今年の3つのノーベル賞(生理学・医学賞、物理学賞、化学賞)が、それぞれ10/2~4に発表されました。どんな研究に賞が贈られたのか、90秒で見ていきましょう!

生理学・医学賞 「mRNAワクチンの開発につながる発見」 一言でいうと)新型コロナワクチンの基礎技術をつくりました!

「このタンパク質をつくってくれ~」という情報を、細胞内のタンパク質工場に伝える物質がmRNA(メッセンジャーRNA)です。それならば、免疫反応を引き起こすタンパク質のmRNAをつくって身体に入れればワクチンの役割を果たすのではと考えられてきましたが、なかなかうまくいきませんでした。合成したmRNAそのものが体内で異物と判定されて、ひどい炎症が起こるなどの問題があったからです。今年の受賞者は、そうした難点を克服するための化学的な手法を開発しました。新型コロナワクチンも、この技術のおかげでできています。

物理学賞 「アト秒光パルスの生成」 一言でいうと)超高速の現象をとらえる、世界一短くひかる光をつくりました!

アト秒とは100京分の1秒のこと。宇宙の年齢が約100京秒なので、宇宙の年齢から見た1秒が「100京分の1」。それくらい一瞬だけひかる光をつくりました。この一瞬の光をカメラのストロボ光のように使うと、これまで見ることができなかった超高速の現象を観測することができます。一番の成果は、電子の動きを見られるようになったことでしょう。電子は電気のもとをつくる大事な粒ですが、その動く姿は速すぎてとらえられませんでした。人類はアト秒の光を手に入れたことで、観測の壁を大きく突破できたのです。

化学賞 「量子ドットの発見と合成」 一言でいうと)光るナノ結晶を発見し、その色ごとにつくり分けました!

量子ドットとはナノサイズの半導体の結晶で、きれいに光ります。うれしいのは、大きさの違う量子ドットを簡単につくり分けられることです。材料を注入して温めると、フラスコの中でだんだん結晶が成長していくので、ほしい大きさになったときに加熱をやめればいいのです。大きさの違う量子ドットでは、中に閉じ込められる電子の波の長さが異なるため、光る色が異なります。こうして、同じ原料からいろんな色の量子ドットをつくり分けることができ、照明やモニターの材料などに活かされています。

どの研究も人類に大きな影響を与えたもので、ノーベル賞が授与されるのも納得ですね。一方で、ノーベル賞をとった研究だけがおもしろいのかというと、そんなことは決してありません。「自分だったら、この研究に賞をあげたい!」というものを見つけてみてはいかがでしょうか。この記事を読んでくださった皆さんなら、きっとできると思います。

(10/10訂正: アト秒を最初「100兆分の1秒」と書いてしまいましたが、これは「100京分の1秒」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。)



Author
執筆: 太田 努(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、研究者との実証実験(オープンラボ)の企画や研究エリア入居プロジェクトのツアーなどを担当。館内外メディアでの科学記事の執筆やノーベル賞に着目した情報発信も行う。

【プロフィル】
本当は、ものごとを原子・分子の世界でとらえる「化学」が一番好きです。だって、誰でも原子の世界に意識を向けるだけで、物質の新たな一面に出会えるんですよ? 素敵じゃないですか。化学は僕の世界を大きく広げてくれました。このまま化学の研究で生きようかと考えたこともありましたが、他の価値観も知りたくて、特許業務を経て未来館で働いています。まだまだ自分の世界は狭いなぁ、と日々感じています。博士(理学)、弁理士。

【分野・キーワード】
物理化学、ナノサイエンス、知的財産権