った。
「会社が別々だと、組織が違うためプライバシーポリシーの整合性が取れず、サービス連携がなかなか進まなかった。これからはソリューションレベルで連携を加速していく」ーー。10月5日、ソフトバンク主催の「SoftBank World 2023」におけるLINEヤフーの講演でビジネスソリューション開発本部 本部長の宮本裕樹氏はこう語った。
約1億5000万ものユーザーを抱える新会社のLINEヤフー。今後どのような方向性でソリューションを展開していくのだろうか。同講演で語られたデータ戦略をもとにして紹介していこう。
マーケティングツールからビジネスプラットフォームへ
LINEヤフーが目指すのは「マーケティングツール」ではなく「ビジネスプラットフォーム」を構築することだ。両サービスのID連携が開始したことにより、ストックされるユーザーデータの量と種類が増した。その結果、ユーザーのエンゲージメントや行動をより詳細に把握できるようになったため、そのステータスをもとにした最適なサービスが実現される。
例えば、新規ユーザーに対しては気軽なタッチポイントである「LINE広告」を用いて新規購入を促す広告を、ミドルユーザーには「Yahoo! 広告」を通じて再購入を促すようなレコメンド広告を、ロイヤルユーザーに対しては「LINE公式アカウント」を活用して特別感を演出した広告を配信し使い分けを行う。
宮本氏は「LINEやヤフーの情報だけでなく、ZOZOTOWNやPayPayといったグループの情報もすべて活用してサービスをつなげていく。そして広告宣伝だけでなく、販促やCRM(顧客関係管理)、DXにも展開していく。国内最大級のユーザー数、メディア群を活用して『コネクトワン構想』を実現させていく」と意気込みを見せた。
LINEヤフーが掲げる3つのデータ戦略
コネクトワン構想を実現させていくために、LINEヤフーは3つのデータ戦略を掲げている。
LINEとヤフーのデータを集積
データを活用するためにはデータの収集が欠かせない。LINEとヤフーが連携したことにより、新会社が抱える年齢、性別、居住地、家族構成といったデモグラフィックデータや、興味関心といった行動データは膨大だ。加えて、650万人のモニターが参加する「LINEリサーチ」から得られる意識データも収集できる。
「ユーザーが何を考えてるのかというところも含めてしっかりデータを収集できる体制になっている。これらのデータを組み合わせてうまく活用していく」と、マーケティングPF統括本部 データソリューション プロダクトオーナーの鍵山仁氏は補足した。
分析から検証までをシームレスに
分析もデータ活用には必要不可欠な存在。ヤフーは以前より、検索や位置情報といった行動ビッグデータを分析できるツール「DS.INSIGHT」を提供していた。同サービスは特定エリアにおける人口動態や特徴検索、生活者の興味関心やトレンド、人物像(ペルソナ)のライフスタイルなどを可視化できる。
統合後は「LINEヤフー DS.INSIGHT」と改名し、2024年度中に同ツールとLINE公式アカウントを連携できるようにしていく予定。自社の公式アカウントの友だちデータとのかけあわせでよりリッチな分析が可能になるとしている。
「公式アカウント内でさまざまなユーザーを集めようとする企業は多い。見込み顧客だけでなく既存顧客をどう太らせるか。そういったことを支援していきたい」(鍵山氏)
そして、同ツールで得られた詳細な分析結果に基づいたセグメントを作成して、LINEヤフーの広告サービスを通じてマーケティングに活用していく。鍵山氏は「分析結果をできるだけシンプルに表示して、分かりやすいデータ活用を実現させていく。LTV(顧客生涯価値)を徹底的に可視化する」と説明した。
1st Party Dataのかけあわせで分析を強化
また、データの検証においては、自社で収集した顧客データである「1st Party Data」をかけあわせる。
「プラットフォームのデータだけでは表面的な効果しかわからない。自社の顧客データや購買データをかけあわせることで、より精密な分析ができる」(鍵山氏)とのこと。
個人情報をどのように扱っていくのか?
企業のデータ活用に対する顧客の期待は高まっている。アクイアが約6600人の消費者に対して実施した調査結果によると、82%の消費者が「オンラインでのブランド体験をテクノロジーを使って改善すべき」と回答し、また80%が「ブランドが自分の探しているものをサジェストしてくれたり、自分の趣味を理解してくれていると、よりロイヤリティを感じる」と回答している。カスタマーエクスペリエンス(CX)やテクノロジーに対する期待は大きい。
一方で、データ活用を取り巻く規制環境は変化している。Cookie規制やIDFA(IDentifier For Advertisers)制限、改正個人情報保護法などプライバシーを保護する動きもあり、企業は適切な同意に基づいた顧客データの扱いが求められている。
こうした市場の変化に対応するため、企業とプラットフォーマーの間にセキュアな環境でのデータ統合や分析、効果検証を可能にする「データクリーンルーム」が近年注目を集めているという。企業が持つ顧客情報を個人情報を特定しない形で、セキュアなデータ活用を実現する。
「世界中でトレンドになっている概念。データクリーンルームを活用したうえで企業のマーケティング支援を行うことが主流になってきた」とトレジャーデータの三浦喬社長は解説した。
市場の状況からLINEヤフー単体に目を戻すと、同社は現状、「Yahoo! Data Xross」と「LINEデータクリーンルーム」の2つのサービスを運営している。将来的に「LINEヤフー Data Clean Room(仮)」として1本化していく考え。
「データクリーンルームを本格的に活用していくフェーズに来ている。統合に関しては一筋縄ではいかないことも多いと思う。企業のデータ活用を支援していくのがわれわれのミッションなので、1つずつクリアにしていきたい」(鍵山氏)