「Fujitsu Uvance」事業の全体像
富士通は9月25日、同社が2021年に掲げた新事業ブランド「Fujitsu Uvance」について、改めてメディア向けに語る場を設けた。Fujitsu Uvanceとは、同社が持つコンピューティングやAI(Artificial Intelligence:人工知能)、ネットワークなどの技術基盤を用いて、特にサステナビリティの観点から社会課題の解決を目指すオファリングやソリューションを提供するものだ。
富士通執行役員の高橋美波氏は「これまでの10年間でデジタル技術が集約され、常時ネットワークに接続されるような時代になった。これからの10年間は、デジタル技術のイノベーションがサステナビリティに寄与していく時代になるだろう」と話を切り出した。
Fujitsu Uvanceでは、社会課題を解決するためのクロスインダストリーの4分野と、それらを支える3つのテクノロジー基盤の計7分野を重点領域に定めている。具体的には、「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」「Digital Shifts」「BusinessApplications」「Hybrid IT」の7分野だ。
富士通はこの7つの分野に対し、自社のIPだけでなく多くのパートナー企業らとの共創を通じて、社会課題を起点とした解決策の開発に挑む。その基盤として活用するのは、同社が特に強みとする「コンピューティング」「ネットワーク」「AI」「データ & セキュリティ」「コンバージングテクノロジー」である。
2022年時点で同社全体の売り上げは約3.7兆円、Fujitsu Uvance事業単体では約0.2兆円だ。これを2025年までにFujitsu Uvanceだけで0.7兆円へと成長させるとしている。これまでのような個社対応のシステムインテグレーションから、グローバルで共通したサービスを展開できる基盤の構築を目指す。
クラウドネイティブなオファリング開発も、Fujitsu Uvance事業の特徴だ。クロスインダストリーでの展開に対応するべく、クラウド技術を活用することで、同時に多数のパートナーとの連携が可能になる。さらに、迅速な機能拡張もクラウドを利用する利点だ。
Fujitsu Uvanceのオファリング開発例
説明会の中では、富士通がFujitsu Uvance事業で手掛けるオファリング・ソリューションのデモが展示された。以下、地球環境問題の課題や、デジタル社会の発展、人々のウェルビーイングの向上を切り口として、計4つのデモの様子を紹介しよう。
気候変動・カーボンニュートラル
ESG Strategyでは気候変動とカーボンニュートラルをテーマとして、適切なESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンスの頭文字を取ったもの)経営を実現するためのサービスを展開している。
今回のデモでは、環境のサステナビリティと企業のサステナビリティを両立させるための「デジタルリハーサル」の技術が展示されていた。これは、データを収集して可視化するだけでなく、次に取るべきアクションを提案する特徴を持つ。具体的には、製品を販売した後に、ユーザーが製品を使用する際に排出される温室効果ガスの排出量の最適化を支援するサービスだ。
各製品が製造過程で排出する温室効果ガス量や、ユーザーの利用中に排出するガス量をインプットすることで、どの地域でどのような製品が売れ、その結果どの程度のガスが排出されるのかをシミュレーション可能となる。さらに、当該の製品の部品を交換した場合や、販売を中止した場合の売り上げへの影響も確認できるため、経営判断にも利用できるそうだ。
出荷先の国別に排出されるガスの総量や売れ筋の製品をデータ分析することで、売上や利益、コストなどと照らし合わせながら事業戦略を検討するためのシミュレーションが実行できる。
責任あるサプライチェーン
サプライチェーンを支えるソリューションのデモとして、災害発生時のシミュレーション技術が披露された。災害発生時に、指定したエリアについて数時間後までの水害を予測できるため、道路の寸断といったリスクをいち早く回避して、途切れない配送を支援する。
富士通個社ではデータの連携や有効活用が難しいため、医療機関や配送業者などわれわれの生活を取り巻く幅広い業者間の連携を通じて、包括的なオファリングを提供するとしている。
デモで披露されたオファリングは、まずは各企業にまたがるデータを連携して、このデータに基づいたシミュレーションを作成し、さらには、特定のシナリオに問題(道路の寸断など)が生じる場合に代替する打ち手を提案するという、3段階のポイントを持つ。
ここでは、同社が強みとするコンピューティングやブロックチェーン、トレーサビリティの技術が生かされているようだ。
顧客・生活者体験の向上
現代はデジタル技術の発達によって、リアルな店舗だけでなくオンラインショッピング、セルフスキャン、Scan & Goなど、消費行動や消費者のニーズは多様化している。その一方で食品の廃棄ロスなどの問題も顕在化している。
そこで富士通は、労働生産性を高めながらも需要と供給のバランスを最適化するオファリング開発に着手した。商品・サービスの価格を需要と供給の状況に応じて変化させる「ダイナミックプライシング」の応用だ。
デジタル技術を活用して得たデータをAIによってリアルタイムで分析することで、個別に最適化された価格コントロールを実現するという。多様な購買体験を提供することで、廃棄ロスと同時に顧客満足度やロイヤリティを向上させるサービスとなっている。
QoL(生活の質)向上に向けたヘルスケアの推進
4つ目のデモは、個人を起点とした医療データの連携によって実現するヘルスケアだ。同社の強みでもある、電子カルテや診療データをここでは活用する。将来的には、こうした医療データに加えて健保組合のデータや食品のデータ、サプリメントの購買履歴のデータなども連携することで、個人個人の日々の生活に応じた疾患予測・予防が可能になるという。
デモで公開されたポータブルカルテは、患者の診療・検査データをいつでも患者自身がアプリ上で振り返ることができる。アプリでは診療の予定と履歴を時系列で整理しているため、状況をすぐに把握可能だ。カルテは検査結果を数値だけでなくグラフなどでも表示可能で、患者の主体的な健康状態の把握をサポートする。
医師など医療機関側が使用する患者ビューワでは、電子カルテや検査結果と、ウェアラブル端末で取得した患者の日常生活のデータを同時に確認できる。これまで医師は診察時の患者のワンポイントデータしか扱えなかったが、患者の同意に基づいて健康データを共有してもらうことで、非在院時の健康状態も把握できるようになる。
特に糖尿病など慢性疾患は診察時だけでなく日常生活が治療に重要となるため、医療機関からも好評なオファリングなのだという。