ネット通販で爆発的にヒットしている「ガードナーベルト」をご存じだろうか。2020年4月に発売開始し、腰周りに悩みを抱える人向けのベルトとして、愛用者を増やし続けている。発売から2年半が経過した2022年秋には、出荷本数が月間1万本を超え、今や累計販売本数は30万本を突破(2023年9月9日時点)。

  • 「心地よく姿勢を正せる」とSNSでの口コミも多い「ガードナーベルト」

    「心地よく姿勢を正せる」とSNSでの口コミも多い「ガードナーベルト」

特徴は欧米の医療現場で生まれた10個の動滑車構造。力のない人でも軽く紐を引くだけで強力かつラクに固定して腰への負担を軽減できるほか、ベルトを巻く位置によって骨盤の補正や腹圧を高めることもできると評判だ。

開発・販売するのは、介護用品や健康器具、健康食品、雑貨、釣具の製造・販売、映像サービス業など、「何屋」なのか一言では言い表せない多種多様な分野のモノづくりを事業とするガードナー(福岡市)。出荷本数を月4桁から5桁へと大幅に増やす起爆剤となった動画広告(InstagramやFacebookなどで展開)も内製している。

動画ではユーザーの感想が「あっ!」「うおっ!」「えーっ!」などのシンプルなリアクションとともに、1コマ1秒でテンポ良く展開される。いちベンチャー企業が開発する「専門家のお墨付き」のない製品でも、使用感や締め付け感が直感的に伝わる動画の効果で、大ヒットを飛ばすことができていると同社は自信を見せる。

アメ車が社用車、ハーレー8台所有…普通じゃない会社

「真剣にふざける会社」がキャッチコピーのガードナー。同社を知らない方はコーポレートサイトを覗いてみてほしい。「ニッチな世界でリッチに輝く 普通じゃない製品開発会社」ともあり、サイトのクリエイティブからも「かなりぶっ飛んだ会社」であると感じ取れるだろう。

しかし、中途半端にふざけるのではなく、あくまで「真剣にふざける」がキモとなる。「世の中のためになる製品を永遠に作り続けること」を志とし、全力で楽しみながら、世のためになるモノづくりや人を喜ばせる仕事に取り組む少数精鋭の集団でもある。

筆者は同社で「CSO/顧客サービスをするおっさん エージェントJ」の役割を担うジョナサンさんと2023年夏に出会い、同社を知ることとなった。知れば知るほどガードナーという会社の唯一無二さを全国に伝えたいと考え、今回の取材に至った。

  • 黒いアメ車(社用車)がずらりと並ぶガードナーの駐車場。通勤や取引先、関係先の送迎にも使用

    黒いアメ車(社用車)がずらりと並ぶガードナーの駐車場。通勤や取引先、関係先の送迎にも使用

社用車は高級アメ車、所有する8台のハーレーダビッドソンで社員とツーリング、社員に「勉強」として旅(ひとり旅)や読書、習い事を勧め、かかった費用は会社で全額負担する…これまで筆者はそんな会社と出合ったことがない。すべて、創業者で代表取締役の福山克義さんの“好き”なモノ・コトであり、仕事にも結びついている。

「これらは福利厚生ではなく、皆に仕事を楽しんでもらい、皆で人間力を上げていくのに欠かせない“勉強”と捉えている。結果、皆がエキサイティングな人となって、その周りには人が集まり、出会いが増えて、会社としても運気が上がっていく」というのが福山さんの持論である。

社員一人ひとりの人生を豊かにし、ひいては事業や会社も豊かにしていく。そんな想いと情熱を持ってガードナーを率いる福山さんに、創業時のエピソードからガードナー流のモノづくり、ニッチな市場での戦い方などについて話を伺った。

