東京都市大学(都市大)は9月19日、エネルギー変換効率(以下「変換効率」)が26.5%の曲げることが可能な「ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」の開発に成功したことを発表した。

同成果は、都市大 理工学部 電気電子通信工学科の石川亮佑教授、同・齊藤公彦特別研究員らの研究チームによるもの。詳細は、9月18日にポルトガル・リスボンで開催された国際イベント「40th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition(EU PVSEC 2023)」にて発表された。

軽量で薄く、曲げることも可能なフレキシブル性を持つペロブスカイト太陽電池は、建物の壁面に垂直に貼り付けたり、重量物の設置できない工場のトタン屋根に取り付けたり、さらには電柱や雨樋などにも曲げて貼り付けたりといった、従来のシリコン太陽電池では不可能な場面での利用が可能なことから、これまで以上に太陽光発電の利用率を増やせる技術として期待されている。

現状、ペロブスカイト太陽電池はすでに25%以上の高い変換効率が達成されているものが報告されているが、さらなる高効率化のアプローチとしてペロブスカイト太陽電池と別の太陽電池を組み合わせるタンデム化が注目されている。さまざまな組み合わせが提案されている中で、最も高い効率が期待されているのがペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池だが、ペロブスカイト太陽電池の持つ薄くて曲げられるフレキシブル性を失うという大きな課題があった。

そこで研究チームは今回、タンデム型太陽電池のボトムセルとして曲がるほどに薄いシリコンヘテロ接合太陽電池を開発し、軽量・フレキシブルなペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池の実現を目指すことにしたという。

  • 今回開発されたフレキシブルなペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池

    (1)今回開発されたフレキシブルなペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池。(2)同タンデム太陽電池を別角度から。(3)タンデム太陽電池の概念図 (出所:都市大Webサイト)

今回の研究における技術的ポイントは以下の3点などが挙げられるとする。

  1. 表面ミラー/裏面テクスチャ構造を有する薄いシリコン基板を作製するプロセスの確立
  2. そのシリコン基板のミラー表面に光閉じ込めのための比較的サイズが小さい凹凸を形成し、高性能なボトムセルを作製すること
  3. そのボトムセルの表面における凹凸の上に、ペロブスカイト太陽電池の特徴の1つである塗布といった簡便な工程により綺麗にペロブスカイト層を堆積すること

今回の研究では、結晶シリコンウェハの厚さを薄くしても性能が高いシリコンヘテロ接合太陽電池が作製され、その上にペロブスカイト太陽電池を積層化することで、「軽くて曲げられるペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池」の開発に成功したとする。

これまでに30%以上の高い変換効率が報告されているペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池は、厚さが200μm程度のシリコンウェハを用いることが多く、曲げることができなかったという。それに対し、今回新たに確立されたプロセスを用いることで、シリコンウェハを曲げられるほど薄くすることに成功したとする。その結果、20%を超える高効率なシリコンヘテロ接合太陽電池が開発された。

  • 各種太陽電池の変換効率

    各種太陽電池の変換効率(セル面積1cm2以上)と曲げ性の比較表(出所:都市大Webサイト)

さらに、その薄型シリコン太陽電池の上にペロブスカイト太陽電池を積層化。これにより、軽量・フレキシブルなペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池の作製に成功したとする。トップ側のペロブスカイト太陽電池は厚さ1μm程度で、今回作製されたボトム側のシリコン太陽電池の厚さは83μm程度のため、タンデム太陽電池にしても曲げることができるという。変換効率はセル面積1cm2あたり26.5%が達成されたとするほか、ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池に「曲げられる」付加価値を持たせた例は世界的に見ても初めてだと研究チームでは説明しており、新しい市場への展開が期待されるとしている。なお、今回開発されたペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池は、界面パッシベーションの改善や、両面受光構造の導入によりさらなる効率向上が見込めるとのことで、研究チームは今後、最終的に35%以上の変換効率の実現を目指すとしている。