霊媒師に頼ったことも…1億5000万円の借金に苦しんだ日々

2016年12月に創業したガードナー。釣具開発会社・ギアラボを20年ほど経営してきた福山さんだったが、釣具以外の製品開発もしたいと新会社を立ち上げた。

  • ガードナー 代表取締役 福山克義さん。空手歴45年以上で空手指導員、プロ空手家としての経験があるほか、パワーリフティング選手としての顔も持つ

    ガードナー 代表取締役 福山克義さん。空手歴45年以上で空手指導員、プロ空手家としての経験があるほか、パワーリフティング選手としての顔も持つ

ガードナー第1弾となる製品は「ルームシャンプー」。がんにかかり、長く入院生活を送っていた父が「病気そのものよりも頭を洗えない方が苦痛だ」と辛そうに打ち明けるのを見て開発に着手した。製品化する前に父は他界したが、世のため人のためになると信じて、日夜開発に励んだ時期があった。

3Dプリンターで製作した試作品は出展した介護関連製品・サービスの展示会で注目され、テレビの報道番組でも紹介されたことから、翌日も黒山の人だかりができるほどに。「売れる」と見込んで奔走したところ、銀行とリース会社に法人として1億5000万円、個人で3500万円の借金を抱えることとなった。

「いろいろな販売方法を試みるもルームシャンプーは売れず、経営状況は最悪で、私は1年半無給状態です。借金の取り立ても厳しく、精神的なストレスで下半身が麻痺し、霊媒師に頼りました。受けた助言の通りに、南無妙法蓮華経を朝4時から唱え、ゴミ拾いをする日々を送りました。そんな中で出合った中村天風氏の著作を45冊読んで感銘を受けてから天風会会員となり、自分の心を休める瞑想法を習得するうちに、気持ちを切り替えることができたのです。世の中の真理を信じ、高潔な理想を心に抱くことだけを意識しようと。するとあるとき、代理店の1社がガードナーの在り方に賛同してくれて、かなり大きな金額を出資してくれたのです。この奇跡に感謝しありがたく受け取って、ルームシャンプーを手放して新たな開発に向かったことから、状況は大きく好転していきました」(福山さん、以下同)

当時、開発に取り組んでいた製品のひとつがガードナーベルトである。ルームシャンプー販売時に介護士や看護師、美容師とやり取りする機会が多く、彼らの6割以上が腰に不具合を抱えていた。彼らの話を聞いて福山さんが思い出したのは、20代で空手指導員として勤めていたハワイ大学で、バックペイン(腰痛)を抱える職員が腰専用ベルトを巻いていた姿だった。

開発の参考にと海外で販売されている同種の腰ベルトを買い集めたが、いずれも医療品のため一般のユーザーが気軽に買える金額ではなかった。それを軽く、薄く、コンパクトに、リーズナブルにしたのがガードナーベルトだ。初期のころは1本1万4000円台だったが、機能改善しつつコストカットをして、現在では9900円で販売している。

生活者の声を聞かない~ガードナー流モノづくりの流儀 #1

製品紹介ページを見ると、人の身体を健やかにするような製品が目立つが、かなり幅広い分野を網羅している。ガードナーではどのような思想を持って日夜モノづくりに励んでいるのか。「ガードナー流モノづくりの流儀」として3つの「普通ではない」やり方を紐解いていく。

まずは、マーケティング業界では当然とされる「生活者の声を聞く」ことを同社はしない。むしろ「マーケティング調査はしてはいけない」と考えている。

福山さんから社員向けに発信されるメッセージにも「消費者の心の中を考える」「私たちはお客さまよりすでに遅い」「ニーズは世の中に存在せず、自分自身の内側に存在する」などの考え方が挙げられてきた。

「『こういうモノが欲しい』と誰かが口にした製品はすでに世の中にあります。少なくとも人の潜在意識の中にはその製品がイメージとしてあるわけで、できたところでインパクトがないので、喜ばれもしません。ニーズは社会の中には存在せず、個人の中に存在していて、それは“外のネットワーク”とつながると考えています」

一体どういうことなのか。福山さんは生活者の声を聞かないが、いつでもどこでも生活者の行動を注視している。

たとえばスーパーへ買い物に行くと、販売されている品よりも他人が買っているものを、飲食店へ行くとメニューよりも店員の動きや表情を観察し、そこに困り事や課題がないかを考え、自身の内面に蓄積されたアイデアや想いと掛け合わせるというのだ。

  • 「ガードナーランス」、キャッチコピーは「強く、軽く、闘える傘」

    「ガードナーランス」、キャッチコピーは「強く、軽く、闘える傘」

そんなプロセスで生まれた製品の1つが、護身にも使える直径3.5cmとスマートで、重量200gと超軽量な傘「ガードナーランス」。福山さんが50年近く続ける日本武術「杖術」に着想を得て、スタイリッシュでいつでも持ち歩きたくなる防犯・護身グッズとして開発したものだ。クラウドファンディングでは1573%達成と大成功を収めている。

ニッチ中のニッチで戦う~ガードナー流モノづくりの流儀 #2

現代はあらゆる分野においてモノが溢れ、「存在しないモノはない」と言っても過言ではない。必要なモノの多くは検索すれば、そこそこ質のいいものが見つかる。

そんな中、ガードナーが「普通なら思いつかないモノを何の疑いもなく作る会社」を掲げ、ニッチな製品を開発し続けられる要因は何だろうか。

「モノやサービスが飽和状態の今、万人に安くたくさん売るという発想は時代遅れです。誰もが口を揃えて良いという製品・サービスも、必需品の市場も存在しません。人々の“好き”は多様化し、深くなっています」と福山さん。

その意識があるからこそ、より狭く、より深くというニッチofニッチに切り込んでいるのだ。福山さんはこうも言い切る。「単に良い製品・サービスを欲しがるお客様はもういない」と。

お客さまが作り手の使命や志、価値観が自分に合うと感じたら近づいてくる、というのだ。だからこそ、作り手である自らが深く興味関心を持っていたり、心から好きだったりするものを素直に考えるのが一番だと福山さんは話す。

結果、ガードナーは先人が作った既存の市場ではなく、新たな市場を自ら作り出し、そこで勝負しているわけだが、これまでにないニッチ市場を作り出すため、自社のビジネスとは関係のない展示会にも足繁く通う。自分の内側にあるアイデアと社会課題を結びつけるための大事な時間である。

  • 「開発においては『スピード・スピード・スピード』を一番大事な戦術としています」と話す福山さん

    「開発においては『スピード・スピード・スピード』を一番大事な戦術としています」と話す福山さん

「自分とは縁のないカテゴリの展示会でも、『あれとこれを結びつけたら、こんなことができる』とひらめくことがあります。たとえば、スマートフォンの発明においては、元は別々の事業者が作っていた電話とカメラが融合したといえます。これは、ふたつの専門分野が結びついたということです。何と何とを組み合わせるかは、素人の方が柔軟な発想を持っています。私自身、いろいろなメーカーのその道40~50年のベテランの下へ行って『こんなことできませんか?』と尋ねることが多いです。すると『できるわけない。これだから素人は困る』と言われることが多いですが『どうしてできないのか』を問うと、大抵は『やったことがない』『これはこういうものなんだ』という答えにならない答えが返ってきます」

できるわけがない=その発想を持っていない、まだ挑戦していないだけなのである。相手から「できるわけない」と言われた瞬間から、福山さんの中では「必ず製品化してみせる」という熱い気持ちが滾(たぎ)る。相手の「できない」を覆せる自信があるからだ。こうして一般的には思いつかないアイデアを武器にニッチなものづくりを進めているのである。

見るべきはモノではなく「人」~ガードナー流モノづくりの流儀 #3

メーカーの下請けとして事業を営む企業の中には、下請けからメーカーに転換を図りたいと考えているところもある。ただ、思いはあっても何らかの理由でスタート地点に立てていない、試行錯誤している最中、うまくいかなかったなど、彼らを取り巻く状況はさまざまだ。

ガードナーは生産設備を持たないメーカーであり、多くの下請け先とも付き合いがあることから、事業を変革したい彼らにとってのヒントを持っているのではないかと考え、尋ねてみた。

  • 2023年9月に新しくなったオフィスはワクワクするモノで溢れている

    2023年9月に新しくなったオフィスはワクワクするモノで溢れている

同社が所有する開発道具といえばDIY用の工具とPCくらいである。それらを用いて社内で試作品を作り、大企業と取引をしている。OEM生産ではなく、大きな生産設備を持つメーカーに部品の1つ1つを作ってもらうのが特徴だ。「ベンチャー企業が大企業を下請けにしている」構図がここにある。

「現在下請けとして事業をされている企業は生産設備を持っているため、『自社の設備や素材を活用してモノづくりができないか』という発想になりがちです。ただ、これが良くありません。モノを売る相手は機械ではなく、人間ですから、人を見なくてはいけません。自社の資産を中心にした考え方では、世の中に求められる製品を作ることはできないでしょう。

自分自身の内側にあるニーズと人々の困り事や課題とを結びつけ、明確に作りたいモノができた瞬間から『自分たちはメーカーです』と言い切って、他社を下請けにするのです。同じ業界でも他業界でも生産設備や技術を持っている他社に依頼し、必要な部品を作ってもらえばいいのです。そうすれば自社ブランド製品を作るために新たな設備を入れる必要もありません。

そのとき、これまで下請け仕事で蓄積してきた技術は開発に生かせます。自社の技術と他社の技術の掛け合わせで、はじめはニッチかもしれませんが、大きく成長する市場ができる可能性はあります」

自社の強みを生かしながら、他社の強みと掛け合わせることで、これまでにない製品が生まれる可能性があると福山さんは語る。

権限を与えて「レベル5」となった組織で世界に挑む

現在、22人の個性豊かなメンバーで構成されるガードナー。スキルではなく「福山さんの価値観と合うかどうか」を重視して採用した人ばかりである。そんなメンバーがいきいきと動き、楽しげに会話する社内を見渡して福山さんは、「今や組織は自動運転レベル5(完全運転自動化)まで来ている」と話す。自走する組織は「社員を管理しないこと」「社員に権限を与えること」で作られてきた。

「そもそも他人に管理されたい人はいないでしょう。できれば上司も部下を管理したくないし、部下も上司に管理されたくない。だったら、コントロールすることをやめればいいんです。管理せずに権限を与えると、大抵の人は自分の頭で考えて行動するようになるんです。危機感を持って、自分ごととして捉えて、最後まで責任を持ってやり切るようになりますから」

組織の大きな特徴のひとつは雑談の多さだ。福山さん自身が「無駄話こそが大事」と考えていることから、社内では常に井戸端会議のようなコミュニケーションが発生し、そこでアイデアが生まれることもある。福山さんも社員から「社長、こういうモノを作りたいんですけど」と通りすがりに持ちかけられることが多く、いざ作るとなれば即着手するスピード感がある。

製品紹介ページには「COMING SOON」と、近いうちにお披露目される予定の品々が並んでいる。福山さんはもちろん、社員の内側にあるニーズから形になろうとしているモノばかりだ。最後に、福山さんに締めのコメントをもらった。

「成功しようがしまいが、好きなことにのめり込んで、実現したいことに向かっている途中が一番楽しいんです。だから、“今この瞬間”が一番楽しい。私にとって『仕事は人生の大道楽』。今後も好きな人たちと一緒に、人を喜ばせる製品づくりに取り組んでいきます」

ガードナーは福岡から世界を見据えている。すでに販売している自社製品は、そのまま海外に持っていってもスケールできると福山さんは確信している。この先、手に取る人、使う人にどんな驚きを与えてくれる製品が登場するのか、いちガードナーウォッチャーとして楽しみでならない